※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
バリデーションは、認知症の方の言葉を単に肯定するのではなく、その言葉の背景にある感情や思いを理解し、受け止めようとするケアです。
この記事では、事実を正すことよりも本人が感じている世界を理解することの大切さや、具体的な実践方法、関わる際の注意点について解説します。
【要点】
- バリデーションは、認知症の方の感情や思いを理解するケア
事実を正すことよりも、本人が感じている世界や言葉の背景にある感情を大切にする、バリデーションの基本理念を解説します。 - 帰宅願望や物盗られ妄想など、具体的な場面での実践方法を紹介
否定や訂正を急がずに話を聴くこと、感情を受け止める声かけ、表情や態度から思いを読み取ることなど、日常の介護で活用できる関わり方を紹介します。 - 感情の尊重と、事実確認・安全確保を両立する視点が分かる
バリデーションと嘘の違い、本人の感情を決めつけないための注意点、BPSDへの効果と科学的根拠の限界など、安心と尊厳を守るために必要な考え方を解説します。
【この記事で分かること】
・バリデーションとは何か、認知症ケアで感情を受け止めることが大切な理由
・帰宅願望や物盗られ妄想など、具体的な場面での実践方法と注意点
・バリデーションと嘘の違いや、パーソンセンタードケア・ユマニチュードとの関係
家族介護・介護職のどちらでも、認知症の方の言葉の背景にある思いを理解し、安心と尊厳を大切にした関わり方を考えられる内容です。
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
はじめに|事実を正すことよりも、その人が感じている世界を理解する
認知症の方と関わっていると、事実とは異なることを話されたり、同じことを何度も訴えられたりする場面があります。
「家に帰らなければいけない」
「財布を誰かに盗まれた」
「お母さんが迎えに来るから、ここで待っている」
そのような言葉に対して、私たちはどのように対応すればよいのでしょうか。
「ここが今のお住まいですよ」
「財布は誰も盗んでいませんよ」
「お母さんはもう亡くなっていますよ」
こうした説明は、客観的な事実として間違っていないかもしれません。
しかし、正しいことを伝えているにもかかわらず、ご本人が納得できなかったり、かえって不安や怒りを強めてしまったりすることもあります。
それはなぜなのでしょうか。
もしかすると、私たちは相手の言葉が正しいかどうかに意識を向けるあまり、その言葉の背景にある感情を十分に理解できていないのかもしれません。
そこで知っておきたいのが「バリデーション」という認知症ケアの考え方です。
バリデーションは、認知症の方が表現する感情を否定せず、その人が感じている世界を理解しようとするコミュニケーションの方法です。
この記事では、バリデーションの基本的な考え方や具体的な実践方法、注意点について解説します。
また、パーソンセンタードケアやユマニチュードとの関係にも触れながら、認知症の方の尊厳を守る関わり方について考えていきます。
バリデーションとは何か?
バリデーションの意味と成り立ち
バリデーション(Validation)は、英語で「確認」「承認」「妥当性を認めること」などを意味する言葉です。
認知症ケアにおけるバリデーションは、アメリカのソーシャルワーカーであるナオミ・フェイル(Naomi Feil)によって発展させられたコミュニケーション方法です。
フェイルは、高齢者との長年の関わりを通して、見当識が不確かになった方の言葉や行動には、その人なりの意味や感情があると考えました。
そして、相手の発言を単に訂正するのではなく、その人が表現している感情を認め、尊重することを重視しました。
例えば、認知症の方が「母親が迎えに来る」と話している場面を考えてみましょう。
実際には、その方の母親は何十年も前に亡くなっているかもしれません。
しかし、ご本人にとっては、母親が生きていた頃の記憶が強く意識されていたり、母親に会いたいという気持ちが存在していたりする可能性があります。
そこで、すぐに「お母さんはもう亡くなっていますよ」と訂正するのではなく、
「お母さんのことが気になるんですね」
「お母さんはどんな方だったんですか?」
といった関わりを通して、本人の気持ちや思い出を理解しようとします。
ただし、これは「母親が迎えに来る」という話を事実として肯定することではありません。
本人が感じている感情を、本人にとって意味のあるものとして受け止めることが重要なのです。
出典:Validation Training Institute「About VTI」
Validation Training Institute「What is Validation?」
バリデーションは、単に話を合わせることではない
ここで誤解しないようにしたいのは、バリデーションは「相手の話を何でも肯定する方法」ではないということです。
例えば、
「財布を盗まれた」
という訴えに対して、
「そうですね。誰かが盗んだんですね」
と答えることが、必ずしも適切な対応とは限りません。
実際には盗難が起きていない場合、その言葉によって本人の疑いを強めてしまう可能性もあります。
一方で、
「盗まれてなんかいませんよ」
と頭ごなしに否定することも、本人の不安を強める場合があります。
大切なのは、財布が盗まれたかどうかという事実と、財布が見つからず不安になっているという感情を分けて考えることです。
「大切なお財布が見つからなくて、心配なんですね」
「一緒に探してみましょうか」
このように、事実を決めつけず、本人の感情を受け止めながら必要な支援につなげることができます。
なぜ認知症ケアにバリデーションが必要なのか?
認知症の方と介護者では、認識している現実が異なることがある
認知症になると、記憶障害や見当識障害などによって、現在の状況を正確に把握することが難しくなる場合があります。
例えば、グループホームで暮らしている方が、自分はまだ若く、子育てをしていた頃の感覚で生活していることがあります。
そのような方が夕方になると、
「子どもたちのご飯を作らなければいけない」
「早く家に帰らないと」
と訴えることがあります。
介護者から見れば、その方のお子さんはすでに成人し、家庭を持っているかもしれません。
しかし、ご本人にとっては、子どもたちの世話をしていた頃の記憶や、母親としての役割が強く意識されている可能性があります。
そのような場面で、
「もう子どもさんは大人ですよ」
「今は施設で暮らしているんですよ」
と説明しても、本人が納得できるとは限りません。
それどころか、自分が大切にしてきた役割を否定されたように感じる場合もあるでしょう。
正しい説明が、必ずしも安心につながるとは限らない
私たちは普段、相手が何かを誤解していると感じたとき、その誤解を解こうとします。
それ自体は自然な行動です。
しかし、認知症の方に対しては、事実を説明することが必ずしも安心につながるとは限りません。
なぜなら、本人と介護者で、記憶や時間の認識が異なる状態では、
介護者が説明する事実そのものを理解したり、受け入れたりすることが難しい場合があるからです。
そして、本人が強い不安を感じているときには、
説明の正しさよりも、まず安心できる相手がいることの方が重要になる場合もあります。
ここで考えたいのは、
「正しい説明をすること」と「相手が安心できること」は、必ずしも同じではないという点です。
もちろん、事実を説明することが必要な場面もあります。
大切なのは、説明すること自体を目的にせず、本人の理解や気持ちに合わせて関わり方を選ぶことなのです。
言葉の背景にある感情や欲求を考える
「家に帰りたい」という言葉には、さまざまな意味が含まれている可能性があります。
例えば、
- 家族に会いたい
- 慣れ親しんだ場所で安心したい
- 自分の役割を果たしたい
- 今いる場所がよく分からず、不安を感じている
- 何となく落ち着かず、ここから離れたい
といった気持ちです。
しかし、必ずしもこのような感情が隠れているとは限りません。
本当に自宅に帰りたいという希望を持っている場合もありますし、今の環境に不満がある場合もあります。
だからこそ、介護者が勝手に意味を決めつけるのではなく、本人の言葉や表情、生活歴などを手がかりに理解を深めていく必要があります。
出典:Validation Training Institute「What is Validation?」
バリデーションを実践するための基本的な姿勢
バリデーションには、相手の言葉を繰り返すことや、感情を言葉にすること、非言語的な表現を活用することなど、さまざまな技法があります。
ここでは、その考え方を日常の介護に取り入れる際に意識したいポイントを紹介します。
なお、以下はバリデーションの考え方を踏まえた実践例であり、正式な技法体系のすべてを紹介するものではありません。
① 否定や訂正を急がず、まず話を聴く
認知症の方が事実とは異なる話をしたとき、すぐに訂正するのではなく、まず何を伝えようとしているのかに耳を傾けます。
「帰りたい」
という言葉に対して、
「帰りたいんですね」
と受け止めることから始めてもよいでしょう。
相手の言葉を繰り返すことで、本人がさらに気持ちを話してくれる場合もあります。
ただし、機械的に同じ言葉を繰り返すだけでは、十分な関わりとはいえません。
大切なのは、その言葉に込められた意味を理解しようとする姿勢です。
② 感情を言葉にしてみる
本人の表情や話し方から、不安や悲しみなどの感情が感じられる場合には、その気持ちを言葉にしてみる方法もあります。
例えば、
「お財布がなくなって、心配なんですね」
「お家のことが気になっているんですね」
といった声かけです。
ただし、
「寂しいんでしょう?」
「不安だから帰りたいんですよね?」
などと決めつけることは避けたいところです。
本人がそのように感じているとは限らないため、反応を確かめながら関わることが大切です。
③ 表情や声の調子にも目を向ける
認知症が進行すると、自分の気持ちを言葉で十分に説明することが難しくなる場合があります。
そのようなときには、表情や声の調子、身体の動きなども重要な手がかりになります。
例えば、同じ「帰りたい」という言葉でも、怒ったように話す方と、泣きそうな表情で話す方では、感じていることが異なるかもしれません。
介護者自身も、穏やかな声の調子や落ち着いた姿勢を意識することで、安心できる関係を築きやすくなる可能性があります。
④ 本人のペースを大切にする
認知症の方が話している途中で言葉に詰まったり、同じ話を繰り返したりすることがあります。
そのようなときに、介護者が先回りして話を終わらせてしまうと、本人が十分に気持ちを表現できないことがあります。
時間に追われる介護現場では簡単ではないかもしれませんが、可能な範囲で本人のペースを尊重することも大切です。
また、本人が話したくないときには、無理に気持ちを聞き出す必要もありません。
出典:Validation Training Institute「What is Validation?」
具体例から考えるバリデーション
ここでは、認知症ケアの現場でよく見られる場面を例に考えてみます。
事例①「家に帰りたい」と繰り返す方
夕方になると、何度も「家に帰りたい」と訴える方がいます。
職員が「ここがお住まいですよ」と説明しても、しばらくすると再び同じ訴えが始まります。
このような場面では、まず帰りたいという気持ちを受け止めてみます。
「お家に帰りたいんですね」
「お家では、いつも夕方に何をされていたんですか?」
すると、本人が昔の生活について話し始めるかもしれません。
「子どもたちの夕飯を作っていた」
「主人が帰ってくるから、準備しないといけない」
そのような話が聞けたなら、帰宅願望の背景に、かつての生活や役割が関係している可能性が見えてきます。
もちろん、必ずしもそうとは限りません。
現在の生活環境が落ち着かない、誰かに会いたい、身体的な不快感があるなど、別の理由も考えられます。
大切なのは「帰れません」と説明して終わらせるのではなく、
その方が何を求めているのかを考え続けることです。
事例②「財布を盗まれた」と訴える方
「誰かが財布を盗んだ」
と強い口調で訴える方がいます。
このような場面では、職員も疑われたことに戸惑ったり、傷ついたりすることがあるでしょう。
しかし、本人にとっては、大切な財布が見つからず、強い不安を感じているのかもしれません。
そこで、
「お財布が見当たらなくて、心配なんですね」
「最後に使った場所を一緒に探してみましょうか」
といった関わりが考えられます。
ここで重要なのは、盗難があったと決めつけないことです。
また、実際に紛失や盗難が起きている可能性も否定せず、必要な確認を行います。
本人の感情を受け止めることと、事実関係を確認することは両立できるのです。
事例③「母親が迎えに来る」と話す方
高齢の認知症の方が、
「母が迎えに来るから、ここで待っている」
と話している場面です。
このとき、すぐに母親が亡くなっている事実を伝えることが、本人にとって望ましいとは限りません。
一方で、
「もうすぐ迎えに来ますよ」
と根拠のない約束をすることにも問題があります。
そのような場面では、
「お母さんを待っていらっしゃるんですね」
「どんなお母さんだったんですか?」
などと話を広げることができます。
本人が母親との思い出を楽しそうに話すかもしれませんし、寂しさや不安を表現するかもしれません。
ただし、母親について聞かれること自体がつらい方もいるでしょう。
本人の反応を見ながら、話題を続けるかどうかを判断する必要があります。
事例④「ご飯を食べていない」と訴える方
食事を終えたばかりなのに、
「今日はまだ何も食べていない」
と話す方がいます。
介護者としては、
「さっき食べましたよ」
と説明したくなるかもしれません。
しかし、本人が食事をしたことを覚えていなければ、その説明を理解することが難しい場合があります。
そこで、
「まだ食べていないと思われるんですね」
「お腹は空いていますか?」
と、本人の感覚を確認することが考えられます。
本当に空腹を感じているのか、食事の記憶がないことへの戸惑いなのか、あるいは別の理由があるのかを考えます。
必要に応じて、食事摂取量や健康状態を確認し、追加の飲食が適切かどうかを判断します。
単に話を合わせるのではなく、本人の感覚を尊重しながら、現実的な支援につなげることが大切です。
バリデーションで注意したいこと
感情を受け止めることと、嘘をつくことは違う
バリデーションを実践するうえで、特に考えておきたいのが「嘘」との関係です。
認知症ケアでは、本人を安心させるために、事実とは異なる説明をすることがあるかもしれません。
しかし、バリデーションは、嘘をつくことを前提とした方法ではありません。
本人の感情を尊重するために、必ずしも事実ではない話を肯定する必要はないのです。
例えば、
「母親が迎えに来る」
という話に対して、
「お母さんに会いたいんですね」
と受け止めることは、母親が実際に迎えに来ると約束することとは違います。
この違いは、認知症の方の尊厳を考えるうえでも重要です。
相手の言葉を事実として認めることと、その言葉に込められた感情を受け止めることは、別のことなのです。
相手の気持ちを大切にしながら、誠実に関わる方法を探していく必要があります。
本人の感情を決めつけない
バリデーションでは、言葉の背景にある感情を理解しようとします。
しかし、介護者が本人の気持ちを勝手に決めつけてしまっては、本来の目的から離れてしまいます。
例えば「家に帰りたい」という方に対して、
「寂しいから帰りたいんですね」
と決めつけることです。
本人は寂しいのではなく、今の場所が落ち着かないのかもしれません。
あるいは、家族のことが心配なのかもしれません。
本人の生活歴やこれまでの言動は重要な手がかりになりますが、それだけで感情を断定することはできません。
「理解したつもり」にならず、本人の反応を確かめながら関わる姿勢が大切です。
感情を受け止めるだけで終わらせない
本人の不安を受け止めることは重要ですが、それだけですべての問題が解決するわけではありません。
例えば、財布が見つからず困っている方には、実際に財布を探す支援が必要です。
身体の痛みや不快感が原因で落ち着かない方には、健康状態の確認や適切な対応が必要になります。
また、環境に不安を感じているのであれば、生活環境を見直すことも大切でしょう。
つまり、バリデーションは問題を解決するための唯一の方法ではなく、本人の思いや困りごとを理解し、適切な支援につなげるための一つの方法と考えたいところです。
安全や健康に関わる場面では、別の対応も必要になる
認知症の方の気持ちを尊重することは大切ですが、安全や健康に関わる場面では、それだけでは十分ではありません。
例えば、転倒の危険が高い場所へ向かおうとしている方や、身体の不調が疑われる方には、状況に応じた安全確保や医療的な判断が必要です。
また、突然の混乱や興奮が見られる場合には、せん妄や感染症、痛み、薬の影響なども考慮する必要があります。
感情を受け止めることと、客観的なアセスメントを行うことは、どちらも欠かせない視点なのです。
バリデーションによってBPSDは軽減するのか?
バリデーションを取り入れることで、認知症の方の不安や怒りが和らぐことはあるのでしょうか。
認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)には、不安や興奮、怒りっぽさなどがあります。
また、帰宅願望として表れる訴えにも、認知機能の変化や心理的な不安などが関係している場合があります。
これらの症状には、認知機能の変化だけでなく、身体的な不調や生活環境、人間関係など、多くの要因が関係します。
本人が、自分の気持ちを理解してもらえないと感じることが、不安や混乱につながる場合もあるでしょう。
そのため、感情を受け止める関わりが、安心につながる可能性は十分に考えられます。
一方で、バリデーションの効果については、科学的な根拠を慎重に捉える必要があります。
認知症の方を対象とした研究では、一部の行動面や抑うつ状態について改善が報告されています。
しかし、研究の規模が小さく、結果にもばらつきがあるため、バリデーションによってBPSDが確実に改善するとまでは結論づけられていません。
したがって、バリデーションを万能な治療法として捉えることは適切ではありません。
大切なのは、特定の技法を実施すること自体を目的にするのではなく、本人の安心や生活の質につながっているかを確かめながら、関わり方を考えていくことです。
出典:Nealら「Validation therapy for dementia」
Agency for Healthcare Research and Quality「A Systematic Evidence Review of Non-pharmacological Interventions for Behavioral Symptoms of Dementia」
パーソンセンタードケアやユマニチュードとの違い
認知症ケアには、バリデーション以外にも、その人らしさや尊厳を大切にする考え方があります。
代表的なものが、パーソンセンタードケアとユマニチュードです。
これらは共通する部分もありますが、それぞれ異なる特徴を持っています。
パーソンセンタードケアとの関係
パーソンセンタードケアは、認知症の方を単に症状や障害によって捉えるのではなく、一人の人間として尊重し、その人の生活歴や価値観、希望などを大切にする考え方です。
例えば、帰宅願望がある方について、単に「帰りたいという症状がある」と考えるのではなく、その方がこれまでどのような生活を送り、何を大切にしてきたのかを理解しようとします。
一方、バリデーションは、本人が表現する感情や、その背景にある意味を理解することを重視します。
パーソンセンタードケアが生活全体を支える理念であるのに対し、バリデーションは、主にコミュニケーションを通して本人の感情を尊重する方法と整理できます。
ただし、両者は対立するものではありません。
バリデーションの考え方を取り入れることが、パーソンセンタードケアの実践にもつながるのです。
ユマニチュードとの関係
ユマニチュードは「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの柱を基本とする、ケアの哲学とコミュニケーション技術を組み合わせた方法です。
認知症の方に対して、介護者が『私はあなたを大切に思っていますよ』ということを、相手に伝わる形で表現することを重視します。
例えば、穏やかな声で話しかけたり、相手の視線の高さに合わせたり、安心できる触れ方を意識したりすることです。
バリデーションが本人の感情や表現の意味を理解することを重視するのに対し、ユマニチュードは、言葉だけでなく身体的な関わりも含めて、良好な関係性を築くための具体的な技術を体系化しています。
もちろん、バリデーションにも非言語的な技法がありますし、ユマニチュードも単なる身体的な介助技術ではありません。
それぞれの特徴を理解し、本人の状態や希望に合わせて活用することが大切です。
3つの考え方は、互いに補い合うもの
パーソンセンタードケア、バリデーション、ユマニチュードは、それぞれ異なる歴史や方法を持っています。
しかし、いずれも認知症の方を一人の人間として尊重し、その人との関係性を大切にする点で共通しています。
それぞれの特徴を簡単に整理すると、次のようになります。
| ケアの考え方 | 主に重視する視点 |
|---|---|
| パーソンセンタードケア | その人を一人の人間として尊重するケアの理念 |
| バリデーション | 本人が表現する感情や、その背景にある意味を理解する |
| ユマニチュード | 見る・話す・触れる・立つことなどを通じて関係性を築く |
例えば、認知症の方が「家に帰りたい」と訴えた場合、
パーソンセンタードケアの視点から、その方の生活歴や価値観を理解する。
バリデーションの視点から、言葉の背景にある感情を理解し、受け止めようとする。
ユマニチュードの技術を参考に、視線や声のかけ方、触れ方などを工夫する。
もちろん、これは理解しやすくするための整理であり、3つのアプローチの役割が完全に分かれているわけではありません。
大切なのは、どれか一つの考え方だけが正しいと捉えるのではなく、それぞれの特徴を理解し、本人の状態や希望に応じて関わり方を考えることです。
その人自身を理解し、感情を受け止め、安心できる関係性を築く。
これらの視点を組み合わせることで、より本人に合った認知症ケアにつなげることができるのではないでしょうか。
出典:Tom Kitwood「Dementia Reconsidered: The Person Comes First」
国境なきユマニチュード推進本部「ユマニチュードとは」
バリデーションは、介護者自身の関わり方を見直すきっかけにもなる
認知症ケアの現場では、介護者が「正しいことを伝えなければならない」と考えてしまう場面があります。
しかし、何度説明しても理解してもらえない状況が続けば、介護者自身も疲弊してしまうかもしれません。
「さっきも説明したのに」
「どうして分かってもらえないのだろう」
そう感じることは、決して珍しいことではないでしょう。
ここで、少し視点を変えてみます。
認知症の方が話している内容を正すことではなく、その方が何を感じているのかを理解することに目を向けたら、どうでしょうか。
「家に帰れないことを理解してもらう」
という目標から、
「なぜ帰りたいと思っているのかを理解する」
という目標へ変わります。
すると、介護者ができることも変わってくるかもしれません。
本人の話を聴くこと、思い出を共有すること、不安の原因を探すこと、生活環境を整えること。
それまで見えていなかった支援の方法が見つかる可能性があります。
ただし、バリデーションを学べば、すべての対応が簡単になるわけではありません。
本人の感情を理解しようとしても、うまくいかないことはあります。
また、忙しい介護現場では、一人ひとりに十分な時間をかけることが難しい場合もあるでしょう。
だからこそ、介護者個人の努力だけに任せるのではなく、チームで本人の思いや生活歴を共有し、関わり方を考えていくことも重要です。
相手を理解しようとする姿勢は、本人のためだけでなく、介護者自身がケアの意味を見つめ直すことにもつながるのではないでしょうか。
まとめ:正しいことを伝える前に、その人を理解しようとすること
認知症の方が話していることが、客観的な事実と異なる場合があります。
そのようなとき、私たちはつい、正しいことを説明しようとしてしまいます。
しかし、本人が求めているものは、必ずしも正しい説明とは限りません。
不安を分かってほしい。
寂しさを受け止めてほしい。
大切にしてきた役割や思い出を、誰かに理解してほしい。
そのような気持ちが、言葉の背景に存在しているかもしれません。
バリデーションは、相手の言葉を無条件に肯定することでも、事実と異なる話に合わせ続けることでもありません。
その人が何を感じ、何を伝えようとしているのかを理解しようとすることです。
そして、その理解を実際のケアにつなげていくことが大切なのだと思います。
「その人の言葉が正しいかどうか」だけではなく「その人にとって、その言葉にはどのような意味があるのか」。
認知症ケアにおいて、私たちが忘れずに持っていたい視点の一つではないでしょうか。
参考文献・出典
この記事では、以下の資料・研究などを参考に、認知症介護の現場での視点を加えて解説しています。
- Validation Training Institute「About VTI」
― ナオミ・フェイルによるバリデーションの発展と、その基本的な考え方について。 - Validation Training Institute「What is Validation?」
― バリデーションの基本理念や、本人の感情を尊重する姿勢、言語・非言語によるコミュニケーション技法について。 - Nealら「Validation therapy for dementia」(2003年)
― 認知症に対するバリデーションの効果を検討したシステマティックレビュー。研究の限界と科学的根拠について。 - Agency for Healthcare Research and Quality「A Systematic Evidence Review of Non-pharmacological Interventions for Behavioral Symptoms of Dementia」
― 認知症の行動・心理症状に対する非薬物的介入の研究結果と、バリデーションの有効性に関する評価について。 - Tom Kitwood「Dementia Reconsidered: The Person Comes First」(1997年)
― パーソンセンタードケアの基礎となる考え方や、認知症の症状だけでなく、その人自身の人格や尊厳を尊重するケアの理念について。 - 国境なきユマニチュード推進本部「ユマニチュードとは」
― ユマニチュードの基本理念と「見る・話す・触れる・立つ」の4つの柱について。
※記事中の事例や声かけは、実践方法を理解しやすくするための例示です。すべての認知症の方に同じ対応が適しているわけではありません。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。
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