※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
介護現場で思わず出てしまう「ダメ」という言葉は、ご利用者を守りたいという善意や責任感から生まれることが多くあります。しかし、その言葉はご利用者にとって「否定」や「制止」として受け取られてしまうこともあります。
この記事では、現場の葛藤や家族の思いにも触れながら、善意を否定するのではなく「言葉を磨くことでより伝わるケアへと変えていく視点」や具体的な考え方を解説します。
【要点】
- 「ダメ」と言ってしまう言葉の背景にある善意と葛藤が分かる
事故を防ぎたい、痛い思いをさせたくないという責任感や、現場の咄嗟の判断、家族の思いなど、「ダメ」という言葉の背景にある現場の葛藤を整理します。 - 「ダメ」という言葉がご利用者にどう受け取られるかが理解できる
職員の善意とは裏腹に、ご利用者にとっては否定や制止として受け取られてしまう可能性や、その積み重ねが意欲や安心感に与える影響について解説します。 - 善意を「伝わるケア」に変える言葉の工夫と専門的な視点が分かる
禁止ではなく共有する言葉の使い方や「肯定 → 理由 → 提案」の伝え方、善意の制止とスピーチロックの違いなど、現場で活かせるケアの視点を紹介します。
【この記事で分かること】
・介護現場で「ダメ」と言ってしまう言葉の背景にある、職員や家族の葛藤
・「ダメ」という言葉がご利用者にどのように受け取られるのかという視点
・善意からの制止と、不適切な制止(スピーチロック)の違い
・言葉を磨くことで、ご利用者により伝わるケアへと変える具体的な視点
介護職員だけでなく、ご家族にとっても「安全」と「その人らしさ」の両方を守る関わり方を考えるきっかけになる内容です。
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
はじめに
「ダメ」と言いたくて言っているわけじゃない
介護の現場で働いていれば、
思わず口から出てしまう言葉があります。
「ダメ」
「危ないから」
「座ってて」
その多くは、
ご利用者を否定したいからでも、
命令したいからでもありません。
- 転倒してほしくない
- 痛い思いをさせたくない
- 事故を起こしたくない
そんな善意と責任感から、
咄嗟に出てしまった言葉です。
この記事は、
その気持ちを否定するものではありません。
むしろ、
その優しさがあるからこそ、
言葉を少し磨くだけで、
ケアの質はもう一段上げられる
そのことに気づくための記事です。
なぜ、私たちは「ダメ」と言ってしまうのか
介護職員が「ダメ」と言ってしまう背景には、
いくつかの共通した心理があります。
①咄嗟の判断が求められる仕事だから
介護の現場では、
「考えてから動く」時間がない場面が多々あります。
立ち上がろうとする
→ 転倒の可能性
→ とっさに声が出る
この瞬間、
職員は経験と責任を総動員して判断しています。
言い換えを考える余裕がないのは、
決して怠慢ではありません。
②「事故を起こしたらいけない」という重圧
介護職員は常に、
- 自分の判断は正しかったか
- あの時止めていれば…
という責任を背負っています。
だからこそ、
- 動かさない方が安全
- 止める方が正しい
という思考に傾きやすくなります。
③経験が「先読み」になりすぎるとき
ベテランになればなるほど、
- この動きは危ない
- この先は転ぶ
と予測ができます。
しかしその予測が、
本人の今の思いを聞く前に制止する
という形で表れることもあります。
ご利用者にとっての「ダメ」は、どう聞こえるか
職員側の意図とは裏腹に、
ご利用者にとっての「ダメ」は、
全く違う意味を持つことがあります。
- 自分の行動を否定された
- 何も考えていないと思われた
- 怒られた
特に認知症のある方の場合、
言葉のニュアンスよりも
感情の温度が強く残ります。
「止められた理由」より
「否定された感覚」だけが残る。
これが積み重なると、
- 意欲の低下
- 不信感
- 落ち着かなさ
につながっていくこともあります。
介護の現場には、もう一つの葛藤がある
ここまで読むと、
「ダメと言うのは良くないことだ」と感じるかもしれません。
ですが、介護の現場は
それほど単純なものではありません。
例えば、ある日のことです。
食後、席を立とうとするご利用者がいました。
歩くことはできますが、
最近はふらつきがあり、転倒のリスクもあります。
その瞬間、職員の口から出た言葉は、
「ダメ、危ないですよ。座っていてください。」
というものでした。
● その言葉の背景にあるもの
その言葉だけを切り取れば、
ご利用者の行動を制止する言葉です。
しかし、その職員は
決してご利用者をコントロールしたかったわけではありません。
転んでほしくない。
痛い思いをしてほしくない。
その一心で、
咄嗟に出てしまった言葉だったのです。
家族にも、同じ葛藤がある
実は、この葛藤は、職員だけのものではありません。
ご家族にも、同じような思いがあります。
グループホームに入居するという決断は、簡単なものではありません。
「家で見られなくなってしまった」
「施設に入れることになってしまった」
そうした思いを抱えながらも、
ここなら、安心して暮らせるのでは
親らしく過ごしてほしい
と願っている方がほとんどです。
しかし一方で、
もし転倒してしまったら
骨折してしまったら
という不安もあります。
つまりご家族も、
自由に過ごしてほしい
と
事故は起こしてほしくない
という二つの思いの間で揺れています。
だからこそ、介護は難しい
介護の現場では、
- ご利用者
- 職員
- 家族
それぞれが、
守りたいもの
を抱えています。
だからこそ、
「ダメ」と言ってしまう言葉の背景には、
決して小さくない善意があります。
● しかし、その言葉が生む可能性
ですが同時に、
その言葉がご利用者にとって
否定
制止
拘束
として受け取られる可能性があることも事実です。
だからこそ私たちは、
善意を否定するのではなく、
善意をどう届けるか
を考える必要があります。
介護の現場には、
正しい言葉だけでは解決できない場面が、決して少なくはないのです。
「ダメ」と言ってしまう人は、本当に優しいのか
ここで、少しだけ考えてみたいことがあります。
ご利用者に対して
「ダメ」「危ない」「座っていてください」
そう言ってしまう職員は、
本当に“優しい人”なのでしょうか。
多くの場合、その言葉の背景には
転倒してほしくない
痛い思いをしてほしくない
事故を起こしたくない
という思いがあります。
つまりそこには、
確かに優しさがあります。
● しかしその優しさは、届きにくいことも
ですが同時に、
その優しさが
「動かない方が安全」
「止めてしまった方が安心」
という形で、
ご利用者の行動を制限してしまうこともあります。
介護の仕事は、
ただ優しいだけでは成り立ちません。
優しさを、どう届けるか。
その方法を考え続けることこそが、
介護という仕事の専門性なのではないでしょうか。
そこに優しさがあるのなら、
ぜひ、制止で終わらせないでください。
その優しさは、
言葉を磨くことで、もっと深く届くものになるはずです。
大切なのは「言わない」ことではない
ここで誤解してほしくないのは、
- 「ダメ」と言ってはいけない
- 制止してはいけない
という話ではありません。
安全を守ることは、
介護職員の大切な役割です。
問題は、
- どう止めるか
- 何を伝えるか
です。
優しさを“伝わる形”に変える考え方
①行動の前に「思いがある」と考える
ご利用者の行動には、必ず理由があります。
- トイレに行きたい
- 何かを探している
- 不安で動きたい
まずは
「なぜだろう?」
と一瞬考えるだけで、
言葉の選択肢が変わります。
②「禁止」ではなく「共有」にする
「ダメ」は、
行動を一方的に止める言葉です。
代わりに、
- 一緒にやりましょう
- 心配なので付き添いますね
- こちらの方が安心ですよ
と、気持ちを共有する言葉に変えることで、
同じ制止でも受け取られ方が変わります。
③肯定 → 理由 → 提案 の順番
とても使いやすい型があります。
- 気持ちを受け止める
- 心配な理由を伝える
- 別の行動を提案する
例)
「行きたいんですね。
ただ、今は足元が少し不安なので、
一緒に行きましょうか。」
具体的な言い換え例
| つい言ってしまう言葉 | 言い換えの例 |
|---|---|
| ちょっと待って! | ○分待っててもらえますか? |
| ダメ! | 危ないので、一緒にやりましょう |
| 座ってて! | ここで少し待ってもらえると助かります |
| 勝手に動かないで | 何かお手伝いしましょうか |
| やめて! | それだと心配なので、こちらにしましょう |
ポイントは
命令しない・否定しない・理由を添える
です。
チームで言葉を揃えるという視点
言葉遣いは、
個人の技術であると同時に、
チームの文化でもあります。
- あの人は優しい
- この人は怖い
ではなく、
ここは、安心できる
と思ってもらえる言葉選び。
チームで
- よく使うNGワード
- 言い換えフレーズ
を共有するだけでも、
現場は大きく変わります。
不適切な「ダメ」とは何か
ここまでお伝えしてきたのは、
善意から出てしまう「ダメ」についてです。
しかし、
同じ「ダメ」でも、
明確に不適切なものがあります。
不適切な「ダメ」とは
それは、
- 自分が対応したくないから
- 記録や調理などの業務を止めたくないから
- 面倒だから
という理由で、
ご利用者の行動を言葉で制限することです。
この場合、
- ご利用者の意図は確認されない
- 安全以外の理由が優先されている
- 行動の自由が奪われている
状態になります。
スピーチロックという『身体拘束』
言葉によって行動を制限することを
スピーチロックと呼びます。
これは、
- 身体拘束と同様
- もしくはそれに準ずる行為
と判断される可能性があります。
善意の制止と、
業務都合の制止は、
表面が同じでも中身は全く違います。
この線引きを曖昧にしないことは、専門職としてとても重要であると同時に、
特に管理者や現場のリーダーであれば、
知識として理解しておく必要がある視点でもあります。
善意を守るために、線引きが必要
注意喚起を書くことは、
職員を責めることではありません。
むしろ、
- 本当に守りたい善意を
- 不適切な行為から守る
ために必要です。
線引きがあるからこそ、
善意は信頼されます。
まとめ
優しさは、磨くことで力になる
「ダメ」と言ってしまった自分を、
責めすぎる必要はありません。
そこには、
- 守りたい気持ち
- 痛い思いをさせたくない思い
があったはずです。
だからこそ、
- 言葉を少し磨く
- チームで共有する
- 不適切な線を越えない
この積み重ねが、
ご利用者・職員・家族・第三者
誰の耳にも安心して届くケアをつくります。
そこに優しさがあるのなら、
ぜひ、制止で終わらせないでください。
言葉を変えることで、
ケアはもっと深く、
チームはもっと強くなります。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。
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