認知症介護のコミュニケーション:理解力の低下 ~会話を円滑にする3つの工夫~

認知症ケアについて
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※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。

ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。

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📝 この記事の要約

【この記事で伝えたいこと】

認知症の方とのコミュニケーションは、単に「話すこと」ではなく「理解を共有すること」が本質です。
「伝わらない」のは能力の問題ではなく、伝え方の問題であることも少なくありません。
この記事では「理解しづらさ」という特性を踏まえながら、伝わりやすくするための具体的な工夫と、ケアの質を高める関わり方について解説します。


【要点】

  1. 「なぜ伝わらないのか」が分かる
    認知症の特性として「聞こえない」のではなく「理解しづらい」ことが原因である点を整理し、コミュニケーションの難しさの背景を解説します。
  2. 伝わりやすくする具体的な工夫が分かる
    「短く伝える」「一つずつ伝える」「認識されてから話す」といった、現場で実践できる声かけのポイントを紹介します。
  3. 動作の分解によって自立支援と安全につなげる視点が分かる
    動作を分解して関わることで、転倒予防や安心感の向上につながる支援方法と、その人に合ったケアの考え方を解説します。

【この記事で分かること】

・認知症の方とのコミュニケーションが難しくなる理由とその本質
・「聞こえない」と「理解しづらい」の違いを踏まえた関わり方
・短く伝える・動作を分解するなど、現場で使える具体的な工夫

家族介護・介護職のどちらでも、伝わりやすい関わり方をすぐに実践できる内容です。

※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。

はじめに

介護の現場で

「話しかけても反応がない」
「伝えたつもりなのに動いてもらえない」
「返事はあるのに、うまく伝わっていない気がする」

そんな経験はないでしょうか。

コミュニケーションとは何か

認知症の方とのコミュニケーションでは、
こちらの声が届いていないのではなく、言葉の意味を受け取ることが難しくなっている場合があります。

コミュニケーションとは、ただ話すことではありません。
相手と理解を通わせることです。

だからこそ、

  • 伝えたが反応がない
  • 聞いたが返事がない
  • 伝えたつもりだが違う行動になっている

こうした状態は、コミュニケーションが成立しているとは言えません。

この記事では、認知症によって理解力が低下した方に対して、
どのように伝えれば伝わりやすくなるのか、現場で使える工夫を整理してお伝えします。

認知症の方との会話が難しくなる理由

「聞こえない」のではなく「理解しづらい」

高齢者とのコミュニケーションが難しくなる原因には、いくつかの種類があります。

その一つが加齢性難聴です。
これは耳の機能や神経の変化により「聞く力」が低下している状態です。

一方で認知症の場合は、少し性質が異なります。

耳は聞こえていても、
聞いた言葉を理解し、意味づけする力が低下していることがあります。

つまり

  • 加齢性難聴:聞こえづらい
  • 認知症:理解しづらい

という違いがあります。

この違いを理解することが、関わり方を変える第一歩になります。

「伝わる」と「行動する」は違う

介護の現場では、
「伝わった=動いてくれた」と捉えてしまうことがあります。

しかし本来、コミュニケーションとは
相手に行動させることではなく、理解を共有することです。

たとえその場で行動につながらなくても、
安心して話が聞けている状態であれば、
それはすでに「伝わっている」と言えるでしょう。

逆に、無理に従わせるような関わりは、
不安や拒否を強める原因にもなります。

まずは「理解してもらうこと」を大切にすることが、
結果的にスムーズな支援につながります。

認知症の方に伝わりやすくする基本

まずは「挨拶」から始める

認知症の方にとっては、たとえ毎日会っている職員であっても、
「初めて会う人」として認識されている可能性があります。

そのため、いきなり話しかけても戸惑いや不安を感じやすくなります。

基本はとてもシンプルです。

  • 相手の名字をさん付けで呼ぶ
  • 相手がこちらを認識したことを確認する
  • 微笑みながら自分の名前を名乗る

これは特別な技術ではなく、
人と人として自然なコミュニケーションの基本です。

相手に認識されてから話す

声をかけても反応がないとき、
「無視された」と感じてしまうこともあります。

しかし実際は、

こちらの存在に気づいていないだけ
ということも少なくありません。

重要なのは

  • 相手の視界に入る
  • 目線を合わせる
  • 表情を見せる

ということです。

そして
「私は今、あなたに話しかけています」
というメッセージを、言葉以外でも伝えることが大切です。

言葉を伝わりやすくする工夫

単語数を減らす

認知症が進行すると、長い文章の理解が難しくなります。

そのため、

短く、シンプルに伝えることが重要です。

目安としては三単語程度が良いでしょう。

例えば

×「これからお風呂に入るので準備をお願いします」
○「お風呂です」「行きましょう」

このように、情報を絞るだけで伝わりやすさは大きく変わります。

一度に一つのことを伝える

一度に複数のことを伝えようとすると、混乱を招きやすくなります。

×「立って、トイレに行って、ズボン下げてください」
○「立ちましょう」→「歩きましょう」→「ズボン下げましょう」

このように、一つずつ区切ることもポイントです。

抽象的な言葉を避ける

「あっちに行きましょう」「気を付けてくださいね」などの言葉は、
意味が曖昧で伝わりにくいことがあります。

できるだけ

  • 具体的に
  • 行動がイメージできる形で

伝えることが大切です。

動いてもらうための「動作の分解」

「立ってください」が伝わらない理由

椅子から立つという動作は、一見シンプルに見えます。

しかし実際には

  • 椅子を下げる
  • 足を引く
  • お尻を前に出す
  • 上体を前に倒す
  • テーブルやひじ掛けを手で支える
  • 体を持ち上げる

といった、複数の動作が組み合わさっています。

認知症の方にとっては、この一連の流れを一度に理解することが難しい場合もあります。

動作を一つずつ伝える

そのため、動作を分解して伝えることが重要です。

例えば

  • 「足を、引いてください」
  • 「お尻を、前に出しましょう」
  • 「体を、前に倒します」
  • 「手を、つきましょう」

といったように、段階的に伝えます。

これにより

  • 理解しやすくなる
  • 安心して動ける
  • 転倒リスクが減る

といった効果が期待できます。

「分解して考える」ことがケアの質を変える

動作を分解して考えることは、
単に伝えやすくするためだけの技術ではありません。

実はこれは、
その人の状態を理解するための重要な視点でもあります。

例えば「立てない」という場面でも、

  • 足の位置が分からないのか
  • 前傾ができないのか
  • 手の使い方が分からないのか

によって、必要な支援は大きく異なります。

もし「立てない」と一括りにしてしまうと、
「介助するしかない」という結論になりがちです。

分解することで見えてくるもの

しかし分解して見ることで、
「ここを少し手伝えばできる」というポイントが見えてきます。

これはまさに、
自立支援の視点そのものです。

動作を分解するという考え方は、
コミュニケーションを助けるだけでなく、
その人の力を引き出すケアにもつながります。

分解することで「できない」が「できる」に変わります。

質問の仕方で「その人らしさ」に近づく

オープンクエスチョン(自由回答)

答えが自由な質問です。


「好きな食べ物は何ですか?」

認知症の進行が軽い場合は、
この方法でその人らしい答えを引き出しやすくなります。

クローズドクエスチョン(選択式)

「はい・いいえ」で答えられる質問です。


「みかんは好きですか?」

認知症が進行している場合でも、
答えやすく、意思確認に有効です。

状態に応じて使い分ける

重要なのは、その人の状態に合わせることです。

  • 軽度 → オープン
  • 進行 → クローズド

と使い分けることで、

その人の意思に近づくことができます。

「できない」ではなく「やりづらい」

認知症の方の行動を見ていると
「なぜできないのだろう」と感じてしまうことがあるでしょう。

しかし実際には、
できないのではなく、やり方が分かりにくい、順序が整理できないだけ
ということも多くあります。

例えば

  • 立ち上がれない → 手順が分からない
  • 歩けない → 始め方が分からない

というケースです。

このように捉えると、支援の視点は大きく変わります。

「できるようにする」のではなく、できる形に整えることが大切なのです。

まとめ

伝える技術は、安心をつくる技術

認知症の方とのコミュニケーションでは、

  • 聞こえるかどうか
    ではなく
  • 理解できるかどうか

が重要になります。

そしてそのためには

  • 短く伝える
  • 一つずつ伝える
  • 認識されてから話す
  • 動作を分解する

といった工夫が必要です。

「伝わらない」を責めない

伝わらないとき「理解してもらえない」と感じてしまうこともあります。

しかしそれは

能力の問題ではなく、伝え方の問題であることも多いのです。

伝え方を変えることで、

  • 不安が減り
  • 行動が安定し
  • 笑顔が増える

そんな変化が生まれます。

伝わる関わり方が、ケアの質を高める

介護は「人対人」の仕事です。

だからこそ、
伝わる関わり方を身につけることは、ケアの質そのものを高めることにつながります。

目の前の方の安心と笑顔のために、
この記事がお役に立てば幸いです。

ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。

詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!

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