傾聴とは ~誤解されやすいポイントと実践のコツ~

認知症ケアについて
この記事は約11分で読めます。
筆者アイコン

※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。

ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。

本記事では「傾聴」は“黙って聞く”ことではなく“積極的に関わる”ことだということが分かります。
筆者プロフィールはこちら

📝 この記事の要約

【この記事で伝えたいこと】

「傾聴」は、ただ黙って話を聞くことではなく、相手の言葉や感情に関心を向け、“積極的に理解しようとする”関わり方です。

この記事では、認知症ケアにおける傾聴の意味や、介護現場で実践できる5つのテクニック、関わる際に大切な視点をわかりやすく解説します。


【要点】

  1. 「傾聴=黙って聞くこと」ではない理由が分かる
    傾聴とは、ただ相手の話を聞くのではなく、言葉の裏にある感情や思いに関心を向け「あなたを理解したい」という姿勢で積極的に関わることだと解説します。
  2. 介護現場で使える5つの傾聴テクニックが分かる
    「おうむ返し」「感情のラベリング」「要約」「沈黙の活用」「非言語的サイン」の5つを、具体的な会話例とともに紹介します。
  3. 認知症の方の気持ちに寄り添うための実践的な視点が分かる
    「帰りたい」「財布を盗られた」などの言葉を表面的に否定・訂正するのではなく、その背景にある気持ちを考える方法や、傾聴で避けたい対応、支援者自身が意識したいことを解説します。

【この記事で分かること】

・傾聴が「ただ黙って聞くこと」ではない理由
・認知症の方の言葉の裏にある“気持ち”を聴くための考え方
・介護現場ですぐに使える5つの傾聴テクニック
・傾聴するときに避けたい対応や、関わる側が意識したいこと

家族介護・介護職のどちらでも、認知症の方との会話や関わりに活かせる「傾聴」の考え方と実践方法が身につく内容です。

※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。

はじめに

「傾聴」という言葉の重み

認知症介護の現場では、日々の会話や関わりの中で「どう応答すればいいのか」「本人の言葉にどう寄り添えばいいのか」と悩む場面が少なくありません。

その中でしばしば強調されるのが「傾聴」という姿勢です。

傾聴は、介護において非常に重要なテクニックの一つですが、
実際には誤解されていることも多いのが現状です。

「とにかく否定も肯定もせず、本人の意見を受け止めること」
「ただ静かに耳を傾けること」

——こうした理解をしている人もいるかもしれません。

しかし、それだけでは本来の傾聴の意味を十分に捉えているとはいえません。

傾聴の本質は「積極的に聞くこと」

実際には、傾聴とは

「何も返さず、ただ聞いていればよい」
「相手の言葉を否定せず受け止めれば、それで十分」

という消極的なものではなく、相手の言葉や感情に寄り添いながら“積極的に聞く”姿勢が求められます。

英語では「アクティブリスニング(Active Listening)」と呼ばれることが、その意味を端的に表しています。

それでは、この「積極的に聞く」とは具体的にどのようなことを指すのでしょうか。

本記事では、傾聴の誤解を整理しつつ、介護現場で活用できるテクニックとその根拠、そして実践する際の注意点をわかりやすく解説していきます。

傾聴の誤解:ただ黙って聞くだけではない

まず整理したいのは「傾聴=受け身で黙って聞くこと」という誤解です。

確かに、相手の言葉を遮らずに聞くことは大切ですが、

ただ黙って聞いているだけでは「本当に話を聞いてもらえているのだろうか」と感じさせてしまうこともあります。

傾聴の本質は「言葉の背後にある感情や思いを理解しようと努めること」です。

聞いている姿勢を相手に伝え、

相手自身が自分の気持ちを整理したり安心できるように関わることが重要なのです。

言葉の裏にある“気持ち”を聴くということ

傾聴が難しいのは、言葉を「聞くこと」自体よりも、

その裏にある“気持ち”を汲み取る力が求められるからです。

たとえば「帰りたい」と言う方がいたとき、多くの職員は「今は帰れません」と正直に伝えようとするでしょう。

間違ってはいませんが、それでは相手の“本当の思い”に届きません。

そして「帰りたい」という同じ言葉でも、
その背景にある気持ちは人によって異なるのです。

例:「帰りたい」という言葉をどう聴く?

① 表面に現れている言葉

🗣️「家に帰りたい」

    ↓

② その奥にある気持ちを考えてみる

・家族に会いたいのかな?
・ここがどこなのか分からず不安なのかな?
・自分の居場所だと感じられていないのかな?
・何かしなければならないと思っているのかな?
・昔の生活に戻りたいのかな?

    ↓

③ 気持ちに耳を傾けてみる

💬「お家のことが気になりますか?」
💬「何か心配なことがありますか?」
💬「今日は少し寂しくなりましたか?」

大切なのは「正解を当てること」ではありません。

「帰りたい=家族が恋しい」と決めつけるのではなく、
なぜこの方はいま『帰りたい』と言ったのだろう?と考え、
本人の気持ちを知ろうとすることが傾聴につながります。

傾聴とは、その表面的な言葉を「訂正」することではなく「気持ちの声」に耳を傾けることです。

「家族のことが気になりますか?」「急に寂しくなってしまいましたか?」
などと問いかけながら気持ちに寄り添うことで、安心につながることがあります。

つまり傾聴とは“正しい返答”を探す技術ではなく、

相手の存在、今の気持ちを認める姿勢の積み重ねです。

この姿勢があるだけで、たとえ会話が途切れても、

沈黙の時間が「安心の時間」に変わっていくでしょう。

「積極的に聞く」とはどういうことか?

積極的に聞くとは、単なる受け身ではなく、相手の話に対して理解と関心を示すことです。ポイントは次の3つに集約できます。

  1. 相手の言葉を正確に受け止めていることを伝える
  2. 感情や思いに共感しようとする姿勢を示す
  3. 本人が自分の気持ちに気づき、安心できるように関わる

これらを具体的に実践するために、いくつかのテクニックがあります。以下で代表的な方法を解説します。

介護現場で使える5つの傾聴テクニック

時間ではなく“意識”で変わる関わり

介護の現場で傾聴を実践する上で、多くの職員がぶつかる壁があります。

それは「忙しい中で一人ひとりの話を丁寧に聞く余裕がない」という現実です。

食事介助、排泄介助、記録、送迎——分刻みのスケジュールの中で、ゆっくりと向き合う時間を確保するのは簡単ではありません。

それでも傾聴が大切なのは、それがケアの“質”を左右する土台だからです。

たとえば、落ち着かない利用者への声かけが
「早く座ってください」から「何か気になることがありますか?」
に変わるだけで、関係性が変わります。

ほんの数秒でも「気持ちを受け止めよう」という意識があると、相手の反応や表情がやわらぐのです。

傾聴は、時間をかけることではなく「意識の向け方」を変えることだといえます。

傾聴=長時間話を聞くこと、ではありません

ほんの数秒でも、

「この方はいま何を感じているのか」
「どうしてその言葉を選んだのか」

と想像して言葉を返すだけでも、関わり方が変わってきます。

こうした姿勢は、本人との関係だけでなく、職員同士の関わり方にも影響します。

一人の職員が傾聴的な姿勢を保つことで、周囲の職員にも少しずつ関わり方が広がり、施設全体の雰囲気が変わっていく——そうした変化を、現場では何度も目にしてきました。

① おうむ返し(リフレクティング)

相手が話した言葉を繰り返したり、意味を変えない程度に言い換えて返す方法です。

👤「今日は疲れたよ」

👨‍⚕️「今日は疲れたんですね」

効果:認知症によって状況を理解しづらかったり、自分の思いを伝えにくかったりする場合には、こうした確認が安心につながることがあります。

なぜ有効?:心理療法でも用いられる基本技術で、信頼関係構築に有効とされています。

ここがポイント:何でもそのまま繰り返すと、機械的な印象になります。表情や声の調子にも目を向けながら返すことが大切です。


② 感情のラベリング(感情の明確化)

相手がうまく言葉にできていない感情を想像し、言葉にして返す方法です。

👤「帰らなきゃいけないのよ」

👨‍⚕️「ご家族のことが気になっているんですね」

効果:気持ちを言葉にして返すことで、本人が自分の思いを整理しやすくなったり「分かってもらえた」という安心につながることがあります。

なぜ有効?:心理学では「感情をラベル化するだけでストレスが軽減される」と報告されています。

ここがポイント:大切なのは、職員が相手の気持ちを決めつけないことです。

「○○なんですね」と断定するだけでなく、

「○○が気になりますか?」
「もしかして、少し不安ですか?」

など、本人に確かめながら関わることも大切です。


③ 要約(サマライジング)

相手が話した内容を短く整理して返します。

👤「今日は買い物に行ってね。それから友達に会って……」

👨‍⚕️「今日は買い物に行って、お友達とも話せて、楽しかったんですね」

効果:長くなった話や、まとまりにくくなった話を整理することで「あなたの話をこう理解しました」と伝えることができます。

なぜ有効?:カウンセリング技法の一つで、相手の自己理解を助けます。

ここがポイント:正しくまとめること以上に、本人が「分かってもらえた」と感じられることが大切です。


④ 沈黙の活用

傾聴では、必ずしもすぐに返事をする必要はありません。

👤「えーっと……あれは……」

👨‍⚕️「…………」
(急かさず、穏やかに待つ)

効果:相手が自分のペースで考えたり、話を続けたりできます。

なぜ有効?:急かされないことで安心感が生まれます。
特に認知症の方は、言葉を思い出したり、自分の考えをまとめたりするまでに時間が必要なこともあるため有効です。

ここがポイント:職員が沈黙を埋めようとせず、「相手の言葉を待つ」ことも積極的な傾聴の一つです。


⑤ 非言語的サイン

傾聴は、言語だけで行うものではありません。
うなずき、視線、表情、姿勢なども「聞いていますよ」というメッセージになります。

👤「昨日ね、こんなことがあって……」

👨‍⚕️ 相手に身体を向ける・うなずく・表情を合わせる

効果:言葉が出にくい方にも安心を感じてもらえます。

なぜ有効?:言葉だけでなく、表情・視線・姿勢や身体の向きなどの非言語的な情報も「あなたの話に関心を持っています」という、メッセージや安心感を伝える重要な要素です。

ここがポイント:じっと見つめ続けるなど、相手にとって負担になる関わりにならないように気を付けましょう。


5つを全部使う必要はありません

「返す」「気持ちを言葉にする」「まとめる」「待つ」「態度で示す」。

相手やそのときの状況に合わせて使い分けることが大切です。

テクニックを使うこと自体が目的ではなく、
「あなたの話を理解したい」という姿勢を伝えるための方法だと考えてみましょう。

傾聴がもたらす効果

傾聴は単に「よく話を聞いてあげる」ことにとどまらず、さまざまな効果をもたらします。

  • 心理的安心:「理解してもらえた」という安心感が、不安や混乱をやわらげる。
  • 信頼関係の構築:職員や家族を「自分をわかってくれる存在」と認識し、協力的な関係が築きやすくなる。
  • BPSD(行動・心理症状)の緩和:不安や孤独感が和らぐことで、落ち着かない様子や興奮などのBPSDが軽減する一因になることがあります。
  • 自己表現の支援:言葉にしづらい思いを表現する助けとなり、本人の意向や気持ちを尊重したケアにつなげやすくなる。

傾聴で気をつけたい4つのこと

傾聴のつもりでも、次のような対応は逆効果になることがあります。

  1. すぐにアドバイスする
     → 話を「解決してあげること」が目的になり、本人の気持ちを置き去りにしてしまう。
  2. 話を遮る・急かす
     → 認知症の方は言葉を探すのに時間がかかることが多く、遮られると自信を失う。
  3. 否定や訂正ばかりする
     → 「違うよ、それはこうだよ」と事実を正すことが本人にとっては安心ではなく混乱を生む場合がある。
  4. 上の空の相槌
     → 形式的な「はいはい」では逆に不信感を与えてしまう。

介護現場での応用例

👤「ご飯なんて食べたくない」と言う方

「食欲がないですか?」「何か気になることがありますか?」と、食べたくない理由や気持ちを確かめながら、
本人が抱えている不快感や不安を理解することにつなげる。

👤「財布を盗られた!」と訴える方

「財布が見つからなくて心配なんですね」と不安な気持ちを受け止めたうえで、
「一緒に探してみましょうか」と伝え、否定や訂正ではなく安心につなげる。

👤「寂しい」と漏らす方

「寂しい気持ちなんですね」と受け止めた後に、
「私も一緒にいますよ」と具体的な安心を伝える。

こうした小さな積み重ねが、介護の質を大きく左右します。

傾聴を続けるために|支援者自身の感情にも気づく

傾聴を難しくしているもう一つの要素は「自分の感情」との付き合い方です。

相手の話を聞きながら「それは違う」「自分も大変なのに」と心の中で反応してしまうのは、人として当然のことです。

しかし、傾聴の目的は“相手を変えること”ではなく“相手の世界を理解すること”にあります。

感情を押し殺すのではなく、介護者自身も「私はいま、こう感じた」と気づくだけで十分です。

その“気づき”が、介護者自身の冷静さと優しさを保つ支えになります。

相手の話に丁寧に耳を傾け続けるためには、
介護者自身が自分の感情に気づいておくことも大切です。

介護の現場では、他者の気持ちを理解する力と、自分の気持ちを整える力は、表裏一体です。
どちらかが欠けると、共感は「共倒れ」に変わってしまうこともあります。

だからこそ、
傾聴は“技術”であると同時に“ケアする人の生き方”にも通じる大切な姿勢だといえます。

おわりに|まずは3つの意識から始めてみる

傾聴は「ただ聞く」ことではなく「積極的に聞く」ことです。

本人の言葉や感情に寄り添い、理解しようとする姿勢そのものが、安心や信頼を生み出します。

新人職員にとっては難しく感じられるかもしれませんが、

「話をさえぎらない」
「気持ちを言葉にして返す」
「理解していることを伝える」

この3つを意識するだけでも大きな一歩になります。

大切なのは「何と答えるか」よりも「この人はいま何を感じているのか」と考えること。

長い時間を取れなくても、この意識を持つことから傾聴は始められます。

そして誤解を解き、本来の意味での傾聴を実践することは、

介護者にとっても本人にとっても「安心できる関係」を築く礎となるでしょう。

ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。

詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!

関連記事

コメント

タイトルとURLをコピーしました