※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
「介護は力仕事」という思い込みは、腰痛や事故の原因になります。
本来の介助は、スライド・回転・重心移動といった体の動きを活かすことで、少ない力で安全に行うことができます。
この記事では「持ち上げない介助」の考え方と実践方法、そして現場で活かすための視点を解説します。
【要点】
- 介助の負担は“力”ではなく“やり方”で変わる
スライド・回転・重心移動といった体の動きを活かすことで、少ない力で安全に介助できる理由が分かります。 - 移乗・体位変換を持ち上げずに行う具体的な方法が分かる
シーツを使ったスライドや回旋、重心移動を使った立ち上がり・移乗など、現場ですぐに使える実践的な技術を解説します。 - 安全と負担軽減を両立するための判断の視点が分かる
「持ち上げないこと」にこだわりすぎず、状況に応じて支える・誘導するなど、現場で迷わないための考え方が身につきます。
【この記事で分かること】
・「持ち上げない介助」の基本的な考え方(スライド・回転・重心移動)
・移乗や体位変換を少ない力で行う具体的な方法
・腰痛や転倒リスクを減らすための介助の工夫と判断の視点
介護職・家族介護のどちらでも、無理なく安全に行える移動介助のポイントがすぐに実践できる内容です。
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
はじめに
介護の仕事は「力仕事」だと思われがちです。
実際、介護を始めたばかりの頃は、
利用者を抱え上げるような介助をしてしまう人も少なくありません。
- ベッドから車いすへの移乗
- 起き上がり
- 体位変換
こうした場面で、腕の力だけで持ち上げてしまうと
- 腰痛
- 介助者の疲労
- 利用者の不安定な動き
につながります。
介護は本当に力仕事なのか?
しかし、経験を積んだ職員ほど、驚くほど少ない力で介助しています。
その理由はシンプルです。
介護は「持ち上げる仕事」ではないからです。
介護で大切なのは
- スライド
- 回転
- 重心移動
という、人の体の自然な動きを利用することです。
この記事では
持ち上げない介助の基本的な考え方を解説します。
介護は持ち上げる仕事ではない
まず大切な前提があります。
それは『人は持ち上げるものではない』ということです。
なぜなら、人の体は
- 重い
- 不安定
- 動く
からです。
例えば体重60kgの方を腕で持ち上げると、
介助者の腰には大きな負担がかかります。
実際、介護職員の多くが
- 腰痛
- 慢性的な疲労
- 身体の痛み
を経験しています。
その負担は「やり方」の問題かもしれない
しかしこれは、介助方法の問題であることが多いのです。
介助では、持ち上げるのではなく、動きを誘導するという発想が重要です。
その基本になるのが
- スライド
- 回転
- 重心移動
です。
スライド(滑らせる)
スライドとは
体を持ち上げずに滑らせる動き
です。
これは体位変換や移動でよく使われます。
例えばベッド上での体位変換。
体を持ち上げようとすると
- 腰を痛める
- 利用者が不安定になる
可能性があります。
しかし、シーツを利用して滑らせると
少ない力で動かすことができます。
シーツを使ったスライド
ベッド上では、シーツを活用します。
例えば
- 膝を軽く曲げる
- 骨盤に手を添える
- シーツごと滑らせる
すると、持ち上げることなく体を移動できます。
これだけでも
介助の負担は大きく変わります。
スライディングシート
さらに便利なのが
スライディングシート
です。
これは摩擦を減らすシートで、
体を滑らせやすくする福祉用具です。
例えば
- ベッド上の体位変換
- ベッドの中央への移動
などに使います。
小さな道具ですが、
介助者の腰を守る大きな助けになります。
回転(体の回旋)
人の体は、回転することで動きやすくなります。
これを利用したのが、回旋を使う介助です。
横向き
体位変換では、まず横向きにします。
このとき
- 肩
- 骨盤
を少し回転させるだけで、体は自然に横を向きます。
無理に持ち上げる必要はありません。
起き上がり
起き上がりも同じです。
よくあるNGは『上に引っ張る介助』です。
しかし、人は本来
横向き→起き上がり
という動きをします。
例えば
- 横向きになる
- 下の腕で押す
- 足をベッドから下ろす
この流れを作ると、
自然に起き上がることができます。
重心移動
立ち上がりや移乗では
重心移動
が重要になります。
人は、重心が前に移動すると立ち上がる、という性質があります。
つまり『持ち上げる必要はない』のです。
立ち上がり介助
立ち上がりでは
- 足を引く
- 上体を前に倒す
この2つが大切です。
重心が前に移動すると、自然に立ち上がる力が生まれます。
ここで介助者は
軽く支えるだけ
で済みます。
移乗介助
ベッドから車いすへの移乗も
基本は同じです。
流れは
- 足を床につける
- 重心を前へ
- 回転する
この動きで
立ち上がり → 回転 → 着座
がスムーズになります。
福祉用具を活用する
持ち上げない介助では
福祉用具の活用も重要です。
代表的なものを紹介します。
スライディングシート
摩擦を減らし、
体を滑らせやすくするシートです。
体位変換やベッド移動で
非常に役立ちます。
スライディングボード
移乗時に使う板です。
ベッドと車いすの間に置き、
滑らせて移動します。
これにより
持ち上げる必要がなくなります。
リフト
持ち上げる機械ではありますが、
人が持ち上げる負担を減らす道具です。
特に
- 体格差が大きい場合
- 全介助の場合
には重要な選択肢です。
介護場面での実践
ここでは実際の介護場面で
持ち上げない介助を考えてみます。
移乗
移乗では
重心移動+回転
を使います。
流れは
- 足を引く
- 前傾する
- 立つ
- 回転する
この動きで
スムーズに移乗できます。
体位変換
体位変換では
回旋+スライド
を使います。
- 膝を曲げる
- 肩と骨盤を回す
- シーツでスライド
これだけで
少ない力で横向きにできます。
最初は、うまくできないのは当たり前
「分かってはいるけど、うまくできない」
そう感じる方も多いのではないでしょうか。
持ち上げない介助は、知識だけでなく「体の使い方」が関係するため、すぐに身につくものではありません。
最初は
・うまく力が抜けない
・タイミングが合わない
・逆にぎこちなくなる
と感じることもあります。
しかしそれは「できていない」のではなく、
新しいやり方に体が慣れていないだけです。
● 大切なのは「完璧を目指さないこと」
大切なのは、完璧にやろうとすることではなく、
「少しでも持ち上げないように意識すること」
です。
その積み重ねが、自然な動きにつながっていきます。
動きは「声かけ」で大きく変わる
持ち上げない介助を行う上で、もう一つ大切なのが「声かけ」です。
人は、ただ動かされるよりも
「自分で動こうとする」ことで、自然な動きが引き出されます。
例えば立ち上がりの場面では
・「少し前に体を倒してみましょうか」
・「足に力を入れてみましょう」
といった声かけをすることで、重心移動が自然に生まれます。
逆に、何も言わずに引き上げてしまうと
・体が固くなる
・動きがバラバラになる
・不安が強くなる
といったことが起こります。
つまり介助は、単なる「動作」ではなく
「身体と心の両方に働きかける関わり」なのです。
動きを引き出す視点を持つことで、
持ち上げない介助はよりスムーズに行えるようになります。
安全のために「持ち上げてしまう」場面もある
ここまで「持ち上げない介助」をお伝えしてきましたが、
現場ではどうしても持ち上げざるを得ない場面もあります。
例えば
・急なふらつき
・転倒しそうな瞬間
・強い拒否や不安がある場合
こうした状況では、まず優先すべきは「安全」です。
無理に理想の動きを当てはめようとすると、
かえって危険につながることもあります。
● 大切なのは「持ち上げないこと」ではない
大切なのは
「絶対に持ち上げない」ことではなく、
「できるだけ持ち上げない選択をする」ことです。
その場の状況や、その方の状態に合わせて
・支えるのか
・誘導するのか
・一時的に抱えるのか
を判断していくことが、実践的な介助です。
やってしまいがちな介助と改善のポイント
抱え上げる
新人がよくやるのが『抱え上げる介助』です。
これは
- 腰痛の原因
- 利用者の不安定
につながります。
代わりに
重心移動+回転
を使いましょう。
引っ張る
立ってもらう際に腕を引っ張る介助もよく見られます。
これは
- 肩関節の負担
- 転倒リスク
につながります。
代わりに
体幹を支える
ことが大切です。
セルフチェック
最後に、自分の介助をチェックしてみましょう。
次の項目について、考えてみてください。
□ 利用者を持ち上げていないか
□ 腕の力だけで介助していないか
□ 重心移動を使っているか
□ 回転を使っているか
□ 福祉用具を使っているか
もし「持ち上げている」と感じたら
介助方法を見直すサインかもしれません。
まとめ
介護は
持ち上げる仕事ではありません。
大切なのは
- スライド
- 回転
- 重心移動
という体の自然な動きを利用することです。
この考え方を身につけると
- 介助が楽になる
- 腰痛予防になる
- 利用者も安心する
というメリットがあります。
明日からできるたった一つの意識
もしこの記事を読んで「何か一つ変えてみよう」と思ったなら、
まずはこれだけ意識してみてください。
「今、自分は持ち上げようとしていないか?」
この一言を、介助の前に思い出すだけで構いません。
それだけで
・重心を見る
・回転を使う
・滑らせる
といった選択肢が自然と浮かんできます。
介助の質は、特別な技術だけで変わるものではありません。
こうした小さな意識の積み重ねが、
自分の体を守り、
利用者の安心につながり、
そして、ケアの質を高めていくのです。
介助は『力』ではなく『関わり方』で変わります。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。
詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!
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