介護施設の“当たり前”を見直す② ~ケア編:ケアの中に潜む転倒・事故のリスク~

チームケアを磨くために
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※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。

ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。

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📝 この記事の要約

【この記事で伝えたいこと】

「当たり前」と思われている日常のケアの中には、転倒や事故につながるリスクが潜んでいます。
しかし、それらは単に「危険だからやめる」ものではなく、本人の状態や生活背景を踏まえたうえで、安全とその人らしさのバランスを考えることが重要です。

この記事では、事故予防の視点と、個別性・チームでの判断・仕組みづくりの大切さについて解説します。


【要点】

  1. 日常の「当たり前」に潜む事故リスクが分かる
    靴の履き方・スリッパ・食事姿勢・車いす操作など、見過ごされがちなケアの中にある転倒・事故の要因を具体例から整理します。
  2. 安全とその人らしさを両立する考え方が分かる
    一律に禁止するのではなく、本人の状態や生活習慣を踏まえた判断の重要性と「安全と尊厳」のバランスの取り方を解説します。
  3. 個別性・チーム・仕組みで支える事故予防の視点が分かる
    職員間での共有ポイントや、個人の注意に頼らない仕組みづくり、実践に活かせるケア判断の考え方を紹介します。

【この記事で分かること】

・日常の「当たり前」のケアに潜む転倒・事故リスク
・安全とその人らしさを両立するための考え方と判断のポイント
・個別性を踏まえたケアと、チームで共有すべき視点や仕組みづくり

家族介護・介護職のどちらでも、事故予防とその人らしさを両立するケア判断が実践できる内容です。

※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。

はじめに

介護施設では、日々のケアの中で多くの「当たり前」が存在しています。

靴を履く、食事をする、車いすに座る、立ち上がる。

どれも特別な行為ではありません。
むしろ、日常のごく普通の動作です。

しかし、介護の現場ではその「普通」が転倒事故や怪我につながることがあります。

しかもその多くは「危険な行為」として意識されているものではなく、

  • いつの間にか習慣になっている
  • 忙しさの中で見過ごされている
  • 深く考えずに続けられている

といった“何気ないケア”です。

この記事では、介護現場で見られる「当たり前」のケアの中に潜むリスクについて、
いくつかの具体例を挙げながら考えてみたいと思います。

靴のかかと踏み

小さな習慣が転倒の原因になる

施設の中で、ご利用者が靴のかかとを踏んだまま歩いている場面を見ることがあります。

職員としても

「施設の中だし危なくない」
「本人が楽だから」
「毎回履き直すのも大変」

と考え、そのままになっていることも少なくありません。

しかし、かかとを踏んだ状態の靴は、非常に不安定な履き方です。

なぜなら

  • 足が靴の中で固定されない
  • 踵が浮き、重心が不安定になる
  • 靴が脱げやすい

といった状態になるためです。

高齢者は

  • 筋力低下
  • バランス能力の低下
  • 反射速度の低下

があるため、わずかなバランスの崩れが転倒に直結する可能性があります。

「ちょっとしたこと」のように見えるこの習慣も、
実は転倒リスクを高める要因の一つなのです。

例外もある|一律に禁止しない視点

ただし大切なのは、一律に「かかとを踏んではいけない」とすることではありません。

本人がその履き方に慣れており、歩行が安定している場合や、短距離移動で危険性が低いと判断される場合には、無理に修正することがかえって不安や混乱を招くこともあります。

重要なのは、

  • 歩行の安定性
  • 靴の脱げやすさ
  • つまずきのリスク

といった点を評価し、職員間で共有することです。

そのうえで、安全性が低いと判断される場合には、本人の理解や納得を得ながら履き方の修正や靴の変更を検討していくことが求められます。

スリッパ歩行

室内だから安全とは限らない

同じように見落とされがちなのがスリッパ歩行です。

家庭では当たり前でも、介護施設では必ずしも安全とは言えません。

スリッパには次のような特徴があります。

  • 足を固定しない
  • つま先が引っかかりやすい
  • 脱げやすい

高齢者は歩行時にすり足になることが多く、スリッパの先端が床に引っかかりやすくなります。

また、スリッパが脱げた瞬間にバランスを崩し、転倒するケースもあります。

そのため多くの施設では

  • かかとのある靴
  • マジックテープ式の介護シューズ

などを推奨しています。

「施設の中だから安全」という感覚は、時に事故の見落としにつながることがあります。

安全だけではない|その人らしさとのバランス

ですが、安全性を優先するあまり、
本人の意向やこれまでの生活習慣まで否定してしまうことが、
必ずしも良い支援とは言えません。

大切なのは「スリッパ=危険だから禁止」と一律に判断するのではなく、
その人自身の状態を丁寧に見ていくことです。

例えば、

  • どの程度の運動能力があるのか
  • 危険に対する気づきや回避行動が取れるのか
  • スリッパが脱げた際に、どのような動きをするのか

といった点を把握し、
職員間で「どこに注意して見ていくべきか」が共通認識として持てているのであれば、

その人らしい生活を支えるという意味で、
あえてスリッパを使い続けるという選択もできるでしょう。

特に認知症ケアの観点からは、
これまでの生活習慣や馴染みのあるものを大切にすることは、
安心感や安定した生活につながる重要な要素でもあります。

判断の分かれ目|変更を検討するタイミング

一方で、

  • 以前の習慣自体を忘れている
  • 靴への変更に対する強いこだわりがない
  • スリッパ使用によるリスクが明らかに高い

といった場合には、
本人やご家族と話し合いながら、靴への変更を検討することも必要になってきます。

重要なのは「何が正しいか」ではなく、
その人にとって何が一番良いのかという視点で考えることです。

安全と尊厳、その両方をどう支えていくか。

そのバランスを考え続けることこそが、
介護の専門性なのではないでしょうか。

食事時の姿勢

姿勢の乱れは誤嚥と転倒の原因になる

食事介助の場面でも、姿勢はとても重要です。

例えば

  • 体が横に傾いている
  • 深く座れていない(お尻が前にずれている)
  • 骨盤が後ろに倒れている(仙骨座り・背中が丸くなる)

といった姿勢で食事をしている方を見ることがあります。

この状態では

  • 誤嚥のリスク
  • 食事の疲労
  • 食事量の低下

などが起こりやすくなります。

また、姿勢が崩れていると

  • 椅子からずり落ちる
  • 車いすから滑り落ちる

といった事故につながることもあります。

食事は単なる栄養摂取ではなく、身体機能と安全に直結する行為です。

そのため

  • 深く座る
  • 足を床につける
  • テーブルとの距離を整える

といった基本的な姿勢調整がとても大切になります。

安全だけではない|食事の楽しみとのバランス

とはいえ、常に理想的な姿勢を保つことが、その人にとって最善とは限りません。

姿勢の修正に強い抵抗がある場合や、過度な調整によって食事意欲が低下してしまう場合には「安全」と「楽しみ」のバランスを考える必要があります。

例えば、

  • 少し姿勢が崩れていても、むせ込みが少なく安定して食べられている
  • 姿勢を整えることで逆に緊張が高まる

といったケースでは、無理に正そうとすることが必ずしも良い結果につながるとは言えません。

その人の状態や反応を見ながら、

安全を確保しつつ、食事を楽しめる形を探ること

が大切です。

車いすの基本的な使用方法

「慣れ」が事故を生むこともある

車いすは介護現場で非常に多く使用される福祉用具です。
しかし、日常的に使うからこそ、基本が曖昧になっていることもあります。

例えば、

  • フットレストを上げずに立ち上がる
  • ブレーキを忘れる
  • 前傾姿勢のまま移動する

といった場面です。

どれも「忙しいときに起こりやすい」ことですが、
実は大きな事故につながる可能性があります。

判断が求められる|一律ではない車いす介助

車いすの操作や使用方法には基本がありますが、これもまた一律に当てはめるだけでは不十分です。

例えば、

  • 自分で立ち上がろうとする意欲が強い方
  • 手順を理解しきれない認知症の方

など、それぞれの状態によって必要な対応は変わってきます。

重要なのは、

「何ができて、どこにリスクがあるのか」

を見極めることです。

そのうえで、

  • 見守りを強化するのか
  • 環境を調整するのか
  • 介助方法を工夫するのか

といった対応をチームで共有していくことが、事故予防につながります。

フットレストを上げる

立ち上がり時の基本動作

車いすから立ち上がる際、フットレストを上げることは基本中の基本です。

しかし現場では、

  • そのまま立とうとする
  • 職員が慌てて介助する

といった場面が見られることもあります。

フットレストに足が乗ったまま立とうとすると、

  • 足が前に出ない
  • 重心が前に移動できない

ため、前方へ転倒する危険があります。

特に認知症の方は、

  • 手順を忘れる
  • 焦って立とうとする

ことがあるため、職員の注意が必要です。

車いすのブレーキ忘れ

転倒事故の典型例

車いす事故の中でも多いのがブレーキのかけ忘れです。

例えば、

  • 移乗介助のとき
  • トイレ介助のとき
  • 食席への移動時

など、立ち上がる瞬間に車いすが動き、転倒してしまうケースがあります。

これは非常に基本的なことですが、
忙しいときほど抜けやすいポイントでもあります。

そのため現場では「ブレーキ確認」を習慣化することが重要です。

事故を防ぐのは個人ではなく仕組み

そのためには『確認の仕組み』をどう作るかが重要です。

単に「気をつける」だけではなく、

  • 声に出して確認する
  • 介助の流れの中に組み込む

といった形で、チームとしての習慣にすることが事故防止につながります。

個人の注意力に頼るのではなく、
誰でも同じように安全を確保できる仕組みを作ることが大切です。

車いすの細かなテクニック

止まり方で安定性が変わる

あまり知られていませんが、車いすには止まり方のコツがあります。

それは、

一度少し前に出てから、後ろに下がって止まる

という方法です。

こうすることで、

  • 前輪(キャスター)が前を向く
  • 車いすの安定性が高まる

という効果があります。

車いすの前輪は自由に回転するため、
向きが横を向いているとバランスが不安定になることがあります。

このような小さな技術も、事故予防には大きな意味があります。

座りっぱなしにしない

褥瘡と不穏の原因になることも

車いす利用者に多いのが、長時間同じ姿勢で座り続けてしまうことです。

これは

  • 褥瘡(床ずれ)
  • 血流低下
  • 痛み
  • 不快感

などの原因になります。

また、身体の不快感が続くと

  • 落ち着かない
  • 立ち上がろうとする
  • 不穏行動

につながることもあります。

結果として、

転倒のリスクが高まることもあります。

そのため

  • 定期的な体位調整
  • 姿勢の確認
  • 立ち上がりの機会

を作ることが大切です。

関わりすぎない視点|無理のない支援

とはいえ、頻繁な体位調整や姿勢の確認が、すべての方に適しているわけではありません。

体力や意欲、生活リズムによっては、

  • 何度も調整することで疲れてしまう
  • 頻繁な関わりがかえって不穏を招く

といったケースもあります。

そのため、

  • 本人の体調
  • 活動量
  • 生活の流れ

を踏まえながら、

無理のない範囲で動く機会を作ること

が重要です。

「当たり前」を疑う視点

介護の現場では、

「いつもこうしている」
「前からそうだった」

という理由で続いているケアがたくさんあります。

しかし、その中には

  • 本当は危険なもの
  • 改善できるもの
  • 事故の原因になりうるもの

が含まれていることがあります。

大切なのは、

“慣れ”を疑う視点

です。

小さな違和感に気づき、

「これは本当に安全だろうか?」

と考えることが、事故予防につながります。

おわりに

介護施設で起こる事故の多くは、
特別な状況ではなく日常のケアの中で起こります。

つまり、

事故は「当たり前」の中に潜んでいる

とも言えます。

靴の履き方
食事の姿勢
車いすの扱い方

どれも基本的なことですが、
基本だからこそ見落とされやすいものです。

しかし、こうした一つ一つのケアを丁寧に見直していくことが、
結果として

  • 転倒事故の予防
  • ケアの質の向上
  • 利用者の安心

につながっていきます。

日常を見直すことが専門性につながっていく

介護の専門性とは、
特別な技術だけではありません。

日常のケアを見直し続ける姿勢

こそが、安全で質の高い介護を支える力になるのではないでしょうか。

ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。

詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!

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