※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
認知症の方が同じことを何度も聞く背景には、単なる物忘れだけではなく、不安や混乱、安心したい気持ちがあります。
この記事では「なぜ繰り返し聞くのか」を認知症の中核症状や本人の世界とあわせて解説し、
“正しい説明”よりも“安心できる関わり”の大切さをお伝えします。
【要点】
- 認知症の方が同じことを何度も聞く理由が分かる
単なる物忘れではなく、記憶障害や不安、混乱、安心したい気持ちが関係していることを解説します。 - 「また聞かれた」と感じてしまう理由と、介護者側の苦しさが分かる
なぜイライラしてしまうのか、認知症によって本人の中で何が起きているのかを整理します。 - 繰り返し聞かれた時の、逆効果になりやすい対応と関わり方が分かる
否定や説得が不安を強めてしまう理由や“正しい説明”より“安心できる関わり”が大切な理由について解説します。
【この記事で分かること】
・認知症の方が同じことを何度も聞く理由
・「物忘れ」だけではない、不安や混乱との関係
・本人の中で何が起きているのか
・ついやってしまいがちな逆効果な対応
・“正しい説明”より“安心できる関わり”が大切な理由
家族介護・介護職のどちらにも役立つ、
認知症の方の「繰り返し聞く」という行動を理解し、より良い関わり方を考えるための記事です。
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
はじめに
「また聞いてくる…」
そう感じてしまうことは、決して珍しいことではありません。
認知症の方と関わる中で、多くの人が一度は感じる戸惑いです。
家族であれば疲れや苛立ちを感じ、
介護職であれば「どう答えればいいのか」と悩む場面でもあります。
ですが、この行動は単なる“困った行動”ではありません。
そこには
👉 記憶の問題
👉 不安の強さ
👉 理解や納得の難しさ
といった、認知症の本質が関係しています。
この記事では、
・なぜ同じことを何度も聞くのか
・そのとき本人の中で何が起きているのか
・関わり方で何が変わるのか
を、現場視点でわかりやすく解説します。
同じことを何度も聞くのは「記憶障害」だけではない
まず、この行動の背景として考えられるのは『記憶障害(中核症状)』 です。
記憶障害によって新しい情報を覚えることが難しくなるため、
聞いたこと自体を忘れてしまい、再び質問してしまいます。
しかし、ここで重要なのは、
単に「記憶障害だから」と理解しているだけでは、十分な対応につながらないことがある
という点です。
なぜなら、
・何度も聞く内容には“偏り”がある
・特定の場面で増える
・感情が強く乗っている
といった特徴があるからです。
つまりこれは単なる記憶の問題ではなく、
👉 「不安」や「安心できなさ」の表現
でもあるのです。
本人の中で起きていること
では、本人の中では何が起きているのでしょうか。
ここを理解することが、関わり方を大きく変えます。
① 情報が“残らない”
説明を受けた直後は理解しているように見えても、
数分後にはその記憶が抜け落ちます。
すると、
本人の中では「聞いていない」のではなく、
“分からない状態に戻ってしまう”のです。
② 状況がつながらない
認知症では、
・今が何時なのか
・何をする予定なのか
・なぜこの場所にいるのか
といった情報のつながりが弱くなります。
そのため、
「今、自分がどんな状況にいるのか」が分からなくなり、
常に初めてのように感じられることがあります。
③ 不安が解消されない
例えば
「今日は何時に帰るの?」
「家に帰らないといけないんだけど」
といった質問。
これは単なる確認ではなく、
👉 “安心したい”という気持ちの表れです。
しかし、説明しても記憶に残らないため、
安心が持続せず、再び不安が生まれ、質問が繰り返されるのです。
④ 納得ではなく「安心」を求めている
ここが非常に重要なポイントです。
同じ質問や訴えを繰り返す方は、
正確な答えそのものではなく、
“安心できる感覚”を求めていることがあるのです。
そのため、
「安心してもらいたい」という思いから説明を増やすほど、
逆に気持ちがすれ違ってしまうこともあるのです。
よくある場面とその背景
認知症の方が同じことを繰り返し聞く時、そこには単なる「質問」ではなく、
👉 不安
👉 混乱
👉 安心したい気持ち
が隠れていることがあります。
そして、その背景を知ることで、
私たちの関わり方も少しずつ変わっていきます。
ケース①「今何時?」
「今何時?」
「今日は何曜日?」
「次は何をするの?」
「どうしてここにいるの?」
こうした質問を、短時間で何度も繰り返すことがあります。
これは単なる“確認”ではなく、
「自分が今どういう状況なのか分からない」という不安から来ていることがあります。
認知症では、見当識障害によって、
・時間
・場所
・状況
を把握する力が低下していきます。
私たちは普段、
「今日は○曜日で、この後○○があるから、今は待っていれば大丈夫」
というように、時間と予定を自然につなげています。
しかし認知症の方は、その“つながり”が途切れやすくなります。
すると、
「今、自分は何をしているのか」
「次に何が起こるのか」
が分からなくなり、不安になってしまうのです。
ケース②「帰らないといけない」
「家に帰ります」
「そろそろ帰らないと」
「家族が待っているから」
これは認知症介護の現場でも、非常によく見られる場面です。
ですが、ここでいう“家”は、
必ずしも今の自宅とは限りません。
子育てをしていた頃の家。
働いていた頃の生活。
家族に囲まれ、安心できていた時。
そうした、
👉 「自分らしく生きていた場所」
を求めていることがあります。
つまりこれは、単なる場所の問題ではなく、
👉 「安心したい」
👉 「落ち着ける場所に戻りたい」
という心の表現でもあるのです。
そのため、正論で
「ここがお家ですよ」
「もう昔の家はありません」
と説明しても、安心につながらないことは、多々あるのです。
ケース③「家族は来るの?」
「息子はまだ来ない?」
「今日は誰も来ないの?」
「誰が迎えに来てくれるの?」
こうした言葉の背景には、
孤独感や「見捨てられたのではないか」という不安が隠れていることがあります。
認知症になると、
・状況を正確に理解すること
・待つこと
・予定を記憶しておくこと
が難しくなる場合があります。
すると、
「来る予定だった」
「今日は来ないと説明された」
「ここに泊まっていく」
という情報が残りにくく、
結果として、
👉 「誰も来てくれない」
👉 「忘れられてしまった」
という感覚につながってしまうことがあるのです。
特に夕方や周囲が静かになる時間帯は、不安が強まりやすい傾向があります。
ケース④「ご飯はまだ?」
食事をした直後であるにもかかわらず、
「ご飯まだですか?」
「今日は食べてないんだけど」
と話されることがあります。
これも単純に“食事した記憶がない”だけではなく、
- 空腹への不安
- 生活リズムの混乱
- 何か満たされない感覚
が背景にあることがあります。
特に認知症では、
・時間感覚
・満腹感
・直前の出来事の記憶
が曖昧になることがあります。
そのため、
「さっき食べたでしょ」と訂正するより、
👉 不安に寄り添う視点
が大切になることがあります。
ケース⑤「財布がない」「誰か取った」
何度も持ち物を探したり、
「財布がなくなった」
「自分の物を誰かに取られた」
と繰り返し訴えることがあります。
これは物盗られ妄想にもつながるテーマですが、背景には、
👉 記憶障害
👉 不安
👉 “自分で管理できなくなっている感覚”
があります。
本来であれば、
「自分が置き忘れたかもしれない」
と考えられる場面でも、認知症ではその整理が難しくなります。
すると、
「見つからない」が「なくなった」という思い込みに
↓
「なくなった理由」が分からない
↓
「誰かが持っていったのでは」
という形で、自分の中で不安を解決しようとすることがあります。
本人にとっては“作り話”ではなく、
👉 本当にそう感じている世界
であることも大切な視点です。
なぜイライラしてしまうのか
これは非常に大事な視点です。
介護者がイライラしてしまうのは自然なことです。
その理由は、
「自分の言葉や説明は通じているはず」という前提があるからです。
・説明した
・理解してくれたように見えた
・なのにまた聞かれる
この流れが、
「わざと?」「聞いてないの?」
という感覚を生みます。
しかし実際は、
👉 “通じていない”のではなく“残っていない”
だけなのです。
ここを理解するだけで、
介護者の感情は大きく変わります。
やってはいけない対応
ここで大切なのは、
「介護者が悪い」という話ではないということです。
同じ質問を何度も受けると、誰でも疲れます。
忙しい時ほど、つい強い言葉になってしまうこともあります。
だからこそ大切なのは、
「なぜその対応が逆効果になりやすいのか」を知っておくことです。
「さっきも言いましたよ」
これは多くの人が、つい言ってしまう言葉です。
ですが認知症の方にとっては、
本当に“初めて聞く感覚”で質問していることがあります。
そのため本人からすると、
👉「聞いた覚えがないのに責められている」
という感覚になりやすいのです。
すると、
・不安が強くなる
・混乱する
・「自分は迷惑をかけている」と感じる
といったことにつながる場合があります。
もちろん悪気があって聞いているわけではありません。
だからこそ「また?」ではなく、
👉「不安なんだな」
という視点を持つことが大切になります。
「何回言えば分かるの」
この言葉も、疲れている時ほど出やすい言葉です。
しかし認知症の方は、
分かろうとしていないのではなく“覚え続けること”が難しくなっています。
そして実は、聞いている本人も
「迷惑をかけている」という感覚を持っていることが少なくありません。
そこに強い口調での返事が重なると、
・萎縮する
・質問できなくなる
・不安だけが残る
という状態になってしまうことがあります。
すると逆に、安心できず、さらに同じ質問が増えてしまうこともあるのです。
説明を長くする
「ちゃんと分かってもらいたい」
その思いから、丁寧に説明を重ねることがあります。
ですが認知症では、
・情報を整理する力
・覚えておく力
・理解をつなげる力
が弱くなっている場合があります。
そのため説明が長くなるほど、
「分からない情報」が増えてしまい、かえって混乱する
ことがあるのです。
大切なのは、
“正確に全部説明すること”よりも、
👉 「安心できる一言」を届けること
なのかもしれません。
無視する
何度も同じことを聞かれると、
「またか…」と心が疲れてしまい、
反応する余裕がなくなってしまうことがあります。
ですが、返事がない状態は、認知症の方にとって
👉「誰も助けてくれない」
👉「自分は見放された」
という不安につながることがあります。
特に認知症の方は、不安を言葉で整理することが難しく、
👉 “反応してもらえないこと”そのものが恐怖
になる場合もあります。
すべてを完璧に対応する必要はありません。
ただ、
「大丈夫ですよ」
「ここにいますよ」
「一緒に確認しましょうか」
そんな短い言葉だけでも、安心につながることがあります。
ではどう関わればいいのか
ここからが実践です。
① 毎回「初めて」と思って対応する
👉 同じ質問でも、その人にとっては“今の問題”です。
② 結論だけをシンプルに伝える
❌ 長い説明
⭕ 短く、安心できる言葉
例
「大丈夫ですよ、今日はここで過ごしますよ」
③ 感情に寄り添う
👉 言葉の内容よりも、本人の感情に焦点を当てましょう
例
「不安ですよね」
「心配になりますよね」
④ 安心の“型”を作る
『毎回同じ言葉』と『全員で同じ対応』
すると、記憶ではなく“感覚”として安心できるようになっていきます。
⑤ 環境で支える
・時計を見やすくする
・予定を掲示する
・声かけを先に行う
聞かれる前に、本人が気付けるような環境を整えることも、大事な支援です。
「繰り返し」は悪いことではない
私たちは、
「同じことを何度も言う」
「何度も確認する」
という行動を見ると、
“問題行動”として捉えてしまいがちです。
ですが本人からすれば、
それは「困らせよう」としているのではなく、
- 分からない
- 不安
- 安心したい
という気持ちの表れなのかもしれません。
そしてそれは、認知症という病気の中で、
自分の周りで起きていることを、必死に理解しようとしている姿でもあるのです。
まとめ
「同じことを何度も聞く」という行動は、
・記憶障害
・見当識障害
・不安
・安心の不足
が重なって起きています。
そして重要なのは、
👉 正しい答えではなく、安心できる関わりです。
関わり方が変わると、
・質問の回数が減る
・表情が穏やかになる
・関係性が良くなる
といった変化が見えてきます。
「また聞いてきた」ではなく、
「今、不安なんだな」と捉えられたとき、
その関わりは
“対応”から“ケア”へと変わります。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。
詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!
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