【全7回】第7回:「生活リズムの乱れ」が招く転倒 ~認知症ケアで本当に守るべき“いつも通り”とは?~

健康管理・事故予防
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※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。

ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。

本記事では、認知症のある方の転倒リスクが「生活リズム」や「日常習慣の変化」によって高まる理由と、それによる転倒を防ぐ方法について、分かりやすくお伝えします。
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📝 この記事の要約

【この記事で伝えたいこと】

認知症の方の転倒は、筋力の低下や段差だけが原因ではありません。
長年続けてきた「生活リズム」や「日常習慣」が崩れることも、転倒リスクを高める大きな要因になります。

この記事では、生活リズムや習慣が転倒につながる理由と、その方らしい暮らしを大切にしながら転倒を予防するための考え方や支援のポイントを解説します。


【要点】

  1. 生活リズムや習慣が転倒につながる理由が分かる
    睡眠リズムの乱れや時間感覚の変化、活動量の低下などが、認知症のある方の転倒リスクを高める理由を分かりやすく解説します。
  2. 「いつも通り」を尊重することが転倒予防につながる理由を解説
    長年続けてきた生活習慣や役割を大切にすることが、不安や混乱を減らし、安全でその人らしい暮らしにつながることを紹介します。
  3. 家族と介護職が実践できる生活リズムを活かした支援方法が分かる
    生活歴の聞き取りや情報共有、習慣を活かした環境づくりなど、転倒予防に役立つ具体的な支援のポイントを解説します。

【この記事で分かること】

・生活リズムや日常習慣が転倒リスクを高める理由
・「いつも通り」の暮らしを尊重することが転倒予防につながる理由
・家族と介護職が協力して生活リズムを支えるための実践的なポイント

家族介護・介護職のどちらにも役立つ、その方らしい暮らしを守りながら転倒を予防するための考え方と支援のヒントが分かります。

※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。

はじめに

筋力の低下や環境が原因で転倒するイメージはありますが、
実は『生活リズムの乱れ』や『日常習慣の変化』が転倒を引き起こす大きな要因になることをご存じでしょうか?

特に認知症のある方にとって、生活リズムの乱れや習慣の変化は、
認知機能や身体機能に大きな影響を与え、転倒のリスクを高める要因となります。

この記事では、生活リズムや習慣が崩れることでなぜ転倒に繋がるのか、
その背景や具体例、そしてご家族と介護職員それぞれが果たすべき役割について掘り下げてお伝えします。

なぜ「生活リズム」が転倒につながるのか?

睡眠リズムの乱れによる昼夜逆転

認知症では、体内時計を調整する脳の働きが低下し、睡眠覚醒リズムが乱れやすくなります。

夜間に活動し、昼間にウトウトする「昼夜逆転」が生じると、日中の活動量が低下し、転倒しやすい身体状態になります。
また、夜間の動き出しやトイレのための起き上がりで転倒する危険性も高まります。【1】

食事や排泄などの習慣の乱れ

・以前は決まった時間に食事やトイレを済ませていた方が、認知症の進行に伴い「今が何時か」「お腹が空いたか」がわかりにくくなり、不適切な時間帯の行動が増える
・排泄の失敗を避けようとして、頻回にトイレに行きたがり、そのたびに転倒リスクにさらされる

こうした「時間感覚のズレ」が、行動のタイミングを狂わせ、転倒に繋がってしまいます。【2】

「いつも通り」が崩れた時に起こる混乱と転倒

「いつもの動線」が変わることによる戸惑い

認知症のある方にとって「トイレの場所が変わる」「寝る場所が変わる」といった些細な変化は、大きな混乱を引き起こします。

記憶や空間認知機能が低下しているため、かつての「身体が覚えている習慣」に頼って動こうとし、結果的に見当違いの方向へ進んだり、物の配置を見誤っていつも通りの動きを取ってしまい転倒することもあります。【3】

「やるべきことがない」生活がもたらす活動性の低下

習慣的に庭掃除や新聞取りなどをしていた方が、施設入居などで急に“役割”を失うと、生活に張りがなくなり、活動量が低下します。

活動量の低下は筋力低下・バランス低下を招き、転倒しやすい身体状態をつくってしまいます。【4】

つまり、生活リズムや長年の習慣が崩れることで、次のような変化が起こります。

✔ 判断力や注意力が低下する
✔ 活動量が減り、筋力やバランス能力が低下する
✔ 行動するタイミングが変わり、転びやすい時間帯や状況が増える

こうした変化が重なり合うことで、認知症のある方の転倒リスクは高まっていくのです。

【事例】“昔の時間感覚”で起きた転倒

80代女性・要介護2・認知症中等度
昔から朝5時に起きて農作業していた生活習慣があり、施設でも早朝に起きて活動しようとする。
しかし、スタッフ2人での見守り体制は7時から。
1人で居室から出ようとしたが、足元のカーペットに微妙な段差があり、それに躓いて転倒。手首を骨折。

→家族には「母は昔から早起きでした」と情報があったが、施設職員には共有されていなかった。生活リズムに配慮した個別対応ができれば、防げた可能性が高い。

家族と介護職で分かれやすい「生活リズム」の視点

家族の視点:「その人の昔の生活リズム」を知っている

  • 「父は、夕食後すぐにお風呂に入る人だった」
  • 「祖母は、朝食後すぐにトイレに行くのが習慣だった」

こうした情報は、本人の行動の“予測”につながります。


しかし、施設や通所などのケア現場では、残念ながら、それら有益な情報を忙しさなどから十分に共有されず、

「入居後の様子を見ながら把握していこう」

となることも少なくありません。

介護職の視点:「現在の状態」からリズムを再構築しようとする

介護現場では「安全性」や「他の利用者との調和」も重視されるため“その人らしさ”よりも“標準的なリズム”への誘導が優先されがちです。

→このギャップが、本人の違和感や混乱を引き起こし、行動異常や転倒につながるリスクになります。【5】

家族介護職
昔からの生活を知っている現在の状態を観察する
習慣を知っている安全を考える
長年の役割を知っている現在の能力を見る

この両方がそろうことで、その人らしい生活が実現できます。

転倒を防ぐためにできること

1. 生活歴と習慣の「聞き取り・記録・共有」

  • 家族から、過去の生活パターンを丁寧に聞き取る
  • 「起床・排泄・入浴・食事・活動・就寝」などのリズムを可視化する
  • ケアスタッフ間で共有し、個別支援計画に反映する【6】

2. 習慣を活かした転倒予防

  • 早起きが習慣の人には、早朝にも安全に動ける環境を整える(ナイトライト、見守り体制など)
  • 排泄の習慣に合わせたタイミングでトイレ誘導を行う
  • 昔の生活リズムを活かした“役割”や“活動”を生活に組み込む(新聞配り、ごみ捨て同行など)

3. 日課・リズムの再構築支援(ただし押しつけない)

  • 生活が無秩序であっても、まずは「起床・食事・排泄・活動・休憩・就寝」の流れをつくる
  • 本人の好みや体調に合わせたリズムを整える(例:午前は活動的だが午後はウトウトする人には、午前に散歩・午後は静養など)

おわりに:その人の「時間のリズム」を尊重するという視点

認知症ケアにおいて「生活リズムを整えること」は、単に“規則正しい生活”を押しつけることではありません。

本人が長年培ってきた「時間の感覚」や「生活習慣」を尊重し、それを土台に安全な環境やケア体制をつくることこそが、転倒予防にも繋がるのです。

家族が持っている“生活の記憶”と、介護職が持つ“現在の支援スキル”とが協働してこそ、
その人にとって安心で安全な生活が成り立ちます。

生活リズムを知ることは、その方の”転ばない暮らし”を守るための第一歩です。

認知症のある方が「いつも通り」でいられるように。
その積み重ねが、転倒を防ぎ「その人らしい暮らし」を支えていくのです。

家族と介護職が一緒に考える「その人らしい暮らし」の守り方――この記事が、それを考えるきっかけとなれれば幸いです。

転倒予防とは、その人や環境を変えることにこだわるのではなく、

その人らしい生活を理解することから始まります。

【次回予告】

生活リズムを整え、その方らしい暮らしを大切にしていても、転倒を100%防ぐことはできません。

認知症のある方の転倒は、身体機能や認知機能、環境、病気など、さまざまな要因が複雑に重なって起こるためです。

次回は「事故をゼロにできない」という現実と、介護職やご家族がどのような考え方で転倒リスクと向き合っていけばよいのかについて、現場の視点を交えながら分かりやすくお伝えします。

事故をなくすことだけを目標にするのではなく、その方らしい暮らしと安全のバランスを考えることも、認知症ケアでは大切な視点です。


転倒の原因は“ひとつ”ではありません

認知症の方の転倒は、生活リズムだけが原因で起こるわけではありません。

身体機能や認知機能、行動・心理症状(BPSD)、環境、そして生活リズムなど、さまざまな要因が重なり合って起こります。

「転倒の原因を全体像から理解したい」という方は、こちらの記事もぜひご覧ください。

👉 【転倒はなぜ起きる? 11の原因と予防をまとめて解説】

“事故の前”に気づく視点を持つために

生活リズムの乱れは、ある日突然起こるものではありません。

「以前より昼寝が増えた」「夜中に目が覚めることが多くなった」「活動量が減った」「生活習慣が少し変わってきた」──
こうした日々の小さな変化が、転倒リスクの高まりを知らせるサインになっていることがあります。

日常の変化に早く気づき、その方に合った支援へつなげることが、転倒予防には欠かせません。

👉 【ヒヤリハットの活かし方】
👉 【介護現場の“当たり前”に潜む危険性】


参考文献・出典

【1】Satlin A, Volicer L, Ross V, Herz L, Campbell S. Sleep abnormalities in Alzheimer’s disease: A comparison to normal aging. Psychiatry Res. 1995;57(2):171-179
【2】Hale L, Gordon S, Kaplan KA. Sleep and circadian rhythm disruption in Alzheimer’s disease and related dementias. Neurobiol Sleep Circadian Rhythms. 2019;7:100056
【3】日本老年医学会. 高齢者の転倒予防ガイドライン. 2019年
【4】岡田靖, 中西正子. 高齢者の活動性低下が転倒に及ぼす影響. 理学療法科学. 2010;25(2):255-260
【5】大川一郎. 認知症ケアにおける生活支援の個別化と集団性のバランス. 老年精神医学雑誌. 2016;27(9):1005-1012
【6】厚生労働省. 認知症介護実践研修テキスト. 2021年改訂版

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詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!

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