認知症の方はなぜ食べないのか② ~「認知症だから」と考える前に見直したい5つのこと~

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※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。

ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。

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📝 この記事の要約

【この記事で伝えたいこと】

認知症の方の「食べない」は、認知症の症状や本人の気分だけが原因とは限りません。食事の見え方や味覚、義歯、食事環境、量など、本人以外のところに「食べにくさ」が隠れていることもあります。
この記事では「なぜ食べない?」だけでなく「どうしたら食べやすくなる?」という視点から、見落としやすい5つの原因と食事支援で大切なことを解説します。


【要点】

  1. 「食べない」のは、認知症や食欲だけが原因とは限らない
    食事の見え方や味覚、義歯の不具合など「食べたくない」のではなく「食べにくい」原因が隠れている可能性を解説します。
  2. 食事環境や職員側の“当たり前”が、食べにくさを作ることもある
    「みんなで食べた方がおいしい」「これくらい食べられるはず」といった善意や思い込みが、本人にとって負担になる可能性を考えます。
  3. 「なぜ食べない?」から「どうしたら食べやすい?」へ視点を変える
    「食べない・食べられない・もう十分」の違いを考えながら、食器・義歯・環境・食事量・関わり方など、本人を変えずにできる食事支援の工夫を紹介します。

【この記事で分かること】

・認知症の方が「食べない」ときに考えたい、見落としやすい5つの原因
・食器の色や味覚、義歯、食事環境、食事量が「食べにくさ」につながる理由
・「食べない人」と決めつけず、本人に合った食事支援を考えるための視点

家族介護・介護職のどちらでも、「なぜ食べない?」から「どうしたら食べやすい?」へと視点を変え、その人に合った食事支援を考えるために役立つ内容です。

※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。

はじめに

認知症介護の現場では「食べない」という場面に出会うことが少なくありません。

食事を目の前にしても手をつけない。

途中まで食べて箸が止まってしまう。

「もういらない」と言って残してしまう。

こうした様子を見ると、私たちはつい、

「今日は食欲がないのかな」

「認知症が進んできたのかな」

「気分が乗らないのかな」

などと考えてしまいます。

以前の記事「認知症の『食べない』とは? ~食事拒否の原因と対応~」では、
認知症の中核症状やBPSD、本人の心理状態などから「なぜ食べないのか」を考えてきました。

しかし、実際に認知症介護の現場で長くご利用者の食事を見ていると、それだけでは説明できない「食べない」があります。

もしかすると、食べたくないのではなく、食事が見えにくいのかもしれません。

味が以前とは違って感じられているのかもしれません。

義歯が合わず、食べるたびに不快なのかもしれません。

賑やかな食堂では落ち着いて食べられないのかもしれません。

あるいは単純に、目の前に置かれた食事が本人にとって多すぎるのかもしれません。

そして、ここで考えてみたいことがあります。

その「食べない」は、本当に本人だけの問題なのでしょうか。

この記事では、認知症の症状だと考えるだけでは見落としてしまいやすい「食べない」の原因を、
5つの視点から考えていきます。

→ 関連記事
認知症の「食べない」とは? ~食べたくないのではなく“食べられない理由”がある~

① 食べ物が「見えていない」――食器と食事の色を考える

私たちは食事をするとき、味や匂いだけを頼りにしているわけではありません。

「どこに何があるのか」

「どこまでが食べ物なのか」

「何を箸で取ればよいのか」

こうしたことを、目から入ってくる情報によって判断しています。

ところが、高齢になると視力だけでなく、色や明暗の違いを見分ける力である「コントラスト感度」が低下することがあります。

認知症のある方では、さらに視覚から得た情報を適切に認識することが難しくなる場合もあります。

そこで考えてみたいのが、食べ物と食器の色の組み合わせです。

たとえば、

「内側が白いお茶碗に白いご飯」

という組み合わせ。

私たちには当たり前に「白い茶碗の中に白いご飯が入っている」と分かります。

しかし、食器と食べ物の境界を認識しづらくなっている人にとっては、どうでしょうか。

ご飯がどこまで入っているのか分かりにくい。

そもそも、そこに食べ物が残っていることに気づきにくい。

その結果、食事の途中で箸が止まってしまうことも考えられます。

実際に、重度のアルツハイマー型認知症の人を対象とした小規模な研究では、食器と食べ物・飲み物のコントラストを高めることで、摂取量が増加したことが報告されています。

ただし対象者は9人と少なく、すべての認知症の方に同じ効果があると考えることはできません。

出典:Dunneら「Visual contrast enhances food and liquid intake in advanced Alzheimer’s disease」

「食べない」のではなく「見つけられない」のかもしれない

ここで大切なのは、

食事量が少ない=食欲がない

とすぐに結びつけないことです。

たとえば、

  • 白いご飯だけよく残す
  • 食器の端にあるものを残しやすい
  • 特定の食器に変えると食べる量が変わる
  • 職員が食べ物の位置を示すと再び食べ始める

といった様子があるなら「見え方」も一つの可能性として考えられます。

もちろん、食器の色を変えれば誰でも食べられるようになる、という単純な話ではありません。

しかし、

「この人には、この食事がどのように見えているのだろう?」

と考えることはできます。

私たちにとって食べやすい食卓が、認知症の方にとっても食べやすいとは限らないのです。

② 「おいしくない」のかもしれない――栄養状態と味覚の変化

食事を目の前にして、

「味がしない」

「おいしくない」

「変な味がする」

と話す高齢者もいます。

一方、認知症が進行している場合には、こうした感覚を具体的な言葉で説明できるとは限りません。

「以前と味が違う」

「何となくおいしく感じない」

という感覚があったとしても、それを私たちに伝えることができず、

結果として「食べない」という行動だけが見えている可能性があります。

高齢者の味覚はさまざまな影響を受ける

高齢者の味覚の変化には、加齢だけでなく、

  • 口腔内の状態
  • 唾液量の低下
  • 疾患
  • 薬剤
  • 栄養状態

など、さまざまな要因が関係します。

なかでも知られているものの一つが「亜鉛」です。

亜鉛は味覚を正常に保つうえでも重要な栄養素であり、不足によって味覚障害が起こることがあります。

ただし、ここで注意したいのは、

「味覚障害=亜鉛不足」と決めつけないことです。

味覚の変化には複数の原因が考えられるため、介護職だけで原因を判断するのではなく、食事量の変化などを記録し、必要に応じて看護師や医師、歯科医師、管理栄養士などにつなげることが重要です。

出典:日本臨床栄養学会「亜鉛欠乏症の診療指針」関連論文
   山崎裕「味覚障害に対する亜鉛補充療法の検証」

「食べない」が、さらに「食べにくい」を作る可能性

そして、もう一つ考えておきたいことがあります。

食事量が落ちる。

↓

必要な栄養が十分に摂れなくなる。

↓

栄養状態が悪化する。

↓

味覚や身体機能などにも影響する。

↓

さらに食事が進まなくなる。

こうした悪循環に陥る可能性も考えられます。

食事量が落ちている人に対して、

「食べたくないなら仕方ない」

だけで終わらせるのではなく、

食べない状態が続くことで、さらに食べにくくなっていないか

という視点も必要になります。

③ 義歯が合っていない――「食べない」のではなく「食べるとつらい」

グループホームなどの高齢者施設では、義歯を使用している方も少なくありません。

義歯が合わなくなれば、

噛むと痛い。

義歯が動く。

食べ物が挟まる。

違和感がある。

といったことが起こる可能性があります。

しかし、認知症のある方が、

「右下の歯茎に義歯が当たって痛いです」

「噛んだときに義歯が少し浮きます」

などと具体的に説明してくれるとは限りません。

さらに、口の中を確認しようとしても、口を開けてもらえないこともあります。

ここに、認知症介護における口腔トラブルの難しさがあります。

介護職には「義歯が合っているか」が分からない

私たち介護職ができるのは、基本的には日々の様子を観察することです。

義歯が医学的・歯科的に適合しているかどうかを判断することはできません。

それでも現場では、

「最近、入れ歯が動いているみたい」

「だったら義歯安定剤を使ってみよう」

という対応になることがあります。

もちろん、義歯安定剤そのものが悪いわけではありません。

しかし、義歯が合わないように見えるからといって、介護職の判断だけで義歯安定剤を使い続けることが、必ずしも適切とは限りません。

日本老年歯科医学会の「認知症患者の義歯診療ガイドライン2018」でも、不適合義歯に対しては、義歯を調整するリラインや新しい義歯の製作などが基本的な対応とされ、

義歯安定剤はそれらが困難な場合の代替手段として位置づけられています。

つまり、義歯安定剤で「動かなくする」ことだけを考えるのではなく、そもそも今の義歯が本人の口に合っているのかを、歯科医師などの専門職に確認してもらうことが大切です。

合わなくなった義歯そのものの問題が解決されないまま義歯安定剤を使用し続けても、根本的な解決にはなりません。

そして本人がそれをうまく説明できなければ、

「義歯を入れると食べたくない」

という行動だけが残る可能性があります。

だからこそ、

「食事介助を増やそう」

と考える前に、

義歯を入れているときと外しているときで様子は違わないか。

硬いものだけ残していないか。

左右どちらかだけで噛んでいないか。

口元を触る仕草が増えていないか。

などを観察することが大切です。

介護職が義歯の問題を診断する必要はありません。

むしろ「何かいつもと違う」を見つけて、歯科医師や歯科衛生士などの専門職につなげる。

それも介護職の重要な役割です。

出典:日本老年歯科医学会「認知症患者の義歯診療ガイドライン2018」

④ 「みんなで食べた方がおいしい」は、本当なのか

グループホームでは、リビングや食堂に集まり、複数のご利用者が一緒に食事をすることが多いと思います。

職員にとっても、

「みんなで食卓を囲む」

という光景には、どこか温かいイメージがあります。

そのため、

「一人で食べるより、みんなで食べた方がおいしいですよね」

「一人だと寂しいでしょう」

と声をかけることもあるかもしれません。

でも、本当にそうでしょうか。

ずっと一人で食べてきた人もいる

入居するまでの生活を考えてみます。

長い間一人暮らしをしていて、毎日静かな部屋で食事をしていた人もいます。

テレビを見ながらゆっくり食べていた人もいるでしょう。

家族と暮らしていても、それぞれ好きな時間に食事をしていた家庭もあります。

そんな人がグループホームへ入居すると、

隣に人がいる。

向かいにも人がいる。

誰かが話している。

職員が歩き回っている。

食器の音がする。

テレビがついている。

そして、ときどき職員から声をかけられる。

私たちが「賑やかで楽しい食卓」と感じる環境を、

本人も同じように感じているとは限りません。

むしろ「落ち着かない」と感じている可能性もあります。

「みんなで食べる方がいい」という優しさの押し付け

ここには、介護において気をつけなければならない「優しさ」が隠れているように思います。

「みんなと一緒の方が楽しい」

「一人にしたらかわいそう」

「話しかけてあげた方がいい」

どれも悪意から生まれる考えではありません。

むしろ、相手を思いやっているからこそ出てくる考えです。

しかし、

善意であることと、本人が望んでいることは同じではありません。

本人は一人で静かに食べたいのかもしれません。

隣の人の食べる音が気になるのかもしれません。

職員から何度も話しかけられることで、食事への集中が途切れているのかもしれません。

「みんなで食べた方がおいしいですよね」

という言葉も、本人に確認していなければ、それは職員側の価値観です。

場合によっては、優しさが本人の選択を狭めてしまうことがあります。

食事環境もアセスメントする

食事量が落ちたときには、本人だけを見るのではなく、周囲も見てみます。

席を変えたらどうか。

テレビを消したらどうか。

人の出入りが少ない場所ならどうか。

声かけを減らしたらどうか。

可能であれば、一人で落ち着いて食べられる環境ならどうか。

それによって食事の様子が変わるのであれば、

「食べない人」だったのではなく、

「その環境では食べにくかった人」

なのかもしれません。

認知症のある方への食事支援については、食事環境だけでなく、本人の能力やニーズ、好みを踏まえた関わり方の重要性も研究されています。


だからこそ

「みんなで食べる」
「一人で食べる」

のどちらかを正解にするのではなく、

本人にとってどのような環境が食べやすいのかを探していくことが大切です。

出典:Liuら「Person-Centered and Task-Centered Care and Mealtime Behaviors in Nursing Home Residents With Dementia: Impact on Food Intake」
   Liuら「Optimizing mealtime care and outcomes for people with dementia and their caregivers: A systematic review and meta-analysis」

⑤ 「これくらい食べられるはず」が食事をつらくしていないか

グループホームで生活していると、その人のことを少しずつ知っていきます。

「○○さんはよく食べる」

「ご飯はいつも全部食べる」

「この量なら食べられる」

そうした情報の蓄積は、個別ケアをするうえで非常に重要です。

しかし、ときには、その経験が思い込みに変わることもあります。

「前は食べられた」は「今も食べられる」ではない

人の食事量はずっと同じではありません。

加齢だけでなく、

体調、活動量、睡眠、便通、口腔状態、薬、気温、その日の疲れなどによっても変化します。

それなのに、

「前は全部食べていたから」

「いつもこれくらい食べるから」

という過去の情報を基準にすると、

本人が半分食べて「もういらない」と言ったとき、

「食べられない」ではなく「食べない」と評価してしまう

ことがあります。

すると、

「もう少し食べましょう」

「あと一口ですよ」

「今日は全然食べてないですよ」

と声をかける。

それでも食べなければ、スプーンですくって介助してみる。

本人が口を開ければ、

「やっぱり食べられるじゃない」

となる。

しかし、本当にそうなのでしょうか。

本人は単に、

「もう十分」

だったのかもしれません。

「食べない」「食べられない」「もう十分」は違う

ここは、食事支援を考えるうえで非常に重要な違いです。

食べない。

食べられない。

もう十分だから食べない。

外から見れば、どれも「食事を残している」という同じ結果に見えます。

しかし、その意味はまったく違います。

だからこそ、摂取量だけを見て判断するのではなく、

「この人にとって現在の適量はどのくらいなのか」

を改めて考える必要があります。

場合によっては、最初から量を少なくして「食べられそうなら追加する」という方法が合う人もいるでしょう。

一方で、最初から量を減らすのではなく、これまでと同じように盛り付けたうえで、

「食べられるだけで大丈夫ですよ」

「残しても大丈夫ですよ」

と伝える方が安心して食べられる人もいるかもしれません。

大切なのは「食事量が減ったら量を減らせばよい」と一律に考えることではありません。

その人にとって、どのような出し方なら負担なく食事を楽しめるのか。

そこにも個別性があるのだと思います。

食べてもらおうとするほど、食べたくなくなることもある

介護職が食事を勧めるのは、もちろん理由があります。

食べなければ体重が減る。

低栄養になってしまう。

体力が落ちる。

だから、何とか食べてもらいたい。

その気持ちは間違っていません。

しかし、

声をかける。

また声をかける。

食器を本人の前に寄せる。

スプーンを渡す。

食事介助をする。

「あと一口」と勧める。

これが繰り返されれば、本人にとって食事の時間そのものが、

「食べることを求められる時間」

になってしまう可能性があります。

食べてもらおうと頑張るほど、本人の「食べたい」という気持ちを削いでしまう。

そんな逆転が起きていないか、ときには振り返る必要があります。

「食べない人」ではなく「今の食事では食べにくい人」なのかもしれない

今回取り上げた5つには、共通していることがあります。

食器と食べ物の色。

味覚や栄養状態。

義歯。

食事をする環境。

提供する食事量。

これらはすべて、認知症そのものだけの問題ではありません。

だからこそ、

「認知症だから食べない」

「食事拒否がある人」

と本人の側だけに原因を求めてしまうと、見えなくなってしまいます。

たとえば白いご飯が見えにくいのであれば、食器を工夫できるかもしれません。

義歯が痛いのであれば、歯科につなげられるかもしれません。

賑やかな環境が苦手なら、席を工夫できるかもしれません。

量が多すぎるなら、最初から少なくすることもできます。

つまり、

本人を変えなくても、私たちが変えられるものがある。

ここに気づくことが、
「食べない」を考えるうえでとても大切なのではないでしょうか。

「なぜ食べない?」から「どうしたら食べやすい?」へ

「なぜ食べないんだろう?」

この問いを持つことは大切です。

しかし、もう一歩進んで、

「どうしたら、この人は食べやすくなるだろう?」

と考えてみます。

食事は見えているだろうか。

味はどう感じているだろうか。

口の中は痛くないだろうか。

この場所は落ち着くだろうか。

この量は本当に本人に合っているだろうか。

そして、

私たちの「こうした方がいい」という思い込みが、食べにくさを作っていないだろうか。

そこまで考えて初めて見えてくる「食べない」の原因もあります。

認知症介護では、本人が困っていることを本人自身が言葉で説明できるとは限りません。

だからこそ私たちは、目の前に現れている「食べない」という行動だけを見るのではなく、その背景を想像し、観察し、一つずつ可能性を確かめていく必要があります。

「食べない人」と決めつける前に、

「今の食事のあり方では、食べにくい人なのかもしれない」

と考えてみる。

すると、変えるべきなのは本人ではなく、食器かもしれません。

食事内容かもしれません。

義歯への対応かもしれません。

食べる場所かもしれません。

食事の量かもしれません。

あるいは、

食べてもらおうとする私たち自身の関わり方なのかもしれません。

「食べない」という一つの行動の背景には、たくさんの理由があります。

だからこそ、食べないことをすぐに「認知症だから」と結びつけるのではなく、

その人には、食事がどう見えているのか。
どう感じられているのか。
そして、その食事の時間をどう過ごしているのか。

そこから考えていくことが、その人に合った食事支援につながっていくのではないでしょうか。

参考文献・出典

この記事では、以下の資料・論文などを参考に、認知症介護の現場での視点を加えて解説しています。

ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。

詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!

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