【全7回】補足:事故をゼロにできない現実と、どう向き合えばよいのか ~転倒リスクと日々向き合う介護現場の本音と責任~

健康管理・事故予防
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※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。

ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。

本記事では、転倒が起きてしまった時の職員、介護リーダー、管理者が事故とどう向き合い、どう活かしていくかについて、分かりやすくお伝えします。
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📝 この記事の要約

【この記事で伝えたいこと】

転倒事故は「誰が悪かったか」を追及するものではなく「次にどう活かすか」を考えることが大切です。

この記事では、職員・介護リーダー・管理者それぞれの立場から事故と向き合う視点や、家族との信頼関係を大切にしながら「その人らしさ」と「安全」を両立するための考え方について解説します。


【要点】

  1. 転倒事故が起きた時、それぞれの立場で果たすべき役割が分かる
    現場の介護職員・介護リーダー・管理者それぞれが、事故とどのように向き合い、利用者・家族・職員を支えるべきかを解説します。
  2. 事故を「責める」のではなく「再発防止につなげる」考え方が分かる
    KPTやヒヤリハットの活用、チームで振り返る仕組みづくりなど、事故を学びへ変えるための具体的な取り組みを紹介します。
  3. 家族との信頼関係を守るための対応と伝え方が分かる
    事故発生時の説明のポイントや、日頃から信頼関係を築くための関わり方「その人らしさ」と「安全」を両立するための考え方について解説します。

【この記事で分かること】

・転倒事故が起きた時に、まず何を考え、どう行動すればよいか
・職員・介護リーダー・管理者それぞれの立場で求められる役割と対応
・事故を次につながる学びへ変え、チーム全体で再発防止に取り組むための考え方

介護現場で働く方はもちろん、ご家族にとっても「事故とどう向き合うか」を考えるヒントとなる内容です。

※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。

はじめに:「ゼロリスク」は幻想か?

「転倒事故は起こさないでください」

介護現場で働いていれば、一度は言われたことのある言葉かもしれません。

家族から、施設経営者から、時には自分自身からも湧き上がる願いです。

しかし、私たちは痛感しています。

高齢者の転倒事故を“完全になくす”ことは現実的には不可能だということを。

特に認知症を持つ方は、

注意力の低下
判断力の低下
行動の予測困難性

といった要因が重なり、私たちの見守りの網をすり抜けて、

ふと立ち上がり、ふと歩き出し、そして転倒してしまう――

介護の現場では、そんなことが少なくありません。

では、私たちは諦めるべきでしょうか?
事故を運命として受け入れるべきでしょうか?
もちろん、答えはNOです。

大切なことは

「ゼロにできないからこそ、どう向き合い、どう減らし、どう支え合っていくか」

を考えていくことです。

現場の介護職員が向き合うこと

自分を責めすぎず、それでも問い続ける

転倒事故が起きた時に一番心を痛めているのは、間違いなく、その場にいた職員です。

  • 「さっき声をかけておけば…」
  • 「あと5分早く巡回していれば…」
  • 「あの場所にマットを敷いておくべきだった…」

こうした“たられば”が頭の中をぐるぐると巡り、涙する職員もいます。

「私のせいで転んでしまった」
「私が気を付ければ、痛い思いをさせずに済んだのに」

と自責の念にとらわれ、しばらく立ち直れないこともあるでしょう。

ですがその悔しさは、事故を“ただのミス”にせず、
「次に生かす知恵」に変えていける力でもあります。

職員に必要なのは、自分を責め続けることではなく

「この事故から何を学ぶか」「同じ事故を防ぐにはどうするか」

という前向きな問いを持ち続ける姿勢です。

事故を防ぐための見守りの工夫、声かけのタイミング、環境チェックの積み重ね。

一見遠回りのようで、実はそれこそが安全への最短距離です。

介護リーダーが向き合うこと

責めない空気と、再発防止の仕組みづくり

現場のリーダーは、感情に流されすぎず、冷静に全体を見渡す視点が求められます。

事故が起きた時、まず必要なのは「誰が悪いか」探しではありません。
事実を整理し、原因を分けて、再発防止に生かすことです。

  • どんな状況だったか
  • 何が見落とされていたか
  • なぜ起きたか

これらを“犯人探し”ではなく“再発防止”のために確認するのが、リーダーの役割です。

たとえば、事故後に職員全員で行う振り返りミーティングにおいて、

「ここがまずかったですね」「この人の見守りが足りなかったかもですね」

という発言が飛び交ってしまうと、萎縮したり黙ってしまう職員が増えます。

そうではなく、

「この場面、私たち全体でどう対策できたか考えましょう!」

といった言い方で、個人ではなくチーム全体で振り返る雰囲気をつくることが大切です。

また、職員がヒヤリハットや小さな事故を「報告しやすい空気」を保つこと。
隠さず、恐れず、オープンに共有できることが、重大事故を防ぐ第一歩です。

また、事故後に行うミーティングは、KPT形式が有効です。

KPT例

  • Keep(良かった点):声かけ自体はできていた
  • Problem(課題):巡回間隔が長かった
  • Try(次回試すこと):15時と16時に巡回を追加(担当者を明記する)

この形式であれば、誰かを責める空気を避け、改善に直結する話し合いができます。

ホーム長・管理者が向き合い、伝えること

職員の盾であり、家族への誠実な窓口であること

ホーム長や施設管理者には、現場と家族の“間”に立つ役割があります。

事故の報告や説明で家族の元へ出向くとき、求められるのは“形だけの謝罪”ではありません。

「何があったのか」「どう対応したのか」「今後どうするのか」
そして、その方がどういう生活を送っていて、なぜ今回の行動が起きたのか――

こうした背景をしっかり伝え、理解を得る努力が必要です。

たとえば、こんなふうに伝えることができます。

〇〇さんは、いつもご自身で歩くことを大切にされています。
その“自分でやりたい”というお気持ちを私たちは尊重してきました。

しかし、今回はその中で転倒が起きてしまいました。
今後は環境を再確認し、移動の際は必ず声をかけて見守りを強化していきます

こうした言葉には「本人らしさ」と「安全のバランス」を真剣に考えている姿勢が込められています。

また、事故に対して憤慨しているご家族に対しては

お怒りはもっともです。まず時系列で事実をご説明します――

当ホームは“自分らしさと安全の両立”を方針としていますが、今回の反省として

①通路マットの見直し

②移動前声かけのルール化

③15時巡回のダブルチェックを実施します。

進捗は◯月◯日にご報告します。不安な点は遠慮なくお聞かせください。

このように「事実」→「方針」→「具体策」→「再確認日」の順で伝えると、安心感と信頼感が高まるでしょう。

家族説明用の「時系列メモ用紙」テンプレを作り事故時に使用すれば、情報が整理しやすかったり、事故の原因に気付きやすかったり、ということもあるでしょう。

一方で、職員には「ちゃんと守られている」と思ってもらえるように、家族への対応をただ任せるのではなく、管理者自らが前に立ち、矢面に立つことも必要です

職員が「責められて終わった」と感じるような説明の仕方をすれば、次の事故への取り組み意欲は削がれてしまうでしょう。

家族との信頼関係は「事故前」に築くもの

事故が起きてから「信頼してください」と言っても、それは難しい話です。

だからこそ、事故が起きる“前”のコミュニケーションが何より重要です。

普段から意識しておきたい関わり方のポイント

□ 毎日の様子をこまめに(良い事も悪い事も)伝える
□ 小さな体調の変化も「なぜそう見えるのか」という理由まで丁寧に共有する
□ 家族から話を引き出す(「普段はどんな方でしたか?」「最近気になることありますか?」)
□ 意思決定に参加してもらう(例:ケアプランの説明に際して一言意見を求める)

家族が「任せっぱなしで不安」ではなく「ちゃんと見てくれている」「一緒に支えてくれている」と思える関係づくりが、いざという時に、心からの「信頼」や「理解」に変わります。

ヒヤリハットとハインリッヒの法則を活かす

ヒヤリハット:重大事故には至らなかったが“ヒヤッ”とした事例
ハインリッヒの法則:1件の重大事故の背景には、29件の軽微な事故と300件のヒヤリハットがあるとされる考え方

報告件数より大事なのは「再発防止につながる学びの数」です。

仕組み化例

  • 「3行報告カード」(いつ/どこで/何があった)を配布
  • 週1回のミニ共有会(5分)でTryを1つ決定
  • 月末にTryの実施率と学び数を確認

関連記事】

ヒヤリハットは「事故にならなかった出来事」ではなく、
「起こりえる重大事故を防ぐための貴重なサイン」です。
その考え方や活かし方については、こちらの記事で詳しく解説しています。

ヒヤリハットは未来を守るセンサー 〜ハインリッヒの法則から考える介護事故予防〜

おわりに:ゼロにはできない。でも、ゼロに近づこうとする姿勢は見られている

私たちは、転倒事故を完全に防ぐことはできません。
しかし、それを前提にして甘えてはいけません。

  • 「防げたかもしれない」を問い続けること
  • 「どうすれば繰り返さないか」をチームで考え抜くこと
  • 「その人らしい暮らし」を諦めず、安全とのバランスを取り続けること

こうした姿勢を持ち続けることこそが、介護のプロとしての責任であり、誇りです。

そしてこの姿勢は、家族にもきっと届くと信じています。

「事故は起きたけれど、ここに預けてよかった」
「大切にしてくれていることが伝わってくる」
「一緒に考えてくれる、支えてくれる存在がいる」

そんなふうに思ってもらえることが、
介護に携わる私たちの“もう一つの報酬”ではないでしょうか。

関連記事|転倒事故を「次につながる学び」にするために

転倒事故は「起きてしまった」で終わるものではありません。

事故の重大性を知り、転倒の原因を理解し、予防につなげること。
そして、事故やヒヤリハットから学び続けることが、利用者さんの安全とその人らしい暮らしを守ることにつながります。

ここでは、あわせて読んでいただきたい関連記事をご紹介します。

▼まずは、転倒事故の重大性について知りたい方へ

「骨折しなかったから大丈夫」と思われがちな転倒ですが、高齢者ではその後の生活に大きな影響を及ぼすことがあります。

転倒事故がなぜ深刻なのか、介護現場で知っておきたいリスクについて詳しく解説しています。

骨折を伴う転倒が深刻な理由とは? ~介護現場における11のリスクと予防のヒント~

なぜ認知症高齢者は転倒しやすいのか知りたい方へ

転倒を防ぐためには「転ばないように見守る」だけでは十分ではありません。

認知症による認知機能の変化や身体機能、環境など、転倒につながる様々な要因を理解することが大切です。

【全7回】第1回:認知症高齢者が転倒しやすい6つの理由 ~原因と予防のために知っておきたいこと~

▼転倒予防について体系的に学びたい方へ

転倒には、身体機能だけでなく、認知症、BPSD、生活環境、薬、生活リズムなど、多くの要因が関わっています。

転倒予防についてより深く学びたい方は、全7回シリーズもぜひご覧ください。

【全7回】第2回:転倒の身体的要因とは? ~筋力・バランス・疾患との関係~
【全7回】第3回:「認知機能の障害」と転倒の関係 ~見えないリスクを理解して予防につなげる~
【全7回】第4回:「また歩き出した…」その行動には理由がある ~BPSDの背景にある感情を知り、転倒を未然に防ぐ~
【全7回】第5回:認知症高齢者の転倒を防ぐために ~見逃せない「環境要因」とは~
【全7回】第6回:薬が多いと転びやすくなる? ~認知症高齢者と「ポリファーマシー」の落とし穴~
【全7回】第7回:「生活リズムの乱れ」が招く転倒 ~認知症ケアで本当に守るべき“いつも通り”とは?~

▼事故を「次につながる学び」に変えたい方へ

事故を次につなげるためには、ヒヤリハットの共有も欠かせません。
小さな違和感や「危なかった」をチームで共有することが、重大事故の予防につながります。

ヒヤリハットは未来を守るセンサー ~ハインリッヒの法則から考える介護事故予防~

▼認知症介護についてもっと知りたい方へ

ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ための考え方や、現場で役立つ知識・技術を発信しています。

認知症の基礎知識から具体的なケアまで知りたい方は、

➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!

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