※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
若年性認知症で利用できる制度は「できなくなってから使うもの」だけではありません。仕事や今の暮らし、本人らしい生活をできるだけ続けるために活用できる支援もあります。
この記事では、本人と家族が利用できる主な制度や相談先を「今、何に困っているのか」という視点から解説します。
【要点】
- 若年性認知症で利用できる主な制度・支援が分かる
傷病手当金、障害年金、精神障害者保健福祉手帳、自立支援医療、介護保険、障害福祉サービス、就労支援など、本人と家族の生活を支える制度を幅広く紹介します。 - 「どこに相談すればいいのか」が分かる
若年性認知症支援コーディネーターや若年性認知症コールセンターをはじめ、仕事・介護・年金・障害福祉など、それぞれの困りごとに応じた相談先を解説します。 - 制度名ではなく「今の困りごと」から支援を考える方法が分かる
「仕事を続けたい」「収入が心配」「家族が仕事と介護を両立できない」「お金の管理が難しくなってきた」など、具体的な困りごとから必要な制度や支援につながる考え方を紹介します。
【この記事で分かること】
・若年性認知症の本人・家族が利用できる主な制度や支援
・仕事・収入・医療・介護など、困りごとに応じた制度の選び方
・若年性認知症支援コーディネーターなど、困ったときに頼れる相談先
制度をすべて覚えるのではなく「今、何に困っているのか」から必要な支援につながるための考え方が分かる内容です。
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
- はじめに
- 若年性認知症では「制度を知ること」も生活を守ることにつながる
- まず相談したい「若年性認知症支援コーディネーター」
- 全国から相談できる「若年性認知症コールセンター」
- 仕事を休む必要があるとき――「傷病手当金」
- 働くことが難しくなったとき――「障害年金」
- 「精神障害者保健福祉手帳」を取得できる場合もある
- 通院が続く場合――「自立支援医療制度」
- 40歳以上なら「介護保険」を利用できる可能性がある
- 「働き続けたい」を支える制度や相談先もある
- 家族が仕事と介護を両立するための制度もある
- お金の管理が難しくなったら――「日常生活自立支援事業」
- 判断能力が低下したとき――「成年後見制度」
- 家族だけで抱え込まないための相談先
- 「制度から探す」のではなく「困りごとから探す」
- 診断直後だからこそ確認しておきたいこと
- 制度は「できなくなった人」のためだけにあるわけではない
- まとめ|「どこに相談すればいいか」を知ることから始めよう
- 参考文献・出典
はじめに
若年性認知症と診断されたとき、本人や家族にはさまざまな不安が生まれます。
「仕事は続けられるのだろうか」
「働けなくなったら、生活費はどうすればいいのだろう」
「介護保険は高齢者が使うものではないのか」
「誰に相談すればいいのか分からない」
若年性認知症では、認知機能の変化そのものだけでなく、仕事や収入、子育て、住宅ローン、家族の生活など、現役世代だからこその問題が同時に起こることがあります。
そして、若年性認知症の本人や家族を支える制度は一つではありません。
医療、介護、障害福祉、雇用、年金、健康保険など、状況によってさまざまな制度を利用できる可能性があります。
問題は、それらが複数の制度に分かれているため、
「自分たちが何を利用できるのか分からない」
という状態になりやすいことです。
若年性認知症で利用できる制度・支援の全体像
若年性認知症で利用できる可能性のある制度は、介護保険だけではありません。仕事、収入、医療費、障害福祉、家族への支援など、現在の困りごとによって相談先や利用できる制度は変わります。まずは、どのような支援があるのか全体像を見てみましょう。
| 分野 | 制度・支援 | 主に役立つ場面 |
|---|---|---|
| 相談 | 若年性認知症支援コーディネーター | 何から手をつければよいか分からない |
| 若年性認知症コールセンター | 本人・家族が相談したい | |
| 仕事 | 治療と仕事の両立支援 | 退職せず働き続ける方法を考えたい |
| 職場での配置転換・勤務上の配慮 | 今までと同じ仕事が難しくなってきた | |
| ハローワーク・地域障害者職業センター等 | 就労継続や再就職について相談したい | |
| 収入 | 傷病手当金 | 病気で仕事を休み、給与を受けられない |
| 障害年金 | 病気によって生活や仕事が制限されている | |
| 雇用保険の各種給付 | 離職や再就職などに伴う生活を支えたい | |
| 医療費 | 自立支援医療(精神通院医療) | 継続的な通院にかかる負担を軽減したい |
| 高額療養費制度 | 1か月の医療費の自己負担が高額になった | |
| 障害福祉 | 精神障害者保健福祉手帳 | 税制上の控除や自治体等の支援を利用できる場合がある |
| 障害福祉サービス | 就労や日常生活などへの支援が必要 | |
| 介護 | 介護保険 | 40~64歳で「初老期における認知症」などの特定疾病により介護が必要になった |
| 通所・訪問系サービス等 | 日常生活を支えるサービスを利用したい | |
| 家族 | 介護休業・介護休暇等 | 家族が仕事と介護を両立したい |
| 生活・財産管理 | 日常生活自立支援事業 | 日常的な金銭管理や福祉サービスの利用に支援が必要 |
| 成年後見制度 | 判断能力が低下し、契約や財産管理などへの法的支援が必要 |
これだけ多くの制度が並ぶと「結局、自分はどれを使えばいいの?」と思うかもしれません。
しかし、すべての制度を本人や家族が理解してから動く必要はありません。
大切なのは、制度から自分に合うものを探すことよりも、まず「今、何に困っているのか」を相談することです。
この記事では、若年性認知症の本人と家族が利用できる可能性のある主な制度と、困ったときの相談先について分かりやすく解説します。
※利用できる制度や条件、サービス内容は、本人の年齢、症状、加入している保険、就労状況、自治体などによって異なります。
この記事では制度の概要を紹介していますので、実際に利用する際には各窓口へ確認してください。
若年性認知症では「制度を知ること」も生活を守ることにつながる
若年性認知症というと、
「認知症だから介護保険」
と考えるかもしれません。
しかし、実際にはそれほど単純ではありません。
例えば、会社員として働いている人であれば、
・会社の休職制度
・傷病手当金
・障害年金
・精神障害者保健福祉手帳
・就労支援
などが関係してくる可能性があります。
生活上の支援が必要になれば、
・介護保険
・障害福祉サービス
・日常生活自立支援事業
・成年後見制度
などが選択肢になることもあります。
つまり、
「若年性認知症という一つの病気に、一つの制度が対応しているわけではない」
ということです。
若年性認知症では、本人が置かれている状況や年齢、就労の有無などによって、利用できる制度やサービスが異なります。
厚生労働省の若年性認知症支援に関する資料でも、就労継続、障害者手帳、自立支援医療、傷病手当金、障害年金、高額療養費、介護サービス、日常生活自立支援事業など、さまざまな制度が紹介されています。
そのため、若年性認知症では「認知症だから介護保険」と一つの制度だけを考えるのではなく、本人が現在何に困っているのかを整理し、必要な制度や支援につないでいくことが大切です。
出典:厚生労働省「若年性認知症支援コーディネーター」
まず相談したい「若年性認知症支援コーディネーター」
若年性認知症と診断された本人や家族に、まず知ってほしい存在の一つが、
「若年性認知症支援コーディネーター」です。
若年性認知症では、
「医療のことは病院」
「介護保険は市区町村」
「仕事は会社やハローワーク」
「年金は年金事務所」
というように、相談内容によって窓口が分かれます。
診断を受けた直後の本人や家族が、これらを一つひとつ調べて回ることは簡単ではありません。
厚生労働省では、若年性認知症支援コーディネーターについて、本人や家族への相談支援だけでなく、医療・介護・労働などの関係者による支援体制の構築や、企業・関係者への普及啓発などを担う存在として位置づけています。
若年性認知症では、医療だけでなく仕事や収入、介護、障害福祉など複数の問題が重なることがあります。
だからこそ「どの制度を使えばいいのか分からない」という段階から相談し、
必要な支援につないでもらうことが、大きなポイントです。
制度名が分からなくても構いません。
「仕事を続けたい」
「収入がなくなるのが怖い」
「最近、一人で留守番させることが心配になってきた」
「家族だけでは支えきれなくなってきた」
といった、現在困っていることから相談していけばよいのです。
出典:厚生労働省「主な認知症施策について」
若年性認知症支援コーディネーターはどこにいる?
若年性認知症支援コーディネーターは、各都道府県や指定都市などに配置されています。
ただし、配置されている場所は地域によって異なり、
- 都道府県などの相談窓口
- 認知症疾患医療センターなどの医療機関
- 社会福祉協議会
- 地域包括支援センター
- 自治体から委託されたNPO等
などに配置されています。
「自分の地域ではどこに相談すればいいの?」という場合には、若年性認知症コールセンターのWebサイトで、全国各地の専門相談窓口を確認できます。
制度について詳しく調べる前に、まず自分の地域の若年性認知症支援コーディネーターにつながることも、支援を受けるための一つの方法です。
出典:厚生労働省「若年性認知症支援コーディネーター配置のための手引書」
社会福祉法人 仁至会 認知症介護研究・研修大府センター「若年性認知症に関する相談窓口」
全国から相談できる「若年性認知症コールセンター」
近くの相談先が分からない場合、厚生労働省では「若年性認知症コールセンター」を若年性認知症の総合相談窓口として案内しています。
65歳未満の認知症の本人や家族からの相談に対応しているため、診断を受けたばかりで「何から始めればよいのか分からない」という場合にも、相談先の一つになります。
若年性認知症では、
「まだ診断されたばかりで何をすればいいのか分からない」
「家族としてどう接したらいいのか分からない」
「利用できる制度を知りたい」
「仕事について相談したい」
など、問題そのものが整理できていないことも珍しくありません。
そのような段階で相談できる場所があることを知っておくだけでも、本人や家族の負担は違ってきます。
大切なのは、
「困りごとが大きくなってから相談する」のではなく、「何をしたらいいのか分からない段階から相談する」
ことです。
出典:厚生労働省「主な認知症施策について」
仕事を休む必要があるとき――「傷病手当金」
若年性認知症では、診断されたからといってすぐに退職しなければならないわけではありません。
業務内容を調整したり、配置を変更したり、休職したりしながら働き方を考えられる場合もあります。
一方で、症状や仕事内容によっては、いったん仕事を休む必要が生じることもあります。
会社員など健康保険の被保険者で、病気によって働くことができず、給与を受けられないなど一定の条件を満たした場合には、傷病手当金を受け取れる可能性があります。
傷病手当金は、業務外の病気やけがによって仕事を休み、給与を受けられない場合などに、一定の条件を満たすことで支給される制度です。
ここで重要なのは、
退職を急がないことです。
診断を受けた本人は、
「会社に迷惑をかけたくない」
「もう働けない」
と考え、退職を申し出てしまうことがあります。
家族も、
「認知症なのだから仕事は無理なのでは」
と考えるかもしれません。
しかし、退職してからでは選択できなくなる制度や、条件が変わる制度があります。
まず主治医、勤務先、健康保険の窓口、若年性認知症支援コーディネーターなどに相談し、
「仕事を続ける方法はないか」
「休職できないか」
「利用できる給付はないか」
を確認してから今後を考えることが大切です。
全国健康保険協会(協会けんぽ)では、傷病手当金の支給期間について「支給を開始した日から通算して1年6か月」としています。
ただし、加入している健康保険や本人の状況などによって利用できるかどうかは異なるため、勤務先や加入している健康保険の窓口に確認しましょう。
出典:全国健康保険協会「傷病手当金」
働くことが難しくなったとき――「障害年金」
若年性認知症によって日常生活や仕事が大きく制限されるようになった場合、障害年金の対象となる可能性があります。
「年金」という名前から、
「高齢者になってから受け取るもの」
と思われるかもしれません。
日本年金機構では、障害年金について、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代も含めて請求できる制度と説明しています。
そして、対象となる主な病気や障害の一つとして「認知障害」も明記されています。
ただし、
「若年性認知症と診断された=必ず障害年金を受け取れる」
ということではありません。
初診日、年金の加入状況や保険料納付要件、障害の程度など、複数の受給要件を満たす必要があります。
また、障害年金では「初診日」が非常に重要になります。
そのため、最初に受診した医療機関や受診時期など、初診日を確認するために必要な情報を確認できるように整理しておくことも大切です。
障害年金については、年金事務所や街角の年金相談センターなどで相談できます。
出典:日本年金機構「障害年金の対象となる病気やケガにはどのようなものがありますか。」
「精神障害者保健福祉手帳」を取得できる場合もある
若年性認知症では、状態によって精神障害者保健福祉手帳を取得できる場合があります。
「認知症なのに精神障害者手帳なの?」
と疑問に感じる人もいるかもしれません。
厚生労働省が示す精神障害者保健福祉手帳の障害等級判定基準では、器質性精神障害について、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、社会的行動障害などが判定に関わる症状として挙げられています。
そのため、若年性認知症の人でも、症状や日常生活・社会生活への影響などによって、精神障害者保健福祉手帳の対象となる可能性があります。
精神障害者保健福祉手帳には1級から3級まであり、精神疾患の状態だけではなく、日常生活や社会生活にどの程度の制限が生じているのかなどを含めて判断されます。
手帳を取得することで、税制上の控除や自治体・民間事業者による各種サービスなどを利用できる場合があります。
ただし、手帳を取得できるかどうかは個々の状態によって異なるため、主治医や自治体の担当窓口などに確認しましょう。
「手帳を持つこと」に心理的な抵抗を感じる本人や家族もいるかもしれません。
しかし、手帳は本人を何かの枠にはめるためのものではありません。
生活上の困難を少しでも減らし、社会生活を続けるために利用できる制度の一つ
として考えることが大切です。
出典:厚生労働省「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について」
通院が続く場合――「自立支援医療制度」
若年性認知症の診断後には、定期的な通院や治療が続くことがあります。
一定の要件を満たす場合には、精神科などへの継続的な通院医療にかかる自己負担を軽減する自立支援医療(精神通院医療)を利用できる可能性があります。
自立支援医療(精神通院医療)は、精神疾患があり、継続的な通院による精神医療が必要な人について、通院医療にかかる自己負担を軽減する制度です。
厚生労働省では対象となる精神疾患として「症状性を含む器質性精神障害(F0)」を挙げています。
若年性認知症の場合にも対象となる可能性がありますが、実際に利用できるかどうかは治療内容や本人の状態などによって異なるため、主治医や自治体の窓口などに確認しましょう。
医療費は一回ごとの負担だけを見ると大きく感じなくても、通院が長期化すれば家計への負担になります。
利用できる制度がないかを早めに確認しておくことが大切です。
出典:厚生労働省「自立支援医療(精神通院医療)の概要」
40歳以上なら「介護保険」を利用できる可能性がある
40~64歳では「特定疾病」が条件になる
「介護保険は65歳になってから使うもの」
というイメージを持っている人も多いかもしれません。
ですが介護保険では、40歳以上65歳未満の医療保険加入者は第2号被保険者となり、国が定める「特定疾病」が原因で要介護・要支援状態となった場合には、介護保険によるサービスを利用できる可能性があります。
介護保険法施行令で定められている特定疾病の一つが「初老期における認知症」です。
そのため、若年性認知症の人でも、40~64歳の医療保険加入者で、一定の条件を満たせば、要介護認定を受けて介護保険サービスを利用できる場合があります。
例えば、
・訪問介護
・通所介護
・訪問看護
・福祉用具
・短期入所
・施設・居住系サービス
など、その人の状態に応じた支援を検討できます。
ただし、若年性認知症の人は身体機能が比較的保たれている場合も多く、
「高齢者中心のデイサービスにはなじめない」
ということもあります。
制度上利用できることと、
「本人に合った場所であること」は別の問題です。
本人の年齢、体力、これまでの生活、興味、役割などを考えながら、本人に合ったサービスを探すことが重要になります。
出典:厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」「介護保険法施行令」
40歳未満では介護保険を利用できない
若年性認知症について特に注意したいのが年齢です。
介護保険の第2号被保険者は40歳以上65歳未満です。
そのため、39歳以下で若年性認知症を発症した場合には、認知症を理由として介護保険サービスを利用することはできません。
しかし、
「介護保険が使えない=支援を受けられない」ではありません。
障害者総合支援法による障害福祉サービスなど、別の制度を利用できる可能性があります。
若年性認知症では年齢や本人の状態によって利用する制度が変わるため、
「介護保険が使えないから何もない」
と考えず、市区町村の障害福祉担当窓口や若年性認知症支援コーディネーターなどへ相談することが大切です。
出典:厚生労働省「若年性認知症対策の推進に当たっての留意事項について」
「働き続けたい」を支える制度や相談先もある
若年性認知症の支援では、
「生活できなくなってから助ける」
だけでは十分ではありません。
本人が働いているのであれば、
できる限り働き続けられる方法を考えることも支援の一つです。
症状の程度や仕事内容によっては、
・仕事内容を分かりやすくする
・複数の仕事を同時に行わないようにする
・確認する人を決める
・勤務時間を調整する
・配置転換を検討する
などの工夫によって、仕事を続けられる可能性があります。
就労については勤務先だけでなく、
・ハローワーク
・地域障害者職業センター
・障害者就業・生活支援センター
などでも相談できます。
大切なのは、
「認知症だから退職する」ではなく、
「何が難しくなり、何ならまだできるのか」を整理することです。
認知症になったからといって、その人が積み上げてきた経験や知識、能力が一度にすべて失われるわけではありません。
出典:厚生労働省「若年性認知症における治療と仕事の両立に関する手引き」
家族が仕事と介護を両立するための制度もある
若年性認知症では、本人だけでなく、支える家族の働き方にも影響が生じることがあります。
「通院に付き添うために仕事を休まなければならない」
「一人で過ごしてもらうことが心配になってきた」
「介護のために仕事を辞めた方がいいのだろうか」
と悩む家族もいるかもしれません。
しかし、本人と同じように、家族についても介護のためにすぐ仕事を辞めるのではなく、仕事と介護を両立する方法を考えることが大切です。
育児・介護休業法では、家族を介護する労働者を支えるために、介護休業や介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働・深夜業の制限、短時間勤務等の措置など、仕事と介護を両立するためのさまざまな制度が設けられています。
また、介護休業は「自分がすべての介護を行うための期間」というだけではなく、介護サービスの利用や家族内での役割分担など、仕事と介護を両立できる体制を整えるための期間として活用するという考え方も大切です。
若年性認知症では、本人が現役世代であると同時に、配偶者などの家族も働いていることがあります。
本人の生活を守るために家族が仕事を失ってしまうのではなく、勤務先の制度や介護サービスなども活用しながら、家族自身の生活や仕事も守っていく視点を持つことが大切です。
出典:厚生労働省「仕事と介護の両立 ~介護離職を防ぐために~」
お金の管理が難しくなったら――「日常生活自立支援事業」
認知症が進行すると、
「公共料金の支払いを忘れる」
「必要以上に買い物をしてしまう」
「通帳や印鑑をどこに置いたか分からなくなる」
など、金銭管理に支援が必要になることがあります。
そのような場合に利用を検討できる制度の一つが、日常生活自立支援事業です。
日常生活自立支援事業は、認知症などによって判断能力が十分ではない人が地域で自立した生活を送れるよう、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理などを支援する制度です。
一方で、厚生労働省は対象者の要件として、判断能力が不十分であることに加えて「本事業の契約の内容について判断し得る能力を有している」ことを挙げています。
つまり、この制度は本人との契約によって利用するため、契約内容を理解できる程度の判断能力が必要であり、判断能力が完全に失われてから利用する制度ではありません。
そのため、
「もっと困ってから考えよう」では利用が難しくなる可能性があります。
認知症では状態が少しずつ変化することがあります。
将来的に金銭管理などへの支援が必要になる可能性がある場合には、本人が契約内容を理解でき、自分の希望を伝えられる段階から、今後のお金の管理について話し合っておくことも大切です。
出典:厚生労働省「日常生活自立支援事業」
判断能力が低下したとき――「成年後見制度」
認知症が進行し、
・預貯金や財産を自分で管理することが難しい
・重要な契約の内容を理解することが難しい
・悪質商法などの被害が心配
・介護や福祉サービスの契約を本人だけで行うことが難しい
といった状況になった場合には、成年後見制度が選択肢になることがあります。
成年後見制度は、認知症などによって判断能力が十分ではない人について、本人の権利を守る援助者を選び、財産管理や契約などを法律的に支援する制度です。
ただし、
「認知症になったら、とりあえず成年後見制度」
と考える必要はありません。
成年後見人等は、本人の判断能力や選任された類型などに応じて支援を行います
そのため、本人の判断能力や生活状況、財産管理の方法、家族関係などによって、制度を利用する必要性は異なります。
日常生活自立支援事業で対応できる段階なのか、成年後見制度が必要なのかなども含め、地域の相談窓口や社会福祉協議会、成年後見制度に関する相談窓口などへ相談しながら検討するとよいでしょう。
出典:裁判所「成年後見制度について」
家族だけで抱え込まないための相談先
ここまでさまざまな制度を紹介してきました。
しかし、
「傷病手当金も障害年金も介護保険も調べなければ」
と、すべてを家族だけで調べる必要はありません。
むしろ重要なのは、
自分たちだけで制度を探し続けるのではなく、制度につないでくれる人を見つけることです。
若年性認知症について相談できる場所として、
・若年性認知症支援コーディネーター
・若年性認知症コールセンター
・医療機関の相談員、医療ソーシャルワーカー
・市区町村の介護保険担当窓口
・地域包括支援センター
・市区町村の障害福祉担当窓口
・年金事務所
・ハローワーク
・地域障害者職業センター
・障害者就業・生活支援センター
・社会福祉協議会
などがあります。
どこに相談すればよいのか分からなければ、
「若年性認知症と診断されました。今後の生活や仕事、利用できる制度について相談したいです」
と伝えてみてください。
最初から制度名を知っている必要はありません。
「制度から探す」のではなく「困りごとから探す」
制度がたくさん出てくると、かえって分かりにくく感じるかもしれません。
そんなときは、制度名ではなく現在の困りごとから考えてみましょう。
仕事を続けられるか不安
→すぐに退職を決めるのではなく、仕事内容や勤務時間の調整、配置転換などによって仕事を続けられないか検討します。
勤務先や若年性認知症支援コーディネーター、地域障害者職業センターなどに相談してみましょう。
仕事を休み、収入が減った
→病気によって仕事を休み、給与を受けられない場合などには、一定の条件を満たすことで傷病手当金を受け取れる可能性があります。
勤務先や加入している健康保険の窓口に確認しましょう。
長期的に働くことが難しくなってきた
→若年性認知症によって生活や仕事が制限されるようになった場合には、障害年金の対象となる可能性があります。
受給には初診日や保険料納付などの要件があるため、年金事務所などに相談しましょう。
家族が仕事と介護を両立できるか不安
→家族には、介護休業や介護休暇など仕事と介護を両立するための制度があります。
すぐに離職を考えるのではなく、勤務先の制度や介護サービスなどを確認し、仕事を続けながら支えられる方法を考えてみましょう。
日常生活に支援が必要になってきた
→40~64歳では「初老期における認知症」などの特定疾病によって要介護・要支援状態となった場合、介護保険を利用できる可能性があります。
40歳未満の場合などは、障害福祉サービスを利用できる可能性について相談しましょう。
通院による医療費が負担になっている
→継続的な通院による医療費が負担になっている場合には、自立支援医療(精神通院医療)を利用できる可能性があります。
対象になるかどうか、主治医や自治体の担当窓口などに確認してみましょう。
お金の管理が難しくなってきた
→日常的な金銭管理などに支援が必要になった場合には、日常生活自立支援事業を利用できる可能性があります。
判断能力の状態などによっては成年後見制度も選択肢になるため、社会福祉協議会や地域の相談窓口などに相談しましょう。
このように考えると、
「制度を覚えてから相談する」のではなく、
「困っていることを相談した結果、必要な制度につながる」
という流れが見えてきます。
診断直後だからこそ確認しておきたいこと
若年性認知症では、診断を受けた直後にすべてを決める必要はありません。
むしろ、大きな不安やショックの中で、
「すぐ退職する」
「すぐ家族が全部管理する」
「もう一人では何もできない」
と生活を一気に変えてしまうことには慎重になる必要があります。
一方で、早めに確認しておきたいこともあります。
例えば、
・勤務先の休職制度や福利厚生
・加入している健康保険
・傷病手当金の対象になるか
・障害年金の相談先
・若年性認知症支援コーディネーターの連絡先
・介護保険や障害福祉サービスの対象になるか
・本人がこれからどのように暮らしたいのか
などです。
特に、
本人が自分の希望を十分に伝えられるうちに、これからの生活について一緒に考えること
は重要です。
「仕事を続けたい」
「できるだけ今の家で暮らしたい」
「お金の管理は妻に手伝ってほしい」
「子どもには自分から病気について話したい」
そうした本人の希望は、その後の支援を考える大切な土台になります。
制度は「できなくなった人」のためだけにあるわけではない
若年性認知症の支援制度について考えるとき、
「できなくなったら介護を受ける」
というイメージを持ってしまうかもしれません。
しかし、制度の役割はそれだけではありません。
仕事を続ける。
家族と暮らし続ける。
地域とのつながりを保つ。
自分でできることを続ける。
家族の負担を減らす。
本人が望む生活をできるだけ長く続ける。
そのために制度を利用するという考え方もあります。
支援を受けることは、
本人の力を奪うことではなく、残されている力を生かして生活を続けるための手段
でもあるのです。
まとめ|「どこに相談すればいいか」を知ることから始めよう
若年性認知症では、本人の認知機能だけでなく、仕事、収入、家庭、子育て、将来の生活など、さまざまな問題が同時に生じることがあります。
しかし、それらを本人と家族だけで抱える必要はありません。
傷病手当金、障害年金、精神障害者保健福祉手帳、自立支援医療、介護保険、障害福祉サービス、就労支援、日常生活自立支援事業、成年後見制度など、状況に応じて利用できる可能性のある制度があります。
そして何より大切なのは、
「制度を全部知ってから相談しよう」と考えないことです。
若年性認知症支援コーディネーターをはじめ、本人と家族を必要な支援につなげるための相談先があります。
「仕事をどうすればいいのか分からない」
「生活費が心配」
「家族だけで支えるのが難しくなってきた」
それだけでも、相談を始める十分な理由です。
若年性認知症と診断されたからといって、それまでの生活がその瞬間にすべて失われるわけではありません。
使える制度を知り、人につながり、必要な支援を少しずつ組み合わせていく。
それは、本人と家族がこれからの生活を守っていくための大切な一歩になります。
参考文献・出典
この記事の制度・支援に関する記述については、以下の公的資料を参考にしています。
- 厚生労働省「主な認知症施策について」
― 若年性認知症コールセンター、若年性認知症支援コーディネーター等 - 厚生労働省「若年性認知症支援コーディネーター」
― 若年性認知症で利用できる制度・サービス、相談・対応支援の流れ等 - 厚生労働省「認知症施策推進基本計画」
― 若年性認知症の人の就労継続、関係機関との連携、相談支援等 - 厚生労働省「若年性認知症支援コーディネーター配置のための手引書」
― 若年性認知症支援コーディネーターの役割・業務内容、配置の考え方、関係機関との連携、相談支援体制等 - 社会福祉法人 仁至会 認知症介護研究・研修大府センター「若年性認知症に関する相談窓口」
― 都道府県(一部指定都市)ごとの若年性認知症相談窓口、若年性認知症支援コーディネーターの配置先・連絡先等 - 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」
― 介護保険における「初老期における認知症」について - 厚生労働省「若年性認知症対策の推進に当たっての留意事項について」
― 若年性認知症で利用できる医療・障害福祉・就労・介護保険サービス、40歳未満の人における障害福祉サービスの利用等 - 厚生労働省「若年性認知症における治療と仕事の両立に関する手引き」
― 若年性認知症の人の就労継続、職場での配慮、治療と仕事の両立支援等 - 厚生労働省「仕事と介護の両立 ~介護離職を防ぐために~」
― 介護休業・介護休暇など、家族の仕事と介護の両立支援制度について - 厚生労働省「介護保険法施行令」
― 介護保険法上の特定疾病について - 日本年金機構「障害年金の対象となる病気やケガにはどのようなものがありますか。」
― 障害年金と認知障害について - 全国健康保険協会(協会けんぽ)「傷病手当金」
― 傷病手当金の支給要件・支給期間等 - 厚生労働省「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について」
― 器質性精神障害における記憶障害・遂行機能障害・注意障害等 - 厚生労働省「自立支援医療(精神通院医療)の概要」
― 対象となる精神疾患、精神通院医療について - 厚生労働省「日常生活自立支援事業」
― 対象者、支援内容、契約に必要な判断能力等 - 裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ」
― 制度の概要、対象となる判断能力の程度、後見・保佐・補助による法的支援等
※制度の内容や利用条件は変更されることがあります。また、利用できる制度は本人の年齢、加入している健康保険、就労状況、症状、障害の程度、居住する自治体などによって異なります。実際に制度を利用する際には、各制度の公的窓口や自治体、医療機関、若年性認知症支援コーディネーターなどに最新の情報をご確認ください。
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