※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
認知症の方が病院を拒否するのは、わがままや頑固さだけが理由ではありません。
その背景には、認知症による認識の変化だけでなく「認知症かもしれない」という不安や恐怖、そして自分らしさを失うことへの戸惑いが隠れていることがあります。
この記事では、受診を拒否する理由を本人の世界から理解し、本人との関係性を大切にしながら受診につなげるための考え方や関わり方について解説します。
【要点】
- 認知症の方が病院を拒否する本当の理由が分かる
受診拒否は「わがまま」や「頑固さ」ではなく、認知症による認識の変化や「認知症かもしれない」という不安・恐怖など、様々な要因が重なって起こることを解説します。 - 本人の世界を理解し、受診につなげるための関わり方が分かる
受診を嫌がる背景を本人の視点から理解し「説得する」のではなく「不安を減らす」という認知症ケアの考え方や、実際の声掛け・関わり方について紹介します。 - 受診の本当の意味と、本人・家族を支えるための視点が分かる
認知症の診断は「認知症を確定すること」が目的ではなく、本人に合った支援や家族の理解につなげるための第一歩です。受診の意義や、その後の認知症ケアにつながる大切な考え方について解説します。
【この記事で分かること】
・認知症の方が病院を拒否する理由を、本人の視点から理解できる
・「認知症かもしれない」という不安や恐怖が受診拒否につながる理由が分かる
・本人の尊厳と家族との信頼関係を大切にしながら受診につなげる考え方が身につく
「どうやって病院へ連れて行くか」だけではなく、
「なぜ拒否するのか」を理解し、これからの認知症ケアにつなげるための記事です。
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
はじめに
認知症かもしれない。
そう感じ始めた時、多くの家族が最初にぶつかる壁があります。
それが、
「病院へ行ってくれない」
という問題です。
- 「自分は何ともない」
- 「病院なんて必要ない」
- 「そんな年寄り扱いするな」
- 「騙そうとしているのか」
そう言われ、家族が途方に暮れてしまうことも少なくありません。
ですが、ここで大切なのは、
“本人はわがままで拒否しているわけではない”という視点です。
むしろ、その拒否の奥には本人なりの不安や恐怖、
そして『認知症かもしれない』という戸惑いが隠れていることもあります。
認知症の方の中では、私たちが想像する以上の“不安”や“混乱”が起きているのです。
この記事では、特に認知症の診断や相談のための受診を拒否する場面に焦点を当てながら、
- なぜ受診拒否が起きるのか
- 本人の世界では何が起きているのか
- 家族はどう関われば良いのか
- 受診にはどのような意味があるのか
- やってはいけない対応とは何か
を、認知症ケアの視点から解説していきます。
なぜ認知症の方は病院を拒否するのか
本人と家族では見えているものが違う
ここが非常に重要です。
認知症の方の多くは、
“自分では普通に生活しているつもり”です。
たとえば、
- 同じことを何度も聞いている
- 財布を失くしている
- 約束を忘れている
- 火を消し忘れている
こうしたことが起きていても、
本人の中では
“その記憶自体が抜け落ちている”ことがあります。
つまり、
家族だけが「おかしい」と感じ、本人にはその自覚がない。
このズレが、受診拒否の大きな原因になります。
もちろん、すべての方が同じではありません。
このように、認知症による変化に気づきにくくなっている方もいれば、
反対に、自分の変化に気づき不安を抱えている方もいます。
本人も「何かおかしい」と気づいていることがある
実は、家族や一緒に生活している人が「あれ?」と思い始める頃には、
本人もまた、
- 「最近うまくできない」
- 「忘れることが増えた」
- 「なんだか変だ」
という違和感を、薄々感じていることが少なくありません。
特に認知症の初期では、
“できなくなっていく自分”を、
本人が一番苦しんでいることもあります。
そして今は、
情報がすぐに手に入る時代です。
インターネットやテレビなどを通じて、
「もしかして認知症かもしれない」
という考えに辿り着くことも、珍しくないでしょう。
ですが、
“自分が認知症かもしれない”
という恐怖は、想像以上に大きなものです。
- 今後どうなるのか
- 家族に迷惑をかけるのではないか
- 自分らしく生きられなくなるのではないか
- 「何も分からない人」になってしまうのではないか
そうした不安を抱えながら、
必死に見ないようにしている方もいます。
そのような状態で病院へ行くということは、
“恐れていたものが確定してしまうかもしれない”
という、大きな恐怖と向き合うことでもあるのです。
だからこそ、認知症の受診拒否は、
単なる“頑固さ”だけではなく、
「怖い」
という、とてもシンプルな感情の表れであることを、
支援者側も知っておいて良いのではないでしょうか。
本人の世界では何が起きているのか
「なぜ病院へ行かなければならないのか分からない」
家族は、
「心配だから」
「早く診てもらいたいから」
「認知症か確認したいから」
と思っています。
ですが本人からすると、
- 体は痛くない
- 熱もない
- 苦しくもない
つまり、
“病院へ行く理由が分からない”のです。
理由が分からないまま連れて行かれそうになれば、当然不安になります。
「騙されるのではないか」という不安
認知症になると、
理解力や判断力が低下していきます。
すると、
- 状況を把握できない
- 話の意図が読めない
- 先の展開が想像できない
という状態になります。
その結果、
「なんだか分からないけど怖い」
という感覚が強くなります。
これは子どもっぽくなったのではなく、
“理解できない世界の中で必死に自分を守ろうとしている”
状態とも言えます。
「認知症かもしれない」は本人を深く傷つけることもある
認知症という言葉には、
今でも強いマイナスイメージがあります。
そのため、
- 「ボケたと言われた」
- 「馬鹿にされた」
- 「役立たず扱いされた」
と感じてしまうことがあります。
特に、
プライドが高かった方
仕事を頑張ってきた方
家族を支えてきた方ほど、
強く拒否することがあります。
その拒否の奥には、認知症そのものへの不安だけではなく、
『これからの自分はどうなってしまうのだろう』という恐怖が隠れていることもあります。
家族がやってしまいやすい対応
「最近おかしいから病院行こう」
これは非常に多いですが、
かなり拒否に繋がりやすい言葉です。
本人からすると、
「自分を否定された」
ように感じやすいためです。
家族にとっては心配から出た言葉でも、
本人には「あなたは普通ではない」と宣告されたように聞こえてしまうことがあるのです。
間違いを“証明”しようとする
- 「さっき言ったでしょ?」
- 「また忘れたの?」
- 「この前もそうだったよ」
これも家族は、
病院へ行く必要性を伝えようとして言っています。
ですが本人からすると、
“責められている”という感覚になりやすいのです。
本人が忘れたくて忘れているわけではないからこそ、
その指摘は「説明」ではなく「責められている体験」になってしまうことがあります。
無理やり連れて行こうとする
これは関係性を壊してしまうことがあります。
もちろん、
命に関わる場合は別です。
ですが、
まだ初期の段階である場合、
“説得”や“力で動かす”ことを繰り返すと、
- 家族への不信感
- 警戒心
- 怒り
- 拒否
が強くなることがあります。
受診に繋がったとしても、
「家族に騙された」「無理やり連れて来られた」という思いが残れば、
その後の支援そのものが難しくなってしまうこともあるのです。
「本人を病院へ連れて行くこと」が目的になりすぎると、
「本人との関係を守ること」という、本来大切なものを見失ってしまうこともあります。
認知症の方にとって病院とは“怖い場所”でもある
ここは意外と見落とされやすい部分です。
病院は、
- 知らない場所
- 知らない人
- 難しい説明
- 長い待ち時間
- 大きな音
が多い環境です。
認知症の方にとっては、
非常に混乱しやすい場所でもあります。
さらに、
- 「できないこと」が露呈しやすい
- 質問に答えられない
- 失敗する
ことで、強いストレスになることもあります。
「できない自分」と向き合う場所になることがある
例えば診察では、
「今日は何月何日ですか?」
「ここはどこですか?」
「最近困っていることはありますか?」
といった質問を受けることがあります。
私たちにとっては何気ない質問でも、
認知症の方にとっては、
「答えられない」
「うまく説明できない」
「間違えてしまう」
という体験になることがあります。
そして、その様子を家族や医療者に見られることで、
「自分は本当におかしくなっているのではないか」
「できなくなっていることを知られてしまった」
という不安や恥ずかしさを感じる方もいます。
「何をされるのか分からない」不安もある
また、認知症になると、
- 状況を理解する力
- 先の見通しを立てる力
- 環境の変化に対応する力
も低下していくことがあります。
そのため、
「なぜここに来たのか」
「これから何をされるのか」
「いつ帰れるのか」
が分からないまま過ごすことも少なくありません。
私たちが海外の空港で、
言葉も分からず、行き先も分からず、
周囲の人の話も理解できないまま取り残されたら不安になるように、
認知症の方もまた、
病院という環境の中で大きな不安や恐怖を感じていることがあるのです。
大切なのは「納得させる」ではなく「不安を減らす」
家族はどうしても、
「正しく説明すれば分かってくれる」
と思いやすいです。
ですが認知症では、
“理解して納得する”
こと自体が難しくなっている場合があります。
だから必要なのは、
正論で説得することではなく、不安を減らすことなのです。
実際の関わり方の工夫
理由を変える
これは賛否あるテーマですが、
現場ではよく行われています。
例えば、
- 「健康診断に行こう」
- 「血圧だけ見てもらおう」
- 「付き添ってほしい」
- 「薬をもらいに行こう」
などです。
もちろん、
嘘をついてでも受診することを推奨したいわけではありません。
ですが、
“認知症ですと言われに行く”
という『恐怖を減らすための配慮』として必要になることがあります。
大切なのは『病院へ連れて行く』ということそのものではなく、
本人の不安をできるだけ少なくしながら受診につなげることです。
一気に進めようとしない
- まず外出だけ
- 次に病院の近くまで
- 別日に受診
など、
“段階を分ける”
ことも有効です。
受診そのものを目標にするのではなく、
「今日は外出できた」「病院の前まで行けた」という小さな一歩を大切にすることが、
結果的に受診につながることもあります。
本人が安心できる人が付き添う
信頼関係は非常に重要です。
逆に、
- 怒る人
- 否定する人
- 急がせる人
と一緒だと、
拒否が強くなることがあります。
病院へ行くことへの安心感は、場所や説明だけではなく、
「この人と一緒なら大丈夫」という信頼関係によって支えられていることも少なくありません。
「できている部分」を尊重する
認知症になっても、
その人の人生や人格が消えるわけではありません。
だからこそ、
- 上から話さない
- 子ども扱いしない
- 命令口調にしない
ことが大切です。
受診を勧める場面であっても、その人の尊厳を守りながら関わることが、
その後の信頼関係や支援の受け入れやすさにもつながっていきます。
どうしても受診できない時はどうするか
ここは家族が非常に苦しみやすい部分です。
ですが、
“一回でうまくいかないのは普通”です。
むしろ、
認知症の診断へ繋がるまでに、
何ヶ月もかかることもあります。
家族だけで相談する方法もある
地域包括支援センター
認知症疾患医療センター
かかりつけ医
などへ、
まず家族だけで相談するという方法もあります。
すると、
- 受診の進め方
- 声掛け
- タイミング
- 医療との連携
について助言をもらえることがあります。
「早く診断しなければ」と家族が追い込まれすぎないことも大切
家族は、
- 事故が心配
- 火の不始末が怖い
- 仕事に支障が出る
- 周囲へ迷惑をかける
など、
強い不安を抱えています。
だから焦ります。
ですが、
家族が焦るほど、本人の不安も強くなることがあります。
しかし、それは家族が冷たいからでも、焦りすぎているからでもありません。
本人を心配しているからこそ、
どうしても早く受診につなげたいと思うのは自然なことなのです。
ここは非常に難しい部分です。
だからこそ「説得」だけではなく、
- 不安を見る
- 関係性を守る
- 安心感を作る
という視点が重要になります。
受診すると何が変わるのか
認知症の診断を受けることに不安を感じる方は少なくありません。
しかし受診には、
単に診断名を付ける以上の意味があります。
例えば、
- 認知症ではなく別の病気が隠れている可能性
- 薬や治療、環境調整で和らげられる症状
- 利用できる介護サービス
- 今後の生活設計
- 家族への支援
などにつながることがあります。
また、家族が
「なぜこんなことが起きるのか」
を理解できるようになることで、
本人を責める気持ちが減ることもあります。
受診の目的は、
認知症というレッテルを貼ることではなく、
本人と家族が少しでも安心して生活していくための情報を得ることなのです。
誰のために受診するのかを間違えない
認知症の受診について考える時、私たちは時々、大切なことを見失ってしまうことがあります。
それは、
「誰のために受診するのか」
ということです。
- 家族が困っているから
- 周囲に迷惑をかけているから
- 認知症かどうか白黒つけたいから
もちろん、そうした気持ちも自然なものです。
しかし受診の目的は、
本人に「あなたは認知症です」と事実を突きつけることではありません。
本来の受診は、
- なぜ困りごとが起きているのかを知るため
- 本人に合った支援を考えるため
- 家族が本人の状態を理解するため
- 利用できるサービスや制度を知るため
- これから先の生活を一緒に考えるため
に行うものです。
診断名そのものが本人を支えるわけではありません。
診断によって見えてくる情報や支援が、本人の生活を支えるのです。
だからこそ、
「認知症かどうかを確定するために病院へ行く」
という視点だけではなく、
「これからもその人らしく生活していくために必要な情報を得る」
という視点を持つことが大切なのではないでしょうか。
認知症ケアは“最初の関わり”がその後に影響する
受診の段階で、
- 無理やり連れて行かれた
- 否定された
- 怒られた
- 騙された
という記憶が残ると、
その後の介護拒否や不信感に繋がることがあります。
逆に、
- 安心できた
- 自分を尊重してくれた
- 怖くなかった
という経験は、
その後の支援にも良い影響を与えることがあります。
おわりに
認知症の診断を受けてもらうことは、
家族にとっても大きな勇気が必要です。
そして、
本人にとってもまた、
大きな不安があります。
だからこそ大切なのは、
「どうやって病院へ連れて行くか」
だけではありません。
その人が、
- なぜ拒否しているのか
- 何を怖がっているのか
- どんな世界を見ているのか
を理解しようとすることです。
認知症ケアは、
“正しさ”だけでは進められません。
不安の中にいる相手へ、どう安心を届けるか。
その視点が、
最初の受診の場面でも、とても大切なのです。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。
詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!
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