転倒予防は「転ばない環境」だけでは足りない? ~本人の身体能力の変化を知ることから始めよう~

健康管理・事故予防
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※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。

ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。

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📝 この記事の要約

【この記事で伝えたいこと】

高齢者の転倒予防では、環境を整えるだけでなく、本人の“今の身体能力”とその変化を知っておくことも大切です。
この記事では、立ち上がりや歩行など日常生活の中から変化を捉え「他人との比較」ではなく「以前の本人との違い」に気づくための視点を解説します。


【要点】

  1. 転倒予防では“環境だけでなく本人の変化”を見ることが大切
    手すりや履物、見守り方法などの環境面だけでなく、立ち上がりや歩行、方向転換など、本人の身体能力が以前から変化していないかを見る重要性を解説します。
  2. 日常生活から身体能力の小さな変化に気づく方法が分かる
    椅子からの立ち上がり、歩幅やふらつき、方向転換、普段の移動など、家庭や介護現場でも観察できるポイントと、安全に継続して記録する考え方を紹介します。
  3. 数字は“成績”ではなく「以前の本人」と比べるために使う
    平均値や他の高齢者と比較して評価するのではなく「以前より立ちにくくなった」「歩くのに時間がかかるようになった」といった本人自身の変化に気づき、その原因や必要な支援を考えるために数字を活用する視点を解説します。

【この記事で分かること】

・転倒予防で“環境だけでなく本人の身体能力”を見ることが大切な理由
・立ち上がりや歩行など、日常生活から身体能力の変化に気づくための視点
・数字を「成績」ではなく“以前の本人との変化”を知るために活用する考え方

家族介護・介護職のどちらでも、日頃の小さな変化に気づき、転倒予防や必要な支援につなげるために活用できる内容です。

※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。

はじめに

高齢者が転倒したとき、私たちはまず「なぜ転んだのか」を考えます。

床に物が置いてなかったか。
段差につまずいたのではないか。
履物は合っていたか。
手すりは必要な場所にあったか。
見守りや介助の方法は適切だったか。

そして原因と思われるものを見つけ、環境を整えたり、見守り方法を変更したり、福祉用具を導入したりして、次の転倒を防ごうとします。

もちろん、こうした対策はとても大切です。

しかし、ここでもう一つ考えておきたいことがあります。

「転倒した場所」や「周囲の環境」だけではなく、本人自身に何か変化は起きていなかったでしょうか。

半年前には安定して歩いていた人でも、今は少しふらつきやすくなっているかもしれません。

以前は簡単に立ち上がれていた椅子から、最近は何度か反動をつけなければ立てなくなっているかもしれません。

家族や介護職が「この人はまだ一人で歩ける」と思っていても、実際の身体能力は少しずつ変化している可能性があります。

転倒予防を考えるうえでは、環境を整えることと同じくらい、

「その人が今、どのくらい動けるのか」

を知っておくことが大切です。

そして、それを一度だけ確認するのではなく、継続して見ていく。

そうすることで、転倒する前の小さな変化にも気づけるかもしれません。

この記事では、高齢者の転倒を「転んだ後の対策」だけで考えるのではなく、日頃から本人の身体能力やその変化を知っておくという視点から考えていきます。

転倒すると「環境」や「見守り」に目が向きやすい

介護施設で転倒事故が起こると、事故後には原因分析と再発防止策が検討されます。

「ベッド周囲を整理する」
「動線上の障害物をなくす」
「センサーの位置を変更する」
「移動時の見守り方法を変更する」

在宅介護でも同じです。

「カーペットを撤去しよう」
「廊下に手すりをつけよう」
「夜は足元灯をつけよう」
「履物を見直そう」

こうした環境面への対策は非常に重要です。

しかし、環境だけを変えても転倒を十分に防げないことがあります。

なぜなら、転倒は一つの原因だけで起こるとは限らないからです。

たとえば、これまで問題なく歩いていた廊下で転倒したとします。

廊下には段差がない。
床も濡れていない。
履物にも大きな問題がない。

それでも転倒したのであれば、

「環境が変わったのではなく、本人が変わっていたのではないか」

という視点も必要になります。

昨日まで安全だった環境が、今日も安全とは限らない

高齢者の身体能力は、必ずしも目に見える形で急激に低下するわけではありません。

少しずつ歩幅が狭くなる。

少しずつ立ち上がりに時間がかかる。

少しずつ足が上がりにくくなる。

少しずつ疲れやすくなる。

こうした小さな変化は、毎日一緒にいる家族や介護職ほど気づきにくいことがあります。

毎日の変化があまりに小さいためです。

特に認知症のある方の場合、

「最近、足に力が入りにくくなった」

「以前よりバランスが悪くなった」

「歩くと少し怖い」

といった身体の変化を、本人自身が適切に説明することが難しい場合もあります。

そのため周囲は以前と同じ感覚で、

「この人は一人で歩ける」

「これくらいなら自分でできる」

と判断してしまうことがあります。

しかし、

私たちが記憶している「その人のできること」と、現在の実際の能力が一致しているとは限りません。

ここに、転倒予防を考えるうえでの一つの落とし穴があります。

転倒したときは「本人の能力」にも目を向ける

転倒後に考えたいのは、

「何につまずいたのか」

だけではありません。

「以前と比べて、本人に何か変化はなかったか」

という視点です。

たとえば、

  • 椅子からの立ち上がりに時間がかかるようになった
  • 歩幅が小さくなった
  • すり足が増えた
  • 歩き始めにふらつくようになった
  • 方向転換するときにバランスを崩すようになった
  • 壁や家具につかまることが増えた
  • 長い距離を歩かなくなった
  • 左右どちらかの足を動かしにくそうにしている
  • 座っている姿勢が傾きやすくなった
  • 疲れやすくなった

といった変化がなかったかを振り返ります。

すると、

「そういえば最近、椅子から立つときに机を強く押していた」

「以前より歩くのが遅くなっていた」

「最近、部屋からあまり出なくなっていた」

など、転倒する以前から変化が始まっていたことに気づく場合があります。

つまり転倒は突然起こった出来事に見えても、その前から身体能力低下のサインが出ていた可能性があるのです。

出典:厚生労働省「認知症の人と家族のための支援ガイド」
   厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 高齢者版」

それなら「転ぶ前」から本人の状態を知っておけばいい

ここから、さらに一歩進めて考えてみましょう。

転倒した後に身体能力を確認することが大切なのであれば、

転倒する前から確認しておけば、もっと早く変化に気づける可能性があります。

特別な機械を使わなくても、

「いつもの椅子からどのように立つか」

「歩いたときの歩幅やふらつきはどうか」

「方向転換はスムーズか」

「座っている姿勢は安定しているか」

「左右の足や腕に動かしにくさはないか」

といったことは、日常生活の中でも見ることができます。

重要なのは、本格的な体力測定を家庭で行うことではありません。

その人の「いつもの状態」を知っておくことです。

いつもの状態が分かっているからこそ、

「前はこうではなかった」

という変化に気づくことができます。

何をすると、何を見ることができるのか

高齢者の身体能力を見る方法には、医療・介護・リハビリテーションの分野で使用されているさまざまな評価があります。

たとえば、日本整形外科学会が提唱する「ロコモ度テスト」には、下肢筋力を見る立ち上がりテスト、歩幅から歩行能力を総合的に評価する2ステップテスト、身体の状態や生活状況について確認するロコモ25があります。

ただし、家庭や介護現場で本人の変化に気づくことが目的であれば、必ずしも正式な検査を行う必要はありません。

日常生活の動作を見ることでも、たくさんの情報を得ることができます。

見る動作・項目主に分かること変化として見たいポイント
椅子から立ち上がる下肢の力、立ち上がり能力手を使う、反動が増える、一度で立てない
数m歩く歩行能力、安定性歩幅、速度、すり足、左右差、ふらつき
方向転換するバランス、足の運び歩数が増える、大きく揺れる、何かにつかまる
座位を保つ姿勢・体幹の安定性左右に傾く、ずり落ちる、背もたれへの依存が増える
座って片足ずつ上げる足の動かしやすさ、左右差を知る手がかり高さの変化、保持しにくさ、左右差
両腕を上げる上肢の動きや左右差を知る手がかり上がり方、左右差、痛み
日常生活での移動実際の生活の中での移動能力家具につかまる、休憩が増える、移動を避ける

ここで注意したいのは、この表が病気を診断するためのものではないということです。

「片足が上がらないから筋力低下」

「腕が上がらないから○○という病気」

と家庭や介護職だけで判断するものではありません。

あくまで、

「以前と何か違う」という変化を発見するための手がかり

として利用します。

出典:日本整形外科学会「ロコモONLINE ロコモ度テスト」
   日本整形外科学会「立ち上がりテスト」
   日本整形外科学会「2ステップテスト」

数字を記録する意味は「他人と比べるため」ではない

たとえば、

「椅子から立ち上がって歩き、戻って座るまで○秒だった」

「座った状態で足を○秒上げていられた」

など、身体の状態を数字として残すことがあります。

すると、どうしても、

「平均は何秒なのか」

「同じ年齢の人より良いのか悪いのか」

ということが気になります。

実際、正式な身体機能評価には判定基準や年代別データが設けられているものもあります。

日本整形外科学会のロコモ度テストにも、立ち上がりテストや2ステップテストについて一定の判定方法があります。

しかし、この記事で提案したい日常的な観察では、少し違う使い方をします。

たとえば今日測って「8秒」だったとします。

この8秒を、

「8秒しかできなかった」

と考えるのではありません。

まして、

「同じ年代の平均はもっと良いのだから頑張らなければ」

と本人に努力を求めるための数字でもありません。

今日の8秒は、今日のその人の状態を知るための数字です。

そして大切になるのは、その後です。

1か月後も8秒前後なのか。

以前より時間がかかるようになったのか。

逆に動きがスムーズになったのか。

つまり数字は、

他人と比較するためではなく、

「過去のその人」と「今のその人」を比較するための一つの材料

として使います。

5秒の人と10秒の人、どちらが危険?

たとえば、同じ動作をAさんは5秒、Bさんは10秒でできたとします。

数字だけを見れば、

「Aさんの方が身体能力が高い」

と思うかもしれません。

しかし、これまでの記録を見てみると、

Aさん
3か月前:3秒
2か月前:3秒
1か月前:4秒
今回:5秒

Bさん
3か月前:10秒
2か月前:10秒
1か月前:10秒
今回:10秒

だったとしたらどうでしょうか。

Bさんはもともとゆっくりですが、大きく変化していません。

一方、Aさんには少しずつ変化が見られています。

もちろん、この数字だけで転倒リスクや病気を判断することはできません。

しかし、

「Aさんに何か変化が起きているのではないか?」

と考えるきっかけにはなります。

ここに、継続して本人の能力を見ていく意味があります。

「平均より悪い」ではなく「以前と違う」を見つける

高齢者の身体能力には大きな個人差があります。

年齢だけでなく、

これまでの生活、病気、関節の状態、筋力、認知機能、活動量など、さまざまなものが影響します。

だから、

「80歳ならこれくらいできるはず」

と考えることには注意が必要です。

さらに、数字を本人に対する評価として使ってしまうと、

「先月よりできなくなっていますよ」

「平均より低いですよ」

「もっと頑張らないと」

という声かけにつながることがあります。

しかし、身体能力を測る目的は、本人を採点することではありません。

その人を守るために、その人の変化を知ることです。

数字は「成績」ではありません。

そして数字が下がったことを、本人の努力不足と結びつけるものでもありません。

むしろ、

「なぜ変わったのだろう?」

と支援する側が考えるための情報です。

変化があったら「もっと運動しましょう」で終わらせない

身体能力が落ちているように感じたとき、

「運動不足だからもっと歩いてもらおう」

と考えたくなるかもしれません。

しかし、ここにも注意が必要です。

身体能力の変化には、さまざまな原因があります。

たとえば、

  • 活動量の低下
  • 筋力低下
  • 食事量の低下や低栄養
  • 脱水
  • 関節や腰などの痛み
  • 病気
  • 薬の影響
  • 視力などの変化
  • 疲労
  • 転倒への恐怖

などです。

そのため、

「能力が落ちた=運動させればいい」

とは限りません。

むしろ重要なのは、

「なぜ変わったのか」

を考えることです。

出典:厚生労働省「認知症の人と家族のための支援ガイド」

記録するときは「数字+様子」を残す

可能であれば、数字だけではなく、そのときの様子も一緒に記録しておくと役立ちます。

たとえば、

日付確認したこと数字・結果そのときの様子
4月1日椅子から立つ1回で立てた手を使わず安定
5月1日椅子から立つ1回で立てた両手で座面を押した
6月1日椅子から立つ2回目で立てた立った直後に少しふらつく
7月1日椅子から立つ2回目で立てた机につかまった

このように残しておけば、

「立てる・立てない」

だけでは見えなかった変化が分かります。

家庭であればノートでも構いません。

介護施設であれば、日々の記録やアセスメント、モニタリングの中で共有する方法も考えられます。

また「月1回」という頻度自体に絶対的な意味があるわけではありません。

本人の状態や目的に合わせて、無理なく同じような条件で継続して確認できることの方が重要です。

正式な身体機能評価と「日常の観察」は分けて考える

ここまで紹介した方法と、医療・リハビリテーションなどで行われる正式な評価は分けて考える必要があります。

たとえばロコモ度テストの「立ち上がりテスト」は、決められた高さの台を使用して、所定の方法で立ち上がれるかを確認します。

2ステップテストも、できる限り大股で2歩歩いた距離と身長から値を求める、決められた評価方法です。日本整形外科学会は、2ステップテストについて介助者のもとで行うこと、滑りにくい床を使用すること、バランスを崩さない範囲で行うことなどを注意事項として示しています。

したがって、

正式な評価を自己流に変更して、その判定基準だけを当てはめることは避けた方がよいでしょう。

一方、家庭で、

「最近、椅子から立つときに手を使うようになった」

「以前より歩幅が小さくなった」

と気づくことには大きな意味があります。

家庭や介護現場で行う観察の目的は、

診断することではなく、変化に気づくこと。

ここを分けて考えることが大切です。

片足立ちなど、転倒の危険があることは無理に行わない

バランス能力を見る方法として、片足立ちを思い浮かべる人もいるでしょう。

しかし、すでにふらつきのある高齢者に、

「何秒できるか試してみましょう」

と片足立ちをしてもらい、そこで転倒してしまっては本末転倒です。

同じように、低い椅子から無理に立ってもらったり、最大限の大股で歩いてもらったりすることにも危険があります。

実際、日本整形外科学会の立ち上がりテストにも「無理をしない」「痛みが出そうなら中止する」「反動による後方転倒に注意する」といった注意事項があります。

家庭で変化を見るために、危険な動作をあえて行う必要はありません。

安全にできることだけを見る。

そして、より詳しく身体機能を知る必要があれば、医師や理学療法士、作業療法士などの専門職につなげる。

この線引きが大切です。

認知症の方なら、普段の生活を見ることも大切

認知症のある方では、

「ここから立ってください」

「できるだけ大股で2歩歩いてください」

といった指示そのものが伝わりにくいことがあります。

この場合、テスト結果が悪かったとしても、

本当に身体能力が低下しているのか、

指示の意味が分からなかったのか、

その日の気分や体調によるものなのか、

判断が難しくなります。

だからこそ、認知症介護では普段の生活そのものが重要な観察場面になります。

トイレに向かうとき。

食卓の椅子から立つとき。

自分の部屋からリビングへ来るとき。

椅子に座ろうと方向転換するとき。

こうした本人にとって自然な動作の中で、

「以前と何か違う」

を見つける。

認知症のある方にとっては、無理に検査を行うよりも、こちらの方が実際の生活能力を捉えやすい場合もあります。

身体能力が落ちていたら「年齢のせい」で終わらせない

変化に気づいたとき、

「もう高齢だから仕方ない」

で終わらせないことも重要です。

たとえば、

「最近歩かなくなった」

という変化一つを取っても、

筋力が低下したから歩かないのか。

膝が痛いから歩きたくないのか。

食事量が落ちて体力が低下しているのか。

転んだ経験から歩くことが怖くなったのか。

原因によって必要な対応は変わります。

さらに、

転倒する

歩くのが怖くなる

活動量が減る

筋力や身体機能が低下する

さらに転びやすくなる

という悪循環に入ることも考えられます。

だからこそ、転倒したからと単純に、

「もう一人では歩かせない」

「危ないからなるべく座っていてもらう」

とすることが、長期的に見て最善とは限りません。

ロコモ・サルコペニア・フレイルにもつながる

身体能力の変化を早く見つけることは、転倒予防だけの問題ではありません。

高齢期には、ロコモティブシンドローム、サルコペニア、フレイルといった状態も重要になります。

ロコモティブシンドロームは、運動器の障害によって立つ・歩くといった移動機能が低下した状態です。

日本整形外科学会では、ロコモの確認方法として「立ち上がりテスト」「2ステップテスト」「ロコモ25」を用いています。

そしてサルコペニアは、筋肉量の低下に加え、筋力や身体機能の低下が関係する状態です。

また、フレイルは身体的な問題だけでなく、精神・心理面、社会的な側面も含む概念であり、身体的フレイルとロコモには深い関係があります。

これらは、完全に別々の問題として存在しているわけではありません。

筋力が落ちる。

歩くことが減る。

外出が減る。

人と会う機会が減る。

さらに活動量が低下する。

こうした変化が重なり合い、その人の生活全体に影響していくことがあります。

だからこそ、

「最近、立ち上がりにくそうだな」

という小さな変化に気づくことは、単なる転倒予防だけではなく、その人の生活機能そのものを守る第一歩になるかもしれません。

この3つについては、それぞれ別記事でもお伝えしますが、
一先ずは「何に注目している言葉なのか」と考えると分かりやすいと思います。

用語簡単にいうと主に注目するもの
ロコモティブシンドローム(ロコモ)骨・関節・筋肉・神経など「運動器」の障害によって、立つ・歩く能力が低下した状態立つ・歩く・移動する力
サルコペニア加齢などによって筋肉量が減り、筋力・身体機能も低下した状態筋肉
フレイル加齢によって心身の予備能力が低下し、健康な状態から要介護状態へ移行しやすくなった状態全身・生活する力全体

※この表は、違いをつかむために簡略化して整理しています。

出典:日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診療ガイドライン」
   日本サルコペニア・フレイル学会「フレイル診療ガイド」

転倒予防は「できないことを増やす」ことではない

転倒が起こると、家族も介護職も怖くなります。

「もう一人では歩かせない方がいい」

「危ないから立たせない方がいい」

「何かあったら困るから、なるべく座っていてもらおう」

そう考えてしまうことがあります。

しかし、安全を守ろうとするあまり身体を動かす機会そのものが減れば、結果として筋力や身体機能がさらに低下する可能性があります。

もちろん、危険な状態で無理に歩いてもらうという意味ではありません。

重要なのは、

「危険だからやめる」の前に、「どうすれば今ある能力を安全に使えるのか」を考えることです。

手すりがあれば歩けるのか。

歩行補助具を見直した方がいいのか。

専門職に身体機能を評価してもらった方がいいのか。

痛みや体調不良が隠れていないか。

本人の現在の能力を知るからこそ、必要な支援も具体的になります。

急激な変化は「次回まで様子を見る」ものではない

この記事で紹介している定期的な観察は、主に少しずつ起こる身体能力の変化に気づくためのものです。

一方で、

急に歩けなくなった。

突然ふらつきが強くなった。

片側の手足に力が入りにくくなった。

ろれつが回らない。

意識の状態がいつもと違う。

転倒後に強い痛みがある。

こうした急激な変化を、

「前回より数字が悪くなったから、また来月確認しよう」

と考えてはいけません。

こうした症状が突然現れた場合には、脳卒中など緊急性の高い病気の可能性があります。

「次回まで様子を見る」のではなく、速やかな医療対応が必要です。

特に、片側の手足に力が入らない、ろれつが回らない、急に立てない・歩けないといった症状が突然現れた場合は、脳卒中の可能性も考え、速やかな救急要請が必要です。

なお、転倒後に強い痛みがある、立てない、動かせないといった場合には、骨折などのけがも考える必要があります。

そして、こうした急激な変化にいち早く気づくためにも、
日頃のその人を知っておくことが大切です。

普段の状態を知っているからこそ「いつもと違う」に気づくことができます。

身体能力を継続して見ておくことには、こうした意味もあります。

出典:日本脳卒中協会「脳卒中の主な症状」
   厚生労働省「みんなで知ろう! からだのこと」
   日本赤十字社「脳卒中」

転倒した場所だけでなく「その人」を見る

転倒を完全になくすことは簡単ではありません。

特に認知症のある方の生活では、安全だけを最優先すれば、本人の自由や活動する機会を大きく制限してしまうことがあります。

だからこそ転倒予防では、

「どうすれば転ばせないか」

だけではなく、

「今のこの人には何ができて、どこに支援が必要なのか」

を考えることが大切です。

環境を整える。

見守り方を考える。

福祉用具を活用する。

本人の身体能力を知る。

そして、その能力が以前から変化していないかを確認する。

これらは、どれか一つだけを行えばよいものではありません。

身体能力を知るための数字は「成績表」ではない

数字は「他人と比べるため」ではない

最後に、もう一度強調しておきたいことがあります。

本人の身体能力を測った数字は、

その人の優劣を決める数字ではありません。

他の高齢者と競うためでも、

「平均より悪いからもっと頑張りましょう」

と本人に努力を求めるためでもありません。

今日の数字は、

「今日のあなたは、このくらいだった」

という現在地です。

その現在地を知っているから、

数週間後、数か月後に、

「少し変わってきたかもしれない」

と気づくことができます。

変化が見えたら「なぜ変わったのか」を考える

そして、その変化に気づければ、

「なぜだろう?」

と考えることができます。

活動量が減ったのかもしれない。

食事量が落ちているのかもしれない。

どこかが痛いのかもしれない。

薬が変わった影響かもしれない。

病気が隠れているのかもしれない。

あるいは、転倒への恐怖から動かなくなっているのかもしれない。

数字の目的は、本人を評価することではなく、本人の変化に私たちが気づくことです。

転倒した場所だけでなく「その人」を見る

転倒した場所だけを見るのではなく、その人を見る。

転倒した瞬間だけを見るのではなく、その前から起きていた変化を見る。

そして事故が起こってから対策するだけではなく、日頃から「その人の今」を知っておく。

「最近、少し立ちにくそうだな」

「前より歩幅が小さくなったかな」

「最近、家具につかまることが増えたな」

そんな何気ない気づきが、大きな転倒を防ぐきっかけになるかもしれません。

転倒予防とは、ただ「転ばない環境」を作ることではありません。

本人の今の能力を知り、その変化に気づき、必要な支援につなげながら、今ある力をできるだけ安全に使い続けられる生活を考えること。

それもまた、施設でも家庭でもできる、大切な転倒予防なのではないでしょうか。

参考文献・出典

  1. 日本整形外科学会「ロコモONLINE ロコモ度テスト」
    ― 立ち上がりテスト、2ステップテスト、ロコモ25の概要。
  2. 日本整形外科学会「立ち上がりテスト」
    ― 下肢筋力評価の方法、安全上の注意
  3. 日本整形外科学会「2ステップテスト」
    ― 歩幅、下肢筋力・バランス・柔軟性を含む歩行能力について。
  4. 厚生労働省「認知症の人と家族のための支援ガイド」転倒・骨折の対応・予防
    ― 転倒の内的・外的危険因子、個別対策について
  5. 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 高齢者版」
    ― 筋力・バランス・柔軟性、多要素運動、身体機能低下者への安全配慮
  6. 日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診療ガイドライン」
  7. 日本サルコペニア・フレイル学会「フレイル診療ガイド」
    ― サルコペニア・フレイルの定義や考え方
  8. 日本脳卒中協会「脳卒中の主な症状」
  9. 厚生労働省「みんなで知ろう! からだのこと」
  10. 日本赤十字社「脳卒中」
    ― 脳卒中の症状や対応について

ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。

詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!

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