※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
認知症の方の「怒り」は、誰かを傷つけたい気持ちではなく、不安や混乱、伝わらない苦しさの表れであることがあります。
この記事では、認知症の方が怒りっぽくなる理由を中核症状との関係から解説し「怒っている人」ではなく「困っている人」として理解するための視点や関わり方についてお伝えします。
【要点】
- 認知症の方が怒りやすくなる理由が分かる
怒りは性格の問題だけではなく、記憶障害や見当識障害、失行、実行機能障害などの中核症状や、不安・混乱と深く関係していることを解説します。 - 怒りの奥にある気持ちや苦しさを理解できる
「怒っている人」ではなく「分かってもらえない苦しさ」「気持ちが伝わらない辛さ」「自尊心の傷つき」を抱えた人として捉えるための視点を紹介します。 - 怒りを強めてしまう関わり方と、安心につながる対応が分かる
否定する、急かす、試す、説得するといった関わりがなぜ逆効果になりやすいのかを解説し、不安を和らげるための接し方や、一人で抱え込まないための考え方を紹介します。
【この記事で分かること】
・認知症の方が怒りやすくなる原因と、その背景にある中核症状
・「怒っている人」ではなく「困っている人」として理解するための視点
・怒りを止めるのではなく、安心を増やすための関わり方のヒント
家族介護・介護職のどちらにも役立つ、認知症の方の怒りの奥にある気持ちを理解し、より良い関係づくりにつなげるための内容です。
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
はじめに
「最近、怒りっぽくなった気がする」
「ちょっとしたことで怒鳴るようになった」
「優しかった人が別人のようになってしまった」
認知症の方と関わる中で、このような悩みを抱える家族や介護職の方は少なくありません。
- 何を言っても怒る
- 注意すると怒鳴る
- 介護を拒否する
- 暴言が増えた
- 攻撃的になった
こうした姿を前にすると、私たちは強く傷つきます。
「もう優しくできない」
「怖い」
「なんでこんな言い方をされなければいけないのだろう」
そう感じることもあるでしょう。
ですが、認知症の方の“怒り”は、単なる性格の問題だけではないことがあります。
そこには、
- 不安
- 混乱
- 恥ずかしさ
- 自尊心の傷つき
- 伝わらない苦しさ
- 分からない恐怖
など、様々な感情が隠れていることがあるのです。
この記事では、認知症の方がなぜ怒りっぽくなってしまうのかを、
- 中核症状
- 本人の世界
- 周囲との認識のズレ
- 関わり方の影響
という視点から、できるだけ分かりやすく解説していきます。
認知症の「怒り」は、性格の問題だけではない
認知症の方の怒りについて考える時、まず知っておきたいことがあります。
それは、
“怒ること”が、その人の目的ではないということです。
実際には、
- 怖い
- 分からない
- 不安
- 恥ずかしい
- 混乱
- 自分を守りたい
という感情が、怒りとして表現されている場合があります。
特に家族は、
「昔はこんな人じゃなかった」
という強いショックを受けやすいものです。
- 温厚だった
- 優しかった
- 怒鳴る人ではなかった
そんな人が突然怒りっぽくなると、
「人格が変わってしまった」
ように感じてしまうことがあります。
ですが実際には、認知症による様々な“生きづらさ”が積み重なり、
その結果として怒りが表に出ている場合があるのです。
怒りは「防御反応」でもある
例えば私たちも、
- 説明されても理解できない
- 自分だけ状況が分かっていない
- 失敗を責められる
- 急かされる
- バカにされる
- 何度も間違いを指摘される
と、強いストレスを感じます。
認知症の方は、それに近い状況が日常的に起きている可能性があります。
私たちも強い不安や恐怖を感じた時には、
自分を守ろうとして反射的に怒りが出てしまうことがあります。
つまり怒りとは、
「自分を守ろうとする反応」
でもあるのです。
本人も好きで怒っているわけではなく、
“どうしていいか分からない苦しさ”の中にいることがあります。
なぜ認知症で怒りっぽくなるのか
認知症の方の怒りやすさは、認知症そのものの症状というよりも、中核症状によって生じた不安や混乱、自尊心の傷つきが行動として現れたものと考えられています。
このような行動や心理症状は、BPSD(行動・心理症状)の一つとして知られています。
① 記憶障害による混乱と不信感
認知症では、最近の出来事を覚えておくことが難しくなります。
すると、
「さっき説明したでしょ」
「もう食べましたよ」
と言われても、本人の中にはその記憶がありません。
つまり本人からすると、
- 聞いていない
- 心当たりがない
- 急に怒られた
- 理不尽に責められた
ように感じることがあります。
その結果、
「そんなこと聞いてない!」
「なんで怒られるんだ!」
という怒りに繋がることがあります。
本人は“わざと忘れている”わけではありません。
しかし周囲との認識にズレが生まれることで、不信感や怒りが強くなってしまうのです。
② 見当識障害による不安
認知症では、
- 今がいつか
- ここがどこか
- なぜここにいるのか
が分からなくなることがあります。
これは非常に強い不安や恐怖を伴います。
例えるなら、
“知らない場所で突然目覚めた状態”
に近いかもしれません。
そんな中で、
- 行動を止められる
- 急に説明される
- 指示される
- 「ダメ」と言われる
と、さらに混乱が強くなります。
不安が強い時、人は防御的になります。
そしてその防御反応が“怒り”として表現されることがあるのです。
③ 判断力・理解力の低下による混乱
認知症では、情報を整理したり理解したりする力も低下していきます。
周囲は普通に説明しているつもりでも、本人にとっては処理しきれないことがあります。
例えば、
- 一度にたくさん話される
- 話が早い
- 同時に複数の指示を受ける
- 専門用語を使われる
などです。
すると、処理能力の限界を超えた情報が頭の中で溢れだし、
「もう分からない!」
という状態になります。
しかし本人は、自分が混乱していることを上手く説明できないことがあります。
その結果、怒りとして感情が噴き出してしまうことがあるのです。
④ 失行による「できない苦しさ」
認知症では“失行”という症状がみられることがあります。
これは、
『身体の機能は問題ないのに、やり方が分からなくなる』
という状態です。
例えば、
- 着替えの順番が分からない
- ボタンの留め方が分からない
- 箸の使い方で混乱する
- トイレの手順が分からない
などがあります。
しかし周囲から見ると、
「身体は動くのにやらない」
ように見えることがあります。
すると、
「早くして」
「なんでできないの?」
「いつもやってたでしょ」
と言われてしまうことがあります。
ですが本人の中では、
“どうすればいいのか分からない”
という状態です。
それは、私たちが突然、
使い方の分からない道具を渡されて焦る感覚に近いかもしれません。
そして、
- できない
- 責められる
- 焦る
- 恥ずかしい
という感情が積み重なることで、怒りに繋がっていくことがあります。
⑤ 実行機能障害による「頭の渋滞」
認知症では“実行機能障害”という症状もみられます。
これは、
- 順番立てて考える
- 計画する
- 次に何をするか考える
- 複数の情報を整理する
といった力が低下する状態です。
例えば、
- 次に何をすればいいか分からない
- 途中で止まってしまう
- 手順が整理できない
- 同時に言われると混乱する
などが起こります。
本人の頭の中では、
“渋滞”
が起きているような状態かもしれません。
そんな時に、
「まだ?」
「早く!」
「なんで止まってるの?」
と急かされると、さらに混乱が強くなります。
そして、
「分からない」
↓
「焦る」
↓
「混乱する」
↓
「怒る」
という流れに繋がることがあります。
本人も、怠けているわけではありません。
むしろ、
“頑張って考えているのに追いつかない”
苦しさの中にいることがあるのです。
⑥ 自尊心が傷ついている
たとえ認知症になっても、
“人としての誇り”
は失われません。
しかし日常では、
- 間違いを指摘される
- 子ども扱いされる
- 「できない人」として扱われる
- 失敗を笑われる
ことが増えていきます。
すると本人は、
「見下された」
「バカにされた」
と感じることがあります。
怒りは、
“自尊心を守ろうとする反応”でもあるのです。
⑦ 「伝わらない」という苦しさ
認知症では、
- 言葉が出ない
- 上手く説明できない
- 気持ちを整理できない
ことがあります。
ですが本人は、一生懸命伝えようとしていることも多いのです。
それなのに、
「何言ってるか分からない」
「また変なこと言ってる」
という扱いをされると、非常に辛いものがあります。
そして、
「違う!!」
「そうじゃない!!」
という怒りに繋がることがあります。
そして私たちは「怒り」という『結果』だけを見てしまう
怒るという感情は、とてもシンプルで分かりやすい感情表現です。
しかしその“分かりやすさ”の裏には、
- 分からない苦しさ
- 伝わらない辛さ
- 出来ない焦り
- 不安
- 混乱
など、様々な感情が隠れていることがあります。
だからこそ認知症の「怒り」は、中核症状を網羅するほど多くの原因と繋がっているのかもしれません。
私たちはつい「怒っている」という表面だけを見てしまいます。
ですが認知症ケアでは、その怒りを生み出している背景に目を向けることが大切です。
実は、周囲の関わりで怒りが強くなることもある
認知症の方の怒りは、周囲の関わり方によって強くなることがあります。
これはBPSDとしての『怒り』を理解する上で、とても重要な視点になります。
否定される
例えば、
- 「違うでしょ」
- 「さっき食べたでしょ」
- 「それは間違いです」
- 「もう帰れません」
これらは“正論”かもしれません。
ですが、本人の世界と私たちの世界では、
『事実』が全く異なっている、ということは珍しくありません。
そして自分の世界を否定されると、人は防御的になります。
それが、怒りに繋がってしまうことがあります。
急かされる
認知症の方は、情報処理に時間がかかることがあります。
そこに、
- 「早くして」
- 「まだ?」
- 「先にこれやって」
が重なると、焦りと混乱が強くなります。
特に実行機能障害がある方には“考える時間”と“待つ時間”というものが、
とても重要になってくるのです。
試される
家族がついやってしまいやすい行動の一つです。
- 「私の名前分かる?」
- 「今日は何日?」
- 「覚えてる?」
本人からすると、
“できない確認をされ続ける”
“分かり切った質問をされている”
ような感覚になることがあります。
このような質問が、知らず知らずのうちに自尊心を傷つけていることも少なくありません。
「説得」が逆効果になることもある
認知症ケアでは、
“正しさ”より“安心”
が優先されることがあります。
例えば『家に帰りたい』というその方の希望に対して、
正論で説得しても、不安そのものが消えるわけではありません。
怒りも同じです。
本人が求めているのは、
「論破」ではなく「安心」
かもしれないのです。
怒りの奥にある“本当の感情”を見る
怒っている時、私たちは表面だけを見てしまいがちです。
- 暴言
- 拒否
- 威圧
- 攻撃的な言葉
しかしその奥には、
- 不安
- 恐怖
- 寂しさ
- 恥ずかしさ
- 混乱
- 助けてほしい気持ち
が隠れていることがあります。
つまり“怒り”という表現方法は
困っていたり悩んでいるという、声にできない訴えの入口でしかない
ともいえるのです。
では、どう関わればいいのか
① まず感情を受け止める
正しいか間違っているかより先に、
「嫌だったんですね」
「不安でしたね」
と感情を受け止めることが大切です。
感情が落ち着くと、その後の話が入りやすくなることがあります。
② 否定から入らない
例えば、
×「違います」
↓
○「そう思ったんですね」
この違いはとても大きいものです。
③ 情報量を減らす
- 一度に一つ
- 短く
- ゆっくり
- シンプルに
これだけでも混乱が減ることがあります。
④ “できること”を見る
認知症ケアは
『できないこと探し』や
『できなくなったこと探し』になりやすいものです。
ですが、
- まだできること
- 得意なこと
- 本人らしさ
を大切にする関わりは、自尊心を守ることに繋がります。
⑤ 怒りの「きっかけ」を探す
怒りには、パターンがあることも少なくありません。
- 特定の時間帯
- 特定の職員
- 疲れている時
- 空腹時
- トイレ前後
- 騒がしい環境
などです。
つまり怒りは
“性格”ではなく“環境との相互作用”
で起きている場合もあるのです。
家族や介護者が傷つくのは自然なこと
怒鳴られれば、辛いものです。
否定されれば、悲しくなります。
優しくできなくなる日もあるでしょう。
介護者側の感情も、決して無視してはいけません。
だからこそ、
- 一人で抱え込まない
- 頑張りすぎない
- 距離を取る
- 周囲に相談する
ことも大切です。
穏やかだった人が怒るようになった時
また、あなたの記憶の中では優しく微笑んでいた人が、今は毎日のように怒っている――
そんなこともあるかもしれません。
そして認知症の種類や進行によっては「性格変容」と呼ばれる変化がみられることもあります。
もちろん、全てが認知症の影響とは限りません。
しかし、優しかった目の前の人が怒っていることは、あなたのせいではないかもしれませんし、その人本来の性格だけが原因でもないかもしれません。
風邪を引けば熱が出たり頭が痛くなったりするように、
認知症という病気が、その人の感情や行動に影響を与えている可能性もあるのです。
一人で抱え込まなくてもいい
だからこそ、家族だけで抱え込む必要はありません。
関わり方を工夫することも大切ですし、環境を見直すことも大切です。
それでも本人の苦しさや怒りが強く続く場合には、主治医や専門医に相談し、治療や薬の力を借りることが必要な場合もあります。
大切なその方が穏やかに生活できるように、
家族、介護職、医療職など様々な人が力を合わせること。
それもまた、大切な認知症ケアなのではないでしょうか。
「怒り」を止めるのではなく「安心」を増やす
認知症ケアでは、
“怒らせない技術”
より、
“安心できる関係作り”
の方が大切なことがあります。
怒りだけを止めようとすると、
- 抑え込む
- 説得する
- 管理する
という方向に向かいやすくなります。
ですが、
「なぜ怒っているのか」
「何が不安なのか」
に視点を当てることで、関わりは変わっていきます。
怒りとは、
認知症の方が抱える様々な苦しさの“出口”として現れているのかもしれません。
おわりに
認知症の方の怒りは、周囲を傷つけることがあります。
ですがその奥には、
- 分からない苦しさ
- 伝わらない辛さ
- 自分を守ろうとする必死さ
が隠れていることがあります。
もちろん、全てを受け止めきることは簡単ではありません。
それでも、
「困った人」ではなく、
「困っている人」かもしれない
という視点は、認知症ケアを大きく変えていきます。
認知症の方の怒りは、私たちにとって分かりやすい感情だからこそ、
その奥にある苦しさを見落としてしまいやすいものです。
だからこそ
「なぜ怒るのか」ではなく、
「何に困っているのか」という視点を持つことが、
認知症ケアの大切な第一歩になるのではないでしょうか。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。
詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!
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認知症の方の怒りは、単なる性格の問題ではなく、中核症状による不安や混乱、自尊心の傷つきなど、様々な要因が重なって生じることがあります。
怒りという表現の奥にある気持ちを理解するために、以下の記事もあわせてご覧ください。
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