※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
「最近、物忘れが増えたかもしれない」と感じても、それだけで認知症とは限りません。
SCD(主観的認知機能低下)は、自分自身が変化に気付いている一方で、検査では明らかな異常が見つからない状態です。
この記事では、SCDの正しい理解を通して、必要な受診や生活習慣の見直しにつなげるための考え方を解説します。
【要点】
- 「物忘れ=認知症」ではない理由が分かる
加齢やストレス、睡眠不足など、認知症以外でも物忘れが起こる原因や、加齢による物忘れとの違いについて解説します。 - SCD・MCI・認知症の違いが理解できる
本人の自覚、認知機能検査、日常生活への影響という視点から、それぞれの違いを分かりやすく整理します。 - 不安を抱えたときに取るべき行動が分かる
受診を考える目安や家族の接し方、生活習慣の見直しなど「認知症かもしれない」と感じたときに大切な考え方を紹介します。
【この記事で分かること】
・SCD(主観的認知機能低下)とは何か
・SCD・MCI(軽度認知障害)・認知症の違い
・物忘れが気になったときの考え方や受診の目安
・本人や家族が不安と向き合う考え方
「最近物忘れが増えたかもしれない」と感じたときに、必要な受診や生活習慣の見直しにつなげるための基礎知識が身に付きます。
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
はじめに
「最近、人の名前が出てこない」
「約束を忘れることが増えた」
「前より頭が働かなくなった気がする」
そんな不安を感じて病院を受診しても、
「認知症ではありません」
「検査では問題ありません」
と言われることがあります。
しかし本人としては、
「確かに以前とは違う気がする」
という違和感が残ることも少なくありません。
このような状態を近年では、
SCD(Subjective Cognitive Decline:主観的認知機能低下)
と呼ぶことがあります。
この記事では、SCDとは何か、MCIや認知症との違い、そして不安を感じた時にどう向き合えばよいのかを分かりやすく解説します。
SCDとは?
SCDとは、
本人が「認知機能が低下した」と感じている状態を指します。
重要なのは、検査では明らかな異常が見つからないことです。
例えば、
- 以前より忘れっぽい気がする
- 集中力が落ちた気がする
- 言葉が出てこない
- 仕事の効率が下がった気がする
こうした自覚があっても、
認知機能検査では年齢相応と判断されることがあります。
なぜSCDという概念が生まれたのか
以前は、認知機能検査で異常が見つからなければ「問題ありません」と考えられることが一般的でした。
しかし実際には、認知機能検査では明らかな異常が見つからなくても、
「以前より認知機能が低下した気がする」
「以前とは何かが違う」
と本人が感じているケースがあります。
そしてそのような人の中には、将来的にMCIや認知症へ進行する人もいれば、
加齢やストレス、睡眠不足などが影響し、一時的に認知機能が低下しているように感じている人もいます。
このように、客観的な検査だけでは捉えにくい変化にも注目するため、
「検査では明らかな異常はないものの、本人が認知機能の低下を自覚している状態」
をSCDとして捉える考え方が研究されるようになりました。
SCDとMCIの違い
SCDとMCI、そして認知症は、それぞれどのような違いがあるのでしょうか。
最も大きな違いは、
「本人が自覚しているか」と「認知機能検査で異常が確認できるか」という点です。
まずは、それぞれの違いを表で見てみましょう。
| 状態 | 本人の自覚 | 認知機能検査 | 日常生活への大きな支障 |
|---|---|---|---|
| SCD(主観的認知機能低下) | ある | 明らかな低下なし | 基本的にない |
| MCI(軽度認知障害) | あることが多い | 軽度の認知機能低下あり | 大きな支障はない |
| 認知症 | ないこともある | 認知機能低下あり | 支障がある |
この表を見ると、SCDとMCIはよく似ていますが、
「検査で認知機能の低下が確認できるかどうか」
が大きな違いであることが分かります。
つまり、
SCDは「本人は変化を感じているが、客観的な検査では異常が見つからない状態」
MCIは「本人の自覚の有無にかかわらず、客観的な検査でも認知機能の低下が確認される状態」
と考えると理解しやすいでしょう。
SCDは、MCIよりも早い段階でみられることがあり、
認知症の非常に早期の変化を捉える可能性がある状態として研究されています。
SCDは認知症の始まりなの?
SCDの人全員が認知症になるわけではありません。
実際には、
- 加齢による変化
- ストレス
- 睡眠不足
- うつ状態
- 疲労
- 不安
などが影響していることもあります。
一方で、
研究ではSCDの一部の方が将来的にMCIや認知症へ進行する可能性も指摘されています。
つまり、
「必ず認知症になる状態」でも
「全く関係ない状態」でもありません。
というのが現時点での理解です。
そのため、必要以上に不安になる必要はありませんが、変化を軽視しないことも大切です。
なぜ本人だけが気付くことがあるのか?
私たちは日々、自分自身の頭の働きを一番よく知っています。
そのため、
周囲から見れば分からないような小さな変化でも、
本人は敏感に感じ取ることがあります。
例えば、
- メモを取る回数が増えた
- 言葉が出るまで少し時間がかかる
- 予定管理が以前より大変
こうした変化は、
本人にしか分からないことも少なくありません。
SCDと不安の関係
実は、不安そのものが物忘れを増やすことがあります。
「認知症かもしれない」
という強い不安によって、
集中力や注意力が低下し、
さらに物忘れが増えたように感じることもあります。
そのため、
症状だけを見るのではなく、
睡眠やストレス、生活状況も含めて考えることが大切です。
物忘れ=認知症とは限らない
物忘れが気になり始めると、
「認知症かもしれない」と不安になる方は少なくありません。
しかし、物忘れがあるからといって、必ずしも認知症とは限りません。
認知症以外でも物忘れは起こる
例えば、
- 睡眠不足
- 強いストレス
- 疲労
- うつ状態
- 薬の副作用
- ビタミン不足
- 甲状腺の病気
などでも、
「以前より頭が働かない」
「物忘れが増えた」
と感じることがあります。
また、年齢を重ねることで、人の名前がすぐに思い出せなかったり、物を取りに行って何を取りに来たのか忘れてしまったりすることは、多くの方に見られる変化です。
加齢による物忘れと認知症による物忘れの違い
加齢による物忘れと認知症による物忘れは、
同じように見えても必ずしも同じではありません。
例えば、加齢では
「人の名前がすぐに思い出せない」
「物を取りに行って何を取りに来たか忘れる」といったことはよくあります。
一方、認知症では
出来事そのものを忘れてしまったり
同じ話を何度も繰り返したり
物忘れによって日常生活に支障が出たりすることがあります。
ただし、これらはあくまでも一般的な傾向であり、
物忘れだけで認知症かどうかを判断することはできません。
大切なのは原因を見極めること
大切なのは、
「物忘れがある」という事実だけで判断するのではなく、
それがどのような原因によるものなのかを考えることです。
一方で、心配だからといってすぐに「認知症だ」と決めつける必要はありませんが、
「年齢のせいだから」と放置してしまうことも望ましくありません。
不安が続く場合は、一人で悩まず、
医療機関へ相談して原因を確認することが安心につながります。
気になる時はどうすればいい?
受診を考えた方がよいサイン
年齢による物忘れと、受診を考えた方がよい変化との境界は、必ずしもはっきりしているわけではありません。
しかし、次のような変化がみられる場合には、一度医療機関へ相談することをおすすめします。
- 家族や友人から「最近忘れっぽくなった」と言われるようになった
- 約束や予定を何度も忘れてしまう
- お金の管理や買い物でミスが増えた
- 仕事や家事など、今までできていたことが難しくなってきた
- 物忘れが急に悪化したように感じる
- 日常生活に支障が出始めている
などです。
重要なことは、一つひとつの症状だけを見て考えるのではなく、
以前と比べてどのような変化があるのか、
生活にどの程度影響しているのかを総合的に考えることです。
「受診するほどではないかもしれない」と迷う場合でも、相談した結果、問題がなければ安心できます。
気になる変化があるときは、早めに相談することが大切です。
家族はどのように接すればよい?
SCDの方は、検査では異常が見つからなくても、
「以前と違う」という違和感を抱えています。
そのため、家族から
「気にしすぎだよ」
「年齢のせいだから大丈夫」
と言われると、
「自分の不安を分かってもらえなかった」と感じてしまうことがあります。
もちろん、家族は安心させようとしてそのような言葉を掛けていることがほとんどでしょう。
しかし、本人にとっては、その不安がとても現実的なものになっていることも少なくありません。
まずは、
「最近、そう感じることが増えたんだね」
「心配になるよね」
と、不安な気持ちを受け止めることが大切です。
そのうえで、
「一度相談してみようか」
「生活習慣も一緒に見直してみようか」
と前向きな行動につなげていくことで、本人も安心しやすくなります。
SCDだからこそ、今できること
SCDの状態にあるからといって、必要以上に悲観する必要はありません。
SCDの方すべてが認知症へ進行するわけではなく、
生活習慣を見直す良いきっかけになることもあります。
例えば、
- 十分な睡眠を取る
- 適度な運動を続ける
- バランスの良い食事を心掛ける
- 人と会話をする機会を持つ
- 趣味や社会活動を続ける
こうした習慣は、脳だけでなく全身の健康にも良い影響を与えると考えられています。
また、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を適切に管理することも、将来的な認知機能の低下を防ぐうえで重要とされています。
SCDは、不安だけを抱える状態ではありません。
「自分の変化に早く気付くことができた」という見方もできます。
だからこそ、今の生活を振り返り、
自分の健康と向き合うきっかけとして考えてみることも大切なのです。
まとめ
SCD(主観的認知機能低下)とは、
本人は認知機能の低下を感じているものの、検査では明らかな異常が見つからない状態です。
SCDだからといって、必ずMCIや認知症へ進行するわけではありません。また、加齢やストレス、睡眠不足など、さまざまな原因によって同じような症状を感じることもあります。
だからこそ、
「認知症に違いない」と決めつけて必要以上に不安になる必要も、
「年齢のせいだから」と、せっかく気付いた変化を軽く考えすぎる必要もありません。
大切なのは、自分自身の変化に気付き、それをきっかけに生活習慣を見直したり、必要に応じて医療機関へ相談したりすることです。
もし認知症ではなかったとしても、その確認ができるだけで安心につながります。
反対に、何らかの病気が見つかった場合でも、早い段階で対応できることには大きな意味があります。
物忘れや認知機能の変化は、多くの人が年齢とともに気になるものです。
しかし、その不安を一人で抱え込む必要はありません。
「少し気になるな」と思ったその気持ちを大切にし、自分の心と身体の健康を見つめ直すきっかけとして、このSCDという考え方を役立てていただければ幸いです。
SCDは、認知症の診断名ではありません。
しかし、自分自身の変化に早く気付くことができた大切なサインかもしれません。
その気付きが、これからの健康や生活を見直す第一歩につながることを願っています。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。
詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!
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