笑顔が戻る認知症ケア 〜本人だけではなく、家族の心も支えるケア〜

認知症ケアについて
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はじめに:認知症ケアは、本人のためだけではない

別の記事【認知症ケアの難しさ ~「昔の姿」と「今の姿」に揺れるあなたへ~】で『認知症ケアとは『優しさから始まり、笑顔に繋げていくケア』』と書きました。

そして同じ記事の中で『家族は、認知症を患ってしまった親の『今の姿』を受け入れられず、当初は持っていた『優しさ』を、無意識のうちに遠ざけてしまっている』とも書きました。

認知症となってしまった本人に対して認知症ケアを提供し、その方の笑顔が再び見られるように模索して関わることは、支援者にとって必要な姿勢です。

しかしその一方で、笑顔に関して別の課題が生まれていることは、余り知られていません。

認知症になった親の介護を頑張った結果、優しさを無意識のうちに遠ざけてしまった家族。その家族の表情は、決して明るいものではないでしょう。

介護を頑張り過ぎた家族の笑顔は、一体、誰が取り戻してくれるのでしょうか。

今回は、認知症の親を抱える家族の2つの苦しみと、苦しんだ家族が再び笑顔になるために私たち介護職員がどう関わればいいのか、ということについてお伝えします。

認知症介護に悩み疲れた家族、認知症の方を介護する介護職員や支援者――どちらの方にも読んでいただき『自分たちの思いや介護は間違っていない』『自分たちの認知症ケアはここを目指せばいいんだ』と感じていただければ幸いです。

認知症の親に対して、家族が抱える2つの苦しみ

自分の思いが届いていないという無力感

認知症の親を介護する家族の多くが、以下のような状況に直面しているのではないでしょうか。

  • ”言うことを聞いてくれない”
  • ”頼んだことと違う行動をとる”
  • ”「分かった」と言ったのに、同じことを繰り返し尋ねてくる”
  • ”同じことを伝えると逆に怒られる”
  • ”夜になっても寝てくれない”

このような様子が毎日のように続くと、一緒に住んで介護をしている家族は『自分はこんなに親のために尽くしているのに、思いがまったく伝わらない』という深い無力感を抱くようになります。

実際には、これらの行動は認知症の症状としてよく表れるものであり、決して『思いが届いていない』『関わり方が悪い』『努力が足りない』ということが原因ではありません。

しかしこの状態が続いてしまうことで、家族は介護を始めた当初に持っていた親への優しさから距離を置くようになってしまいます。そしてお互いの関係がぎくしゃくし始め、次第に『思いを持たずに関わる』ようになってしまいます。

つまり『思いが届いていない無力感』とは、認知症の親に向けてだけではなく、思いを忘れた自分自身に対しても感じているなのです。

親を見捨てたのではないかという罪悪感

施設入居を考える家族は、すでの自宅での介護を限界まで頑張っている方が多いです。

『これ以上は無理だ』『もう家で見ることは出来ない』と感じた時、初めて『施設入居』という選択肢が視野に入ってくるのです。

しかし入居を決断し、親を施設に任せた後、2つ目の苦しみが家族を襲います。

『自分が楽になるために、大切な親を見捨てたのではないか』

という罪悪感が、深く心に残ってしまうのです。


実際は、認知症の方やその家族にとって『施設入居』という選択肢は、最良に近い選択であると、私はこれまでの経験から感じています。

なぜならば、認知症は進行性の病気だからです。言葉を選ばずにいえば『認知症の症状が悪くなる一方』なのです。

つまり『いま苦しい介護は、時間が経つほど苦しさを増す』ということです。

もちろんこの先、認知症の症状を家族が受け入れる事が出来て、双方が精神的に楽になるということはあるかも知れません。ですがそれは多くの場合とても難しく、そしてとてもレアなケースです。

では家族はどうすれば『罪悪感』から解放されることが出来るのでしょうか。


余談ですが『家で見ることが出来ない』となってから、施設入居を考え始めたり『次はどうしようか』と動き始めるのは、実はタイミングとしてはとても遅いのです。

私も今までに『認知症が進む前に入居を決めてくれていれば、もっと早くグループホームに慣れることが出来て、もっと楽しく過ごせたかもしれない』と思うことが何度もありました。

ですが実際は、多くの家族が自宅での介護を頑張り過ぎており、施設入居を考え始めるのは、白旗を上げる直前なのです。

別記事【認知症の家族と共に暮らす ~家族の絆と距離感を見直す~】でも書きましたが『家族介護を頑張り始めたタイミングが、次の段階を考え始めるタイミング』なのです。

罪悪感から家族を救う認知症ケアの力

実は、家族を『罪悪感』から解放するために介護職がやるべきことは、至ってシンプルですが、とても大切です。

それは『ここに任せて良かった』と心から思ってもらえるケアを届けることです。

入居した本人が活き活きと生活し、再び笑顔が見られるようになる――入居した本人の幸せが、家族の幸せに繋がっていくのです。

それでも、罪悪感から解放されるためには多くの時間が必要になるでしょう。どの程度の時間が必要かは家族によって異なりますが『笑顔を見て安心する』のか『本人が「ここは良い所だね」と言って安心する』のか『本人が最期を迎える時に安心する』のかは、本当に千差万別です。

そのために必要なことは『介護に疲れたら距離を置く勇気を持つ』ということです。施設入居は、疲れた家族にとって、きっと良い選択肢になるに違いありません。

優しさから始まるケアは、家族の笑顔にもつながる

冒頭にも書きましたが、認知症ケアは『優しさから始まって、笑顔に繋げるケア』です。

職員は認知症の方の笑顔のために、専門性をもって認知症ケアを提供します。

認知症の方を笑顔にするための認知症ケアで、家族の笑顔まで取り戻せる――これが、認知症ケアが持つ力の素晴らしい所だと、私は思います。

家族は、親が大事だからこそ、自宅での介護を頑張ります。

ですが頑張り過ぎてしまった結果、家庭から笑顔が減っていくことは、とても寂しいことです。

それらすべてを取り戻せるケアが、認知症ケアなのです。

認知症ケアとは、優しさから始まり、笑顔へと繋がるケアです。

それが、私たち介護職員に出来る支援なのです。


施設入居はハードルが高いという家族は、デイサービスやショートステイの利用などを組み合わせることで、まずは自分自身の心の健康を考えてください。

そして『ちょっと疲れてきたな』『これより大変になるなら……』と脳裏によぎった時に、次のステップ(包括支援センターやケアマネージャーへの相談、施設見学など)を考えてみるのもいいのではないでしょうか。

ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさんを発信しています。

詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!

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