※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
認知症の方の「家に帰りたい」という言葉は、単なる症状ではなく、その人なりの不安や安心への願いの表れかもしれません。
この記事では、帰宅願望が起こる理由や本人の世界、適切な関わり方について解説し、
「帰宅願望」という言葉の向こう側にいる“その人自身”を見ることの大切さをお伝えします。
【要点】
- 認知症の方が「家に帰りたい」と言う理由が分かる
帰宅願望の背景には、見当識障害による混乱や不安、安心したい気持ちがあることを解説します。 - 本人の世界と、介護者から見える世界の違いが分かる
「帰りたい」という言葉の裏にある思いや、その人が感じている不安について理解を深めることができます。 - 「帰宅願望」という言葉の向こう側にいる“その人自身”を理解する視点が分かる
「どう止めるか」という対応方法だけではなく「何を求めているのか」を考える認知症ケアの視点についてお伝えします。
【この記事で分かること】
・認知症の方が「家に帰りたい」と言う理由
・帰宅願望の背景にある不安や混乱、安心への願い
・本人の世界で何が起きているのか
・帰宅願望への関わり方と「その人自身」を見るための視点
家族介護・介護職のどちらにも役立つ、
認知症の方の「家に帰りたい」という気持ちを理解し、より良い関わり方を考えるための記事です。
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
はじめに
- 毎日「帰りたい」と言う
- 夕方になると落ち着かない
- 「もう帰ります」と荷物をまとめる
- 「ここは自分の家じゃない」と外に出てしまう
認知症介護の中でも、特に多い困りごとのひとつが“帰宅願望”。
しかし、この「帰りたい」は、本当に“家に帰りたい”のでしょうか。
実はそこには、
- 不安
- 混乱
- 孤独
- 安心したい気持ち
- 元の生活を取り戻したい思い
など、さまざまな感情が隠れていることがあります。
この記事では、
・認知症の方が「帰りたい」と言う理由
・本人の世界で何が起きているのか
・介護者としてどのように関わればよいのか
について、わかりやすく解説します。
帰宅願望とは?
「帰りたい」と繰り返し訴える状態
帰宅願望とは、
- 「家に帰る」
- 「仕事に行かないと」
- 「子どもが待っている」
- 「もう遅いから帰る」
など、現在いる場所から離れて“どこかへ帰ろうとする”状態です。
これは、認知症のBPSD(行動・心理症状)のひとつとして知られています。
入居した施設で「家に帰る」と訴える方。
デイサービスやショートステイで「迎えを呼んでほしい」と不安になる方。
そして、自宅で生活していても「家に帰る」と外へ出ようとする方。
このような姿は決して珍しくありません。
それだけ
「今いる場所が分からない」
「なぜここにいるのか分からない」
という不安は、認知症の方にとって大きなものなのです。
そして重要なことは、帰宅願望を
「困った行動」としてだけ見ないことです。
「帰りたい場所」は、本当に“家”なのか?
ここは非常に大事なポイントです。
認知症の方が言う「家」は、
- 昔住んでいた実家
- 子育てしていた頃の家
といった、場所を指しているだけではなく
- “安心できた時代”
- “役割があった場所”
などを意味していることがあります。
つまり「物理的な家」ではなく、
「安心できる場所へ戻りたい」という気持ちなのです。
なぜ帰宅願望が起きるのか
① 見当識障害による混乱
認知症では、
- 時間
- 場所
- 状況
を理解する力が低下します。
すると、
- 「ここがどこか分からない」
- 「なぜここにいるのか分からない」
- 「知らない人ばかりいる」
という不安が生まれます。
私たちでも、
突然、知らない場所に連れて行かれ、
理由も分からなければ怖くなるでしょう。
帰宅願望は、その“混乱への反応”でもあるのです。
② 不安を処理できない
認知症では、
「不安を整理する力」も低下していきます。
普通であれば、
今は施設にいる → 家には家族がいる → だから、ここにいても大丈夫
と頭で整理できます。
しかし認知症では、
不安が強く残りやすくなってしまいます。
その結果、
「家に帰れば安心できる」
「良く分からないけど、自分がいる場所はここではない」
という考えに繋がることがあります。
③ 昔の役割意識が残っている
- 子どもの世話をしないと
- 夕飯を作らないと
- 仕事に行かないと
こうした訴えも多く見られます。
これは単なる“記憶違い”ではありません。
その人にとって、
かつての役割は“人生そのもの”だったからです。
特に、
- 真面目だった人
- 家族を支えてきた人
- 責任感が強かった人
ほど、帰宅願望として表れやすいことがあります。
帰りたいのではなく「役割を果たしたい」のかもしれない
実際の現場でも、
「会社に戻らないと」
「職場に迷惑がかかる」
「子どもが帰ってくる前に夕飯を作らないと」
と真剣な表情で話される方は少なくありません。
それは単なる勘違いではなく、
その人が長い人生の中で大切にしてきた責任感や役割が
今も心の中に残っているからなのです。
④ 「夕方」に強くなる理由(夕暮れ症候群)
帰宅願望は、
夕方〜夜に強くなることがあります。
これは、
- 周囲が暗くなる
- 人が慌ただしくなる
- 疲労が溜まる
- 不安が増える
などが関係しています。
“夕方は家に帰る時間”という長年の生活習慣も影響します。
つまり本人の身体や感覚が、
「そろそろ帰る時間だ」
と反応している可能性があるのです。
※夕方になると不安や混乱が強くなる「夕暮れ症候群」については、こちらの記事で詳しく解説しています。
・夕暮れ症候群とは? ~本人らしさを理解し、寄り添うために~
※夕方の不穏が起こる背景には、疲労や空腹、水分不足など身体的な要因が隠れていることもあります。
・夕方の不穏は「認知症」だから? ~身体に起こる“基本”を知る~
本人の世界では何が起きているのか
私たちが見ている世界
- 安全な施設
- 支援を受けられる場所
- 家族が入居を決めた場所
- 自分らしく生活できる空間
本人が感じている世界
- 知らない場所
- 自分の意思で来た記憶がない
- 周囲が理解できない
- なぜここにいるのか分からない
つまり、私たちと本人では
“世界の見え方そのもの”
が違うのです。
ここを理解しないまま、
「ここがあなたの家ですよ」と説得しようとしても、
本人には届きにくいことが多いのです。
やってはいけない対応
① 否定する
「ここが家でしょ」
「さっきも説明しましたよ」
これは不安を強めやすい対応です。
本人からすると、
“分からないことを責められている”
感覚になることがあります。
② 正論で説得する
「家はもうない」
「施設に入ったでしょ」
「何回言えば分かるの」
これは本人の安心には繋がりません。
認知症介護では、
“正しさ”より“安心”
が重要になる場面があります。
③ 無理に引き止める
強引に止めると、
- 怒り
- 不信感
- 拒否
- 暴力
に繋がることがあります。
特に、直接身体に触れたり掴むような対応は、
本人の恐怖心や不信感を強めることになってしまうでしょう。
大切なのは「止める」より「理解する」
帰宅願望の対応で大切なのは、
「どう止めるか」
ではなく、
「なぜ帰りたいのか」
を考え、その思いに寄り添おうとすることです。
帰宅願望への具体的な対応
① まず気持ちを受け止める
- 「帰りたいんですね」
- 「不安ですよね」
- 「心配なんですね」
まずは、
感情を受け止めることが大切です。
ここで重要なのは、
“事実”や“現在の状況”ではなく、
“気持ち”に寄り添うことです。
② 安心できる会話へ切り替える
例えば、
- 「どんな家でしたか?」
- 「誰がいましたか?」
- 「料理がお上手だったんですね」
など、相手の“安心できる場所”について肯定できるような会話が良いでしょう。
そうすることで“帰りたい気持ち”の奥にある、
- 思い出
- 安心
- 誇り
- 役割
に触れることができます。
それだけでも、気持ちが落ち着くことがあります。
③ 役割を作る
帰宅願望の背景には、
「やることがない」
「必要とされていない」
という不安もあります。
そのため、
- 洗濯たたみ
- 食器拭き
- 野菜切り
- 掃除
など、
役割を持ってもらうことで落ち着くケースがあります。
④ 環境を整える
- 落ち着ける席
- 馴染みの音楽
- 写真
- 昔の話題
- 安心できる職員
といった、安心できる“何か”があることで
“ここは危険ではない”
と感じられる環境づくりも大切です。
「嘘をついてもいいのか?」問題
これは現場でも悩みやすいテーマです。
例えば、
「今日はもう遅いから明日にしましょう」
などの声かけ。
一概に正解・不正解ではありません。
大切なのは、
“職員都合でコントロールする嘘”
なのか、
“安心のための関わり”
なのかです。
認知症ケアでは、
本人の世界を完全に否定しないことも重要になります。
家族が苦しくなりやすい理由
帰宅願望は、家族を深く傷つけることがあります。
- 「家に帰りたい」
- 「ここは嫌だ」
- 「連れて帰って」
そう言われると、
- 罪悪感
- 無力感
- 施設に入れた自分が悪いのでは
という思いを抱きやすくなります。
中には、
「施設に入れたことを恨んでいるのではないか」
「私と一緒にいたくないのではないか」
と感じてしまう家族もいます。
ですが多くの場合、それは家族への評価や批判ではありません。
本人の中にある説明のつかない不安や混乱が、
「家に帰りたい」という言葉になって表れていることが多いのです。
「帰宅願望をゼロにする」は難しい
これは非常に大切な視点です。
認知症ケアでは、
“症状を完全に消す”
ことより、
“安心できる時間を増やす”
ことが重要になる場合があります。
帰宅願望があっても、
- 笑顔の時間
- 落ち着く時間
- 安心できる関わり
を積み重ねることには、大きな意味があります。
「帰宅願望」という言葉への違和感
最後に、
少しだけ言葉について考えてみたいと思います。
「帰宅願望」
という言葉は、
どこか“問題行動”のようにも聞こえます。
ですが実際には、
- 不安
- 安心したい気持ち
- 誰かを求める気持ち
- 元の自分を失いたくない思い
が込められていることがあります。
だからこそ、
「どう止めるか」
だけではなく、
「その人は、何を求めているのか」
を考えることが、
認知症ケアでは大切なのだと思います。
言葉の向こう側の姿を見る
私たちは時として、
「帰宅願望が強い人」
という言い方をしてしまいます。
もちろん記録や情報共有のためには必要な言葉かもしれません。
しかし、その言葉だけでその人を見てしまうと、
大切なものを見失ってしまうことがあります。
そこにいるのは、
家族を支えてきた人であり、
責任を持って仕事をしてきた人であり、
誰かを大切に思いながら生きてきた一人の人間です。
そして今、
その人は不安や混乱の中で「帰りたい」と訴えているのかもしれません。
「帰りたい」は、本当に症状なのだろうか
誰しも「家に帰りたい」と思う気持ちは、ごく自然なものではないでしょうか。
疲れた時。
不安な時。
安心したい時。
私たちもまた「早く家に帰りたい」と思いながら日々を生きています。
でも私たちは、自分自身のその気持ちを「帰宅願望」とは呼びません。
そう考えた時、
ご利用者の「帰りたい」という言葉も、単なる“症状”として見るだけではなく、
「安心したい」
「自分らしくいたい」
「落ち着ける場所へ戻りたい」
という、人として自然な感情なのかもしれないと受け止めることができます。
もしかしたら、
ご利用者の「家に帰りたい」という気持ちを、“帰宅願望”という言葉だけで捉えなくなった時。
私たちは初めて、
その方を理解するためのスタート地点に立てるのかもしれません。
おわりに
認知症の方の「帰りたい」という言葉は、
介護者を困らせるためのものではありません。
そこには、
- 不安
- 混乱
- 孤独
- 安心したい気持ち
があります。
そして時には、
「元の自分でいたい」
という願いも含まれているのかもしれません。
帰宅願望を“止める対象”“困った言動”としてだけ見るのではなく、
「この人は今、どんな世界で生きているのだろう」
と考え、
「帰りたい」という言葉の奥にある気持ちに目を向けること。
それが、認知症ケアの大切な第一歩なのだと思います。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。
詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!
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認知症の方が「家に帰りたい」と訴える背景には、さまざまな要因が関係しています。
帰宅願望は単なる“困った行動”ではなく、認知症による中核症状や、その人が感じている不安が形を変えて表れたものとも言えるでしょう。
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