※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
認知症の方のトイレの失敗は「わざと」でも「やる気がない」からでもありません。
その背景には、認知症による脳の変化だけでなく、不安や羞恥心、身体機能の変化、そして本人も気づいていない困りごとが隠れていることがあります。
この記事では「失敗した」という結果だけを見るのではなく、その背景にある理由や本人の気持ちを理解し、その人らしい生活を支えるための視点についてお伝えします。
【要点】
- 認知症の方がトイレを失敗してしまう理由が分かる
記憶障害や見当識障害、実行機能障害だけでなく、不安や羞恥心、身体機能の変化など、排泄の失敗につながる様々な要因を解説します。 - 「失敗」の背景にある本人の世界や困りごとを理解できる
失敗を隠す理由や本人も原因が分からないケースなど、排泄の問題の奥にある不安や戸惑いについて理解を深めることができます。 - 失敗を責めずに支えるための関わり方と視点が分かる
環境調整や声掛けの工夫、オムツやパッドとの向き合い方など、その人らしい生活と尊厳を支えるための考え方を解説します。
【この記事で分かること】
・認知症の方がトイレを失敗してしまう理由
・排泄の失敗の背景にある本人の世界や気持ち
・失敗を責めずに支えるための関わり方と支援の視点
家族介護・介護職のどちらにも、
「失敗した」という結果だけではなく、その背景にある理由や気持ちに目を向けるための視点を学べる内容です。
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
はじめに
認知症の方の介護をしていると、
- トイレに間に合わなくなった
- 下着を汚してしまうことが増えた
- トイレ以外の場所で排泄してしまった
- 「さっき行ったばかりなのに」と感じることがある
そんな場面に直面することがあります。
排泄の問題は、介護の中でも特に負担が大きい悩みの一つです。
洗濯や掃除が増えるだけではありません。
臭いや衛生面の問題、夜間対応、そして何度も繰り返される失敗によって、家族や職員が疲れてしまうこともあります。
だからこそ、
「なんで失敗するの?」
「さっき行ったばかりでしょ?」
「わざとじゃないの?」
と思ってしまうこともあるかもしれません。
しかし、認知症の方は好きで失敗しているわけではありません。
その背景には、認知症による脳の変化だけではなく、身体機能の変化や生活環境の問題など、様々な要因が隠れています。
この記事では、認知症の方がトイレの失敗をしてしまう理由と、その背景にある本人の世界、そして私たちにできる関わり方についてお伝えします。
認知症の「トイレの失敗」とは?
トイレの失敗=失禁だけではない
「トイレの失敗」と聞くと、多くの方は失禁をイメージするかもしれません。
確かに、認知症による排泄の問題は尿失禁や便失禁として現れることもあります。
しかし実際には、それだけではありません。
例えば、
- トイレに間に合わない
- トイレの場所が分からない
- 下着を下ろす前に出てしまう
- 排泄後の後始末が難しい
- 汚れた下着を隠してしまう
- 何度もトイレに行く
- トイレ以外の場所で排泄してしまう
など、様々な形で現れます。
そして重要なのは、
排泄の失敗は「排泄機能」だけの問題ではない
ということです。
認知症によって、
- 記憶
- 判断
- 行動の段取り
- 時間の感覚
- 場所の認識
- 気持ちの状態
などに変化が起きることで、排泄にも影響が現れてくるのです。
認知症の方はなぜトイレを失敗してしまうのか
記憶障害の影響
認知症の代表的な症状の一つに記憶障害があります。
例えば、
- トイレに行こうとしていたことを忘れる
- 尿意を感じていたことを忘れる
- パッドを交換したことを忘れる
- トイレに行ったこと自体を忘れる
といったことがあります。
家族や職員から見ると、
「さっき行ったばかりなのに」
と感じるかもしれません。
しかし本人にとっては、本当に覚えていないのです。
そのため、
「行ってない」
「替えてない」
と言うこともあります。
これは嘘をついているのではなく、本人にとってはそう認識している世界なのです。
見当識障害の影響
見当識障害とは、
- 今がいつなのか
- 自分がどこにいるのか
- 目の前の場所が何なのか
といった認識が難しくなる症状です。
その結果、
- トイレの場所が分からない
- 夜中にトイレを探せない
- 自室とトイレを間違える
といったことが起こります。
私たちは自宅のトイレなら目を閉じても行けるかもしれません。
しかし認知症の方にとっては、
毎日過ごしている家の中であっても、分からなくなっている可能性がある
のです。
実行機能障害の影響
実は「トイレで排泄する」という行動は、とても複雑です。
- 尿意を感じる
- トイレへ向かう
- ドアを開ける
- 鍵を閉める
- 衣類を下ろす
- 便座に座る
- 排泄する
- 拭く
- 流す
- 衣類を整える
これらを順番に行う必要があります。
認知症によって実行機能が低下すると、この一連の流れが難しくなります。
つまり、
「トイレに行けない」のではなく「トイレに行くための複数の工程が難しくなっている」
場合があるのです。
このように、私たちが当たり前に行っている排泄という行為も、認知症によって様々な場面でつまずきが生じるようになります。
判断力の低下
認知症では判断力も低下します。
そのため、
- まだ大丈夫だと思って我慢する
- 間に合わない状況を判断できない
- パッドが濡れていても交換しない
などの問題が起こります。
また、
「今トイレへ行くべきか」
「このままだと間に合わないかもしれない」
といった状況判断も難しくなることがあります。
私たちには当たり前に見える判断であっても、本人にとってはその選択自体が難しくなっているのです。
失行・失認の影響
失行や失認によって、
- 便座の使い方が分からない
- 下着の扱い方が分からない
- トイレそのものが何か分からない
という状態になることもあります。
周囲からは理解しにくいかもしれませんが、本人は混乱の中にいるのです。
例えば、
トイレまでは辿り着けても、その後どうすればいいのか分からなくなったり、
便座を見ても「座る場所」と認識できなくなったりすることがあります。
その結果として排泄の失敗が起きている場合、本人は「なぜ失敗したのか」自分でも理解できず、不安や戸惑いを感じていることも少なくありません。
気持ちの状態も排泄に影響する
認知症の方のトイレの失敗は、記憶や判断力だけが原因ではありません。
実は、
- 不安
- 焦り
- 緊張
- 恥ずかしさ
- 自信の低下
といった「気持ちの状態」も大きく影響しています。
例えば、
「早くしなきゃ」
という焦りから動作が雑になったり、
「また失敗したらどうしよう」
という不安から余計に間に合わなくなったりすることがあります。
また、
「迷惑をかけたくない」
「恥ずかしい姿を見られたくない」
という気持ちから、失敗を隠そうとする方もいます。
私たちから見ると排泄の問題に見えていても、本人の中では不安や羞恥心との戦いになっていることも少なくありません。
排泄の失敗は身体の問題だけではなく、心の問題でもあるのです。
認知症だけが原因とは限らない
ここでぜひ知っておいていただきたいことがあります。
それは、
トイレの失敗=認知症の進行とは限らない
ということです。
実際の現場では、
- 体重が増えて下着がきつくなった
- 汗で下着が張り付いて下ろしにくい
- ズボンのゴムが強すぎる
- 下肢筋力が低下した
- 歩く速度が落ちた
- 立ち座りに時間がかかる
といった理由で失敗が増えることがあります。
例えば以前は、
「トイレまで付き添えば自分でできていた」
方が、
筋力低下によって手すりを何度も持ち直さなければならなくなり、結果として間に合わなくなることもあります。
これは認知症が進行したというより、
身体機能の変化による影響です。
「失敗が増えた」だけを見る危険性
怖いのはここです。
背景を見ずに、
「排泄の失敗が増えた」
という結果だけを見てしまうことです。
すると、
- リハビリパンツを使おう
- パッドを増やそう
- 定期的に声を掛けよう
- トイレ誘導を増やそう
という方向へ進みやすくなります。
もちろん必要な場合もあります。
しかし本当の原因が、
「下着がきつい」だったらどうでしょう。
「汗で下ろしにくい」だったらどうでしょう。
「筋力低下で動作に時間がかかる」だったらどうでしょう。
原因を見誤ると、
本人には負担が増え、
職員や家族にはやることが増え、
結果として誰も楽にならない状況が生まれてしまいます。
本人も原因が分かっていないことがある
認知症の方は、
- 下着がきつい
- 動きにくい
- 間に合わない
- 焦る
といった感覚があっても、
それを上手く言葉にできないことがあります。
また、
本人自身も原因を整理できていないことがあります。
そのため、
「なんで失敗したの?」
と聞かれても答えられません。
だからこそ私たちは、
失敗という結果だけではなく、
その人の生活の中で何が起きているのか
を見る視点を持つ必要があります。
それもまた、
「生活を支える介護」
に繋がるのではないでしょうか。
本人は一番傷ついている
排泄の失敗は、本人にとっても大きな出来事です。
大人として何十年も生きてきた人が、
- 人前で漏らしてしまう
- 着替えを手伝われる
- 片付けてもらう
という状況になります。
これは想像以上に辛いことです。
だからこそ、
- 汚れた下着を隠す
- ごまかそうとする
- 認めない
という行動が見られることがあります。
しかしそれは、
困らせたいからではありません。
「恥ずかしい」
「怒られたくない」
という気持ちの表れかもしれないのです。
「トイレに行きましょう」が逆効果になることもある
排泄の失敗が増えると、
「早めにトイレへ誘導しよう」
と考えるのは自然なことです。
しかし、関わり方によっては、その声掛けが逆効果になることもあります。
例えば、
- 急かす
- 命令口調になる
- 大勢の前で声を掛ける
- 子どもに話すような口調になる
こうした関わりは、
本人の羞恥心や抵抗感を強めてしまうことがあります。
本人にとって排泄はとてもプライベートなことです。
だからこそ、
「失敗させないこと」
だけを目的にしてしまうと、本人の気持ちが置き去りになってしまうことがあります。
「失敗しないこと」が目的になり過ぎる危険
私たちはつい、
「失敗させないこと」
を目標にしてしまいがちです。
それ自体は決して間違いではありません。
しかし、
- とにかく排泄管理
- とにかく失敗させない
- とにかくオムツ
- とにかく誘導
という方向に進み過ぎると、
- 自立の機会が減る
- 羞恥心が強くなる
- 活動量が減る
- 本人の自信を失わせる
といった別の問題が生まれることもあります。
私たちが目指したいのは、
「失敗ゼロ」
ではなく、
「その人らしく生活できること」
であるはずなのです。
よくある“やってしまいがちな対応”
排泄の問題は介護者の負担も大きいため、つい感情的になってしまうことがあります。
しかし、良かれと思っている対応が、本人をさらに苦しめてしまうこともあります。
否定する
「漏らしてるよ!」
「また失敗したの?」
本人は混乱していることも多く、責められているように感じてしまいます。
また、認知症の方の中には、自分なりに頑張ってトイレへ行こうとしていた方も少なくありません。
その結果だけを否定されると、
「自分はダメなんだ」
という気持ちや不安につながってしまうことがあります。
急がせる
「早く!」
「間に合わないよ!」
焦りはさらに失敗を招きます。
特に高齢になると、身体は思うように動かなくなります。
本人も急ぎたい気持ちはあるのに身体がついていかないため、急かされることで余計に焦り、動作が乱れてしまうこともあります。
正論で説得する
「トイレはここでしょ」
「さっき説明したでしょ」
私たちには当たり前でも、認知症の方には理解できないことがあります。
分からないものは、分からないのです。
説明すれば解決する問題であれば、本人も困っていません。
正論は正しいからこそ、できない本人を追い詰めてしまうことがあります。
叱る
叱られることで、
- 隠す
- ごまかす
- トイレを我慢する
といった行動につながることがあります。
排泄は誰にとってもデリケートな問題です。
失敗を叱られる経験が積み重なると、
「また怒られるかもしれない」
という不安から、本来必要な助けを求められなくなることもあります。
子ども扱いする
排泄の失敗が増えても、その人は人生の先輩であり、一人の大人です。
尊厳を傷つける関わりは避けたいものです。
例えば、
「ちゃんとしようね」
「頑張ればできるからね」
といった言葉も、本人によっては子ども扱いされているように感じることがあります。
支援が必要になったとしても、その人が積み重ねてきた人生や尊厳まで失われたわけではありません。
では、どう関わればいいのか
まず大切なのは、
「失敗を責めないこと」
です。
そして、
「なぜ失敗したのか」
を一緒に考える視点を持つことです。
- トイレの場所は分かりやすいか
- 衣類は扱いやすいか
- 筋力は低下していないか
- 焦らせていないか
- 不安を感じていないか
こうした視点を持つことで見えてくるものがあります。
環境を整える
排泄の失敗は、環境を整えるだけで改善することもあります。
例えば、
- トイレを分かりやすくする
- 夜間照明を設置する
- 動線を整理する
- 着脱しやすい衣類にする
などです。
排泄の失敗が続くと、私たちはつい本人の能力の低下に目が向きがちです。
しかし実際には、
「できなくなった」のではなく、
「やりづらくなっている」だけの場合も少なくありません。
本人を変えることは難しくても、環境を整えることで解決できることは意外と多いのです。
声掛けを工夫する
例えば、
×「また漏らしたの?」
ではなく、
○「大丈夫ですよ」
○「一緒に確認しましょうか」
という声掛けの方が安心感につながります。
認知症の方は、失敗そのものよりも「怒られるかもしれない」という不安を抱えていることがあります。
だからこそ、正しい説明よりも先に安心できる関わりが大切になることがあります。
タイミングを整える
排泄のリズムを把握し、
- 起床時
- 食後
- 就寝前
など、自然な流れでトイレへ誘導することも有効です。
失敗してから対応するのではなく、成功しやすいタイミングを見つけることも大切です。
人によって排泄のリズムは異なります。
「なぜ失敗したのか」だけでなく、「いつなら成功できるのか」という視点を持つことで、本人も介護者も楽になることがあります。
「失敗を責めない空気」を作る
本人にとって大切なのは、
失敗したことそのものではなく、
失敗した後にどう扱われるか
です。
誰でも失敗した時に責められれば萎縮します。
認知症の方も同じです。
むしろ、自分でも理由が分からず失敗しているからこそ、不安や戸惑いは大きいのかもしれません。
だからこそ、
「大丈夫ですよ」
「一緒にやりましょう」
という安心できる関わりが、次の成功につながることもあります。
オムツやパッドとの向き合い方
オムツやパッドは、排泄ケアにおいて重要な道具です。
しかし本人にとっては、
- 年寄り扱いされた気がする
- 自分はもう何もできないと思う
- 情けない
と感じることもあります。
だからこそ、
「安全のためだから」
だけで押し切るのではなく、
本人の気持ちにも目を向けたいものです。
オムツやパッドは、
能力を奪うためのものではなく、
その人らしい生活を支えるための道具
という視点も大切なのではないでしょうか。
家族や職員が限界を感じるのも当然
排泄介助は決して簡単なことではありません。
- 洗濯
- 掃除
- 夜間対応
- 臭いへの対応
- 精神的な疲労
様々な負担があります。
イライラしてしまう日があっても不思議ではありません。
だから、
イライラしてしまう自分を責め過ぎる必要はありません。
ただし、そのイライラを本人への怒りとしてぶつけ続けてしまうと、
本人も苦しくなり、
介護者自身も苦しくなっていきます。
時には周囲の力を借りながら、一人で抱え込み過ぎないことも大切です。
おわりに
認知症の方のトイレの失敗は、
決して「わざと」ではありません。
そこには、
- 記憶障害
- 見当識障害
- 実行機能障害
- 判断力の低下
- 身体機能の変化
- 環境の問題
- 不安や羞恥心
など、様々な要因が複雑に絡み合っています。
そして時には、
認知症そのものではなく、
下着や筋力低下といった生活上の小さな変化が原因になっていることもあります。
だからこそ私たちは、
「失敗した」
という結果だけではなく、
「なぜその失敗が起きたのか」
に目を向けたいものです。
「失敗」の向こうに、その人を見る
認知症の方のトイレの失敗は、
その人らしさが失われた証拠ではありません。
認知症によって、
今まで当たり前にできていたことが難しくなっているだけなのです。
だからこそ必要なのは、
責めることではなく、
「なぜ難しくなっているのか」
を理解しようとする視点です。
排泄の失敗という結果だけを見るのではなく、
その背景にある困りごとや気持ちに目を向けること。
それこそが、認知症の方の生活を支える第一歩なのかもしれません。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。
詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!
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