※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
認知症の方が夜に眠らない時、私たちはつい「どうしたら寝てくれるだろう」と考えてしまいます。
しかし、その奥には本人なりの不安や混乱、安心できない理由が隠れていることがあります。
この記事では「寝てくれない人」ではなく「安心できない夜を過ごしている人」として理解するための視点と、認知症ケアにおける夜間不眠との向き合い方についてお伝えします。
【要点】
- 認知症の方が夜に眠らない本当の理由が分かる
見当識障害や記憶障害、不安、身体的不調など「眠れない」の奥にある原因について分かりやすく解説します。 - 「どう寝かせるか」ではなく「なぜ眠れないのか」という視点が分かる
夜間不眠を“困った行動”として見るのではなく、その背景にある本人の不安や世界を理解するための考え方をお伝えします。 - 安心につながる関わり方と、介護者自身を守る大切さが分かる
認知症ケアにおける具体的な関わり方や、夜間不眠による介護負担と向き合うための考え方について解説します。
【この記事で分かること】
・夜間不眠と見当識障害・記憶障害・不安の関係
・「寝かせる」より「安心できる」を目指す関わり方
・介護者が限界を感じた時に抱え込まないための考え方
家族介護・介護職のどちらにも役立つ、本人と支援者の双方に寄り添う認知症ケアのヒントをお伝えします。
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
はじめに
認知症の方が夜に眠らない。
これは家族介護でも施設介護でも、非常に大きな悩みの一つです。
- 夜中に何度も起きる
- 家の中を歩き回る
- 「帰る」と言い出す
- 家族を探す
- 何度も職員を呼ぶ
こうした様子が続くと、支援者は疲れ果ててしまいます。
そしていつしか、
「どうしたら寝てくれるんだろう」
と考えるようになります。
もちろん、その気持ちは自然なものです。
しかし認知症ケアの視点で考えると、
本当に大切なのは
「どうやって寝かせるか」
ではありません。
なぜその人は眠れないのか。
なぜ安心して眠ることができないのか。
その理由を理解することこそが、その人に必要なケアにつながっていくのです。
認知症の方の「夜に眠らない」とは
夜間不眠と聞くと、
「眠れない」
というイメージを持つかもしれません。
しかし実際には様々な形があります。
- 夜中に何度も起きる
- 朝まで歩き回る
- 家族を探す
- 帰ろうとする
- 不安そうに職員を呼ぶ
- 昼夜逆転する
- 明け方から活動し始める
などです。
「困った行動」ではなく“理由のある反応”
そのため、
「眠れない」
という結果だけを見るのではなく、
- 見知らぬ場所に感じる
- 今日の出来事を覚えていられない
- 時間感覚が崩れている
- 暗闇で状況理解が難しくなる
といった本人の世界や原因を知ることで
「夜に落ち着かない」
「夜に不安になる」
という状況は『実は、自然な人間の感情なのだ』という見方ができるようになります。
なぜ認知症の方は夜に眠れなくなるのか
理由は一つではありません。
しかし、多くの場合は中核症状や不安と深く関係しています。
① 見当識障害による時間の混乱
認知症になると、
- 今がいつなのか
- どこなのか
が分かりにくくなることがあります。
すると、夜中の3時なのに
「仕事に行かなきゃ」
「子供を迎えに行かなきゃ」
と思うことがあります。
支援者から見れば夜中ですが、
本人にとっては朝かもしれません。
つまり、本人の世界では矛盾していないのです。
② 記憶障害による不安
認知症の方は、
安心できる理由を覚えておくことが苦手になります。
たとえば、
「今日はここに泊まりますよ」と説明されても、
数分後には忘れてしまうことがあります。
すると、
- なぜここにいるのか分からない
- 家族はどうしているのだろう
- 家に帰らなくて大丈夫なのだろうか
という不安が、何度も何度も頭の中に生まれてしまうのです。
● 人は“不安”が強いと眠れない
これは、私たちでも同じことがいえると思います。
- 明日の大事な予定
- 強いストレス
- 環境変化
で眠れなくなることもあるでしょう。
認知症の方にとっては、毎日毎晩が、そのような時間である可能性があるのです。
③ 暗くなることで不安が強くなる
夜は情報が少なくなります。
昼間なら、
- 人の声
- 光
- 生活音
があります。
しかし夜になると、
静かになり、暗くなり、見えにくくなります。
すると、今の自分の状態を知るための情報が更に減り、
認知症の方は状況を把握しにくくなり、不安が増大していくのです。
④ 昼間の活動量低下
活動量の低下も大きな要因です。
- 日中に寝ている時間が長い
- 座っている時間が長い
- 刺激が少ない
すると夜に眠れなくなることがあります。
特に認知症が進行すると、
活動そのものが減りやすくなります。
そのため、日中の過ごし方も重要になります。
● 「安全のため」が昼夜逆転を生むこともある
認知症の方は転倒リスクが高くなるため、
「危ないから座っていてもらおう」
という関わりになることがあります。
もちろん安全は大切ですが、その結果として活動量や刺激が減り、日中に眠る時間が増えてしまうこともあります。
すると昼と夜のメリハリが失われ、夜間に眠れなくなることがあります。
安全を守ろうとした結果が、かえって昼夜逆転につながってしまうこともあるのです。
⑤ 身体の不調
夜間不眠の原因は認知症だけとは限りません。
- 便秘
- 頻尿
- 痛み
- 発熱
- 呼吸苦
- かゆみ
など、
身体的な不調が隠れていることもあります。
● 認知症で“訴えられない”ことも
認知症の方は、
「痛い」
「苦しい」
「眠れない理由」
をうまく説明できないことがあります。
結果として、
“落ち着かない”
“歩き回る”
“眠れない”
という形で現れることがあります。
夜に眠れない理由は「安心できない」に収束する
認知症の方が夜に眠れなくなる理由は、
総じて「安心できない」に収束していくのではないかと思います。
- ここがどこなのかわからない
- なぜここにいるのかわからない
- 家族はどうしているのだろう
- 仕事に行かなくて大丈夫なのだろうか
- 安心して寝てくださいと言われても、そもそも安心できない
そして、それらを引き起こしている原因は人によって違います。
「寝られない」という状態だけに着目してしまうと、
「寝てください」
という対応しかできないかもしれません。
しかし本当に大切なのは、
“何がその人を安心できなくさせているのか”
を探ることです。
それこそが認知症ケアにつながっていきます。
つまり本来は、
「寝かせるためにケアをする」のではなく、
“認知症ケアを提供し、安心できた結果として眠れる”
その順番が大切なのです。
一晩眠れないくらいなら大丈夫
ここで忘れてはいけないことがあります。
それは、
一晩眠れなかったからといって、すぐに問題になるわけではないということです。
私たちも、就寝時間が遅くなることがありますし、夜更かしをする日もあります。
何となく眠れない日もあれば、
明日の予定が楽しみで寝付けない日もあるでしょう。
そして、不安で眠れない日もあります。
たとえ認知症になったとしても、
そうしたワクワクやモヤモヤまで、全てなくなるわけではありません。
だから、
「昨夜はあまり眠れなかった」
というだけで必要以上に心配する必要はありません。
ですが、
「なんかいつもと違う」
そんな違和感は大切です。
その違和感は、長い時間をかけて最も近くで支えてきた人だからこそ気づける、大切なサインでもあります。
一人で抱え込まず、周囲と共有しながら、一緒に原因を探り、改善を考え、寄り添っていくことが大切です。
やってはいけない対応
強く叱る
夜間対応が続くと、支援者も疲労が蓄積していきます。
そのため、
「もう夜ですよ!」
「早く寝てください!」
と強い口調になってしまうこともあるでしょう。
しかし認知症の方は、なぜ怒られているのか理解できないことがあります。
すると、
「理由は分からないけれど怒られた」
という不安や恐怖だけが残ってしまうのです。
正論で説得する
認知症の方が
「仕事に行かなきゃ」
「家に帰らなきゃ」
と言った時、
私たちはつい、
「もう仕事はしていませんよ」
「ここがあなたのお家ですよ」
と説明したくなります。
しかし、本人の世界ではそれが現実です。
正しい説明を繰り返すほど、不安や混乱を強めてしまうこともあります。
無理に寝かせようとする
「早く寝てください」
「みんな寝ていますよ」
と伝えても、不安の原因そのものは解決していません。
むしろ、
「なぜ寝なければいけないのか」
「なぜ分かってもらえないのか」
という混乱につながることもあります。
昼間に寝かせ続ける
夜に眠れていないと、昼間に眠そうにしていることがあります。
もちろん休息も大切ですが、
昼間に長時間眠ることが続くと、さらに夜に眠れなくなり、
昼夜逆転が進んでしまうことがあります。
安心しやすくなる、夜間不眠への関わり方
夜間不眠への対応で大切なのは、
「どうやって寝かせるか」
ではなく、
「どうしたら安心できるか」
という視点です。
① まず“不安”を見る
夜に起きているという結果だけを見ると、
「なぜ寝ないのだろう」
と考えてしまいます。
しかし、その奥には必ず理由があります。
不安なのか。
寂しいのか。
身体が苦しいのか。
まずは、その人が何に困っているのかを考えてみることが大切です。
② 否定せず、安心を伝える
不安が強い時ほど、人は安心を求めます。
「大丈夫ですよ」
「一緒にいますよ」
「心配しなくても大丈夫ですよ」
そんな言葉だけでも落ち着くことがあります。
大切なのは、正しい説明よりも安心できる関わりです。
③ 無理に止めるより“付き合う”
歩きたいのであれば、危険が少ない範囲で一緒に歩くことも有効です。
もちろん安全への配慮は必要ですが、
「歩かせないこと」
を目標にするのではなく、
「安心できること」
を目標にした方が、結果として落ち着くことも少なくありません。
④ 日中活動を整える
日光を浴びる。
人と会話をする。
軽く身体を動かす。
役割を持つ。
こうした活動は生活リズムを整える助けになります。
夜だけを見るのではなく、昼間の過ごし方にも目を向けることが大切です。
⑤ まずは身体の不調を疑う
認知症の方が落ち着かない時、
原因は認知症だけとは限りません。
便秘や痛み、頻尿など、身体の不調が隠れていることもあります。
特に認知症の方は不調を言葉で伝えられないこともあるため、
「何か身体的な原因はないだろうか」
という視点も忘れてはいけません。
⑥ “睡眠導入剤を使えば解決”ではない
もちろん、睡眠導入剤が必要になるケースもあります。
しかし薬には、
- 転倒
- ふらつき
- 日中の眠気
- 活動量低下
などのリスクもあります。
また、
「静かになること」
だけを目的にしてしまうと、本人らしい生活まで失われてしまう可能性があります。
薬を使うかどうかではなく、
まずは眠れない理由を探ることが大切です。
「眠ること」だけが目的になる危険
夜間の不眠が続くと、
「とにかく眠ってほしい」
と思ってしまうのは自然なことです。
家族も疲れていますし、施設でも夜間対応の負担は決して小さくありません。
しかし、
「夜に眠ること」
だけを目的にしてしまうと、本来見るべきものを見失ってしまうことがあります。
- なぜ不安なのか
- なぜ落ち着かないのか
- なぜ歩き回るのか
その理由を考えないまま、
「静かになれば良い」
「夜勤が楽になれば良い」
という方向に進んでしまうと、本人らしい生活や尊厳が失われてしまうこともあります。
「眠ること」ではなく「安心できること」を目指す
大切なのは、
- 不安を見ること
- 否定しないこと
- 安心を伝えること
- 日中の活動を整えること
- 身体の不調に気づくこと
- 環境を整えること
そして何より、
「なぜ眠れないのか」を一緒に考えることです。
夜に眠ることは目的ではなく、
その人が安心して生活した結果として得られるものなのかもしれません。
夜間不眠への対応とは、
「眠らせる技術」ではなく、
「安心できる環境を整えること」なのです。
在宅介護の限界を感じた時
夜間に眠れなくなることは、
在宅で認知症の方を支えてきた家族が、
「そろそろ限界かもしれない」
と感じ始める、大きなきっかけの一つでもあります。
昼間の介護も大変ですが、
夜まで休めなくなると、
介護者自身の心身が先に壊れてしまうことがあります。
だからこそ、
誰かを頼ることは、
決して恥ずかしいことではありません。
施設や介護サービスを使うことは、
「逃げ」でも、
「責任放棄」でもないのです。
むしろ、
これからも長く支えていくために必要な選択である場合もあります。
まずは、
あなた自身のことも大切にしてみませんか。
▼認知症介護の中で生まれる不安や葛藤については、
・【全5回】第1回:認知症介護で感じる「感情の限界」 ~負の感情は、誠実に向き合っている証拠~
というシリーズで詳しくお話ししています。
また、
▼認知症と診断された直後の本人や家族の揺れ動く気持ちについては、
・【全4回】第1回:認知症の診断を受けて、揺れ動く心 ~本人の気持ちに寄り添う~
というシリーズでご紹介しています。
おわりに
認知症の方の夜間不眠は、
単なる睡眠の問題ではありません。
その奥には、
- 不安
- 混乱
- 寂しさ
- 身体的不調
様々な理由があります。
だから、
「寝てくれない人」
として見るのではなく、
「安心できない夜を過ごしている人」
として見ること。
それが認知症ケアの第一歩なのではないでしょうか。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。
詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!
関連記事|認知症の「夜に眠らない」をもっと理解するために
認知症の方が夜に眠れなくなる背景には、見当識障害や記憶障害だけではなく、不安や混乱、環境の変化、身体的不調など様々な要因があります。
「夜に眠らない」という結果だけを見るのではなく、その奥にある本人の世界や気持ちを理解することが、認知症ケアの第一歩です。
以下の記事もあわせてご覧ください。
▼認知症の“困った行動”が起こる理由については、こちらの記事で詳しく解説しています
・認知症の“困った行動”とは? ~BPSDが起こる理由と関わり方をわかりやすく解説~
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・認知症と記憶と感情の話 ~なぜ“嫌な気持ち”だけが残るのか?~
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・『対応しているのに落ち着かない』理由 ~認知症ケアの『すれ違い』の正体~
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夜間不眠は、在宅介護の限界を感じる大きなきっかけの一つでもあります。
「もう限界かもしれない」
そう感じることは、決して特別なことではありません。
介護する人の心にも目を向けたい方は、ぜひこちらの記事もご覧ください。
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