「帰宅願望」という言葉の違和感 ~「帰りたい」は症状ではなく心の叫び~

認知症ケアについて
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※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。

ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。

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📝 この記事の要約

【この記事で伝えたいこと】

「帰りたい」という言葉の奥には「安心したい」「落ち着きたい」という自然な気持ちが隠れています。
この記事では、その言葉を“困った行動”ではなく“心の声”として捉え「帰りたい」と言われる理由と、寄り添うための関わり方について解説します。


【要点】

  1. 「帰りたい」と言われる理由が分かる
    認知症の方が「帰りたい」と言う背景には、不安や安心を求める気持ちがあることを、人の自然な感情として読み解きます。
  2. 不安を強めてしまう対応と、安心につながる関わり方が分かる
    現実を正そうとする関わりが不安を増幅させる理由と、気持ちに寄り添う声かけ(NG例・OK例)を通して、安心を引き出す対応を解説します。
  3. 「帰宅願望」という捉え方を見直す視点が分かる
    「困った行動」としてではなく「安心を求める心の声」として捉えることで、関わり方やケアの質がどう変わるのかを解説します。
  4. 家族としての受け止め方と関わりのヒントが分かる
    「なぜ帰りたいと言うのか」という戸惑いや不安に対して、気持ちの受け止め方と、安心につながる関わり方のヒントをお伝えします。

【この記事で分かること】

・認知症の方が「帰りたい」と言う本当の理由
・不安を強めてしまうNG対応と、安心につながる関わり方
・「帰りたい」という言葉を“心の声”として受け止める視点

家族介護・介護職のどちらでも、安心と落ち着きを引き出す関わりがすぐに実践できる内容です。

※このあと本文で、具体例や実践方法を交えながらやさしく解説します。

「帰りたい」の奥にある、心の声

「帰宅願望がある方です」――介護の現場では、よく聞く言葉ではないでしょうか。

夕方になると「家に帰らなきゃ」「子どもが待ってるの」と、そわそわし始める。
中には、玄関に向かって歩き出したり、外に出ようとされる方もいて、
職員としては対応に困ったり、食事の準備の手が止まったり――時には、鍵をかけることもあるかもしれません。

でも、ちょっと立ち止まってみませんか。

その「帰りたい」という言葉、ほんとうに“症状”でしょうか?

認知症で「帰りたい」と言うのはなぜ?

私たちも仕事が終われば「早く帰りたいな」と思うのではないでしょうか。
疲れているとき、落ち着かないとき、何か不安を感じているとき――
「家に帰れば、きっと安心できる」と、自然に思います。

それを誰も“帰宅願望”とは言いません
それは、私たちにとって家が“帰る場所”であり“自分らしくいられる場所”だからです。

認知症の方が「帰りたい」と言われるとき――
それは、まさに私たちと同じように「安心したい」「落ち着きたい」「自分の居場所に戻りたい」という、ごく人間らしい気持ちなのではないでしょうか。

「帰りたい」は、本当に家に帰りたいわけではない

「家に帰りたい」という言葉の奥には、かつての生活のリズムや誰かとのぬくもり、やさしく流れていた日々の記憶を求めているのかもしれません。

たとえば、

  • 毎日ごはんを作って、家族を迎えていたあの頃
  • 母と暮らしていた、子ども時代の安心感
  • 誰かがそばにいて、自分の役割があったあの時間
  • 愛する家族と一緒に、一番自分らしく過ごせた穏やかな日々

そういった「安心できていた日常」こそが、その方にとっての“家”なのだと思います。

認知症のある方は、今の時間や場所を正しく認識するのが難しいことがあります。
でも「安心できる場所を探す気持ち」は、ちゃんと今ここに生きているのです。

認知症で「帰りたい」と言われた時の対応方法

認知症の方から『帰りたい』と言われたとき、つい

「ここがあなたの家ですよ」

と、現実を伝えたくなることもあると思います。
けれど、そんな言葉がかえって不安を大きくしてしまうことも少なくありません。

だから、まずは受け止めてみませんか?

🗣 NG例
「今は夕方ですから、もうお家には誰もいませんよ」
「ここがあなたの家ですよ」
「今日は帰れないんですよ」

🗣 OK例
「そうですよね。ご家族のことが心配なんですね」
「どんなお家でしたか?」
「何かご用事があったんですか?」

そう問いかけながら、心の奥の安心したい気持ちに寄り添うこと。
それだけで、表情がふっとやわらいでくることがあります。

また、今ここが“安心できる場所”になるような関わりも大切です。
照明や家具、音楽や香り、食事の雰囲気――
そんな小さな工夫が「ここでも大丈夫」と感じてもらえる環境を作ってくれます。

「帰りたい」は安心を求めるサイン

「帰りたい」という言葉は、単なる“問題行動”ではなく「安心できる場所を求めるサイン」です。

現実を正そうとする関わりは、不安や混乱を強めてしまうこともあります。

大切なのは、その言葉の奥にある気持ちを受け止めること。
安心したい、落ち着きたいという思いに寄り添うことで、表情や行動がやわらいでいくことがあります。

「帰宅願望」と見るのではなく「安心したい心の声」として聴いていくと、
私たちの関わり方は、やさしく変わっていくのです。

💡 ポイントまとめ

  • 「帰りたい」は安心を求めるサイン
  • 否定や訂正は不安を強めてしまう
  • 気持ちを受け止めるだけで落ち着くことがある
  • “今ここ”を安心できる場所にする関わりが大切
  • 安心できる関係作りが何よりも重要

「帰宅願望」という言葉がふさわしくない理由とは

「帰宅願望」という言葉には、どこか「困った行動」「抑えるべきもの」といった響きがあります。

ですが、その人が本当に求めているのは、
制止されることではなく「分かってもらえること」ではないでしょうか。

「帰りたい」には「ここでは落ち着かない」「どこかに、自分が安心できる場所があるはず」という、
自分の居場所を探す、切実な感情が込められています。

たとえ今がどんな状態であっても、人は「自分の居場所」を求めます。

それは、認知症であっても変わらない――いや、変わらないからこそ、その思いが言葉になって現れるのです。

家族が「帰りたい」と言われたときの、受け止め方

家で認知症の親を介護している時に「家に帰りたい」と繰り返されると、ご家族もつらく感じるかもしれません。

「私のことを忘れてしまったの?」「ここが家なのに、なぜ?」と、戸惑いと悲しみが混じることもあるでしょう。

ですがその「帰りたい」は、決して“あなたのもとを離れたい”という意味ではありません。
むしろ、心のどこかで「安心できる繋がりを、もう一度感じたい」という思いの表れである、といった方が良いかもしれません。

どうか、ご自分を責めないでください。

そして、本人の“安心したい気持ち”を一緒に感じてあげてください。
そっと手を握り「ここにいるよ」「大丈夫だよ」と伝えるだけで、その人の心は、少しずつ落ち着いていくことがあります。

気持ちはきっと、伝わります。

それは、特別なことではありません。

🔁 記事のまとめ

  • 「帰りたい」は“困った行動”ではない
  • 安心できる場所を探しているサイン
  • 正すよりも、受け止めることが大切

おわりに

認知症の方の「帰りたい」は“安心したいサイン”

認知症の方の「帰りたい」は“ここでは安心できない”という心の動きの表れです。

それは決して特別なことではなく、誰もが感じる自然な感情です。

「帰りたい」という言動を、支援者にとって『困った症状』として抑えるのではなく『安心を求める心の声』という、本人にとっての困りごととして捉えてみる。

そうすることで、本人と、支える私たちの関係が、もう少しだけやさしく変わっていきます。

そして、安心できる関係や環境を重ねることが、その人の“帰る場所”をつくっていくのだと思います。

わたしたちは、みんな“帰る場所”を探している

わたしたちは、だれもが“帰る場所”を探しています。

その気持ちに、そっと寄り添える介護でありたい。

「帰りたいね」と言われたとき、心を通わせられるようなひとときをていねいに積み重ねていけば、
きっと、本人も支援者も、お互いが安心できる”家”に近づいていける――私は、そう信じています。

ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。

詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!

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