※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
本記事では、認知症ケアに本当に必要なのは“技術”より“思い”であることを伝えています。
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認知症ケアとは
厚生労働省は『認知症ケアの理念』として
『認知症のために見失われがちなその人の尊厳、個性、可能性、求めている事(願い、希望)を見出して、本人がその人らしい生(生命、生活、人生)をまっとうできるよう支えていく』
と述べています。
(出典:厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」より)。
また『認知症ケア』について少し調べてみると
『認知症の方の尊厳を守りつつ、その人らしい生活を支えること』
とあります。
どうやら『認知症ケア』とは
- 認知症の方の尊厳を見出し守ること
- 認知症となっても、その人らしい生活(生命、人生)を支えること
でということであるようです。
こうした言葉を改めて読み解くと、認知症ケアが目指すものの輪郭がよりはっきりしてきます。
認知症の方は、記憶や判断力の低下により、自分の意思や希望をうまく表現できないことがあります。だからこそ、周囲がその人の内側にある「思い」に気づき、言葉にならない声を拾い上げることが求められます。
認知症ケアとは、その人の背景や価値観、生きてきた歴史を想像しながら、今この瞬間の“らしさ”を支える営みとも言えます。
表面的な行動だけに目を向けるのではなく、なぜそのような言動になるのかを丁寧に読み解こうとする姿勢が、まさに尊厳を支えることに繋がるのです。
認知症ケアを知る目的
実は、認知症ケアの知識や技術だけを習得しても、十分とは言えません。
大切なのは『目の前で困っている人を助けたい』という思いです。
つまり『より良い認知症ケア』だけを学んでも役に立ちません。
認知症ケアを行うためには、大前提として『目の前で困っている人を助けたい』という思いで動き出せる、ということが必要です。
そして『目の前の人が認知症だった時』に役立つ考え方や技術が、認知症ケアなのです。
認知症ケアは
- 認知症の方の困りごとにはどのような傾向があるか
- その困りごとに対応するには何を知っている必要があるか
- 認知症の方に接する時に気を付けたいこと
などを知ったうえで『目の前の人を支援する』というだけなので、多少の知識は必要かもしれませんが、深い専門性が無くても、相手のことを思いやる気持ちがあれば、認知症ケアは自然と身についていきます。
もちろん、最低限の知識や心構えを学んでおくことは、より良い支援に繋がるでしょう。
そしてこの“思い”による関わりは、支援する私たち自身にも大きな意味をもたらします。
「思い」が原点となるケアは、日々の関わりの中で深まっていくものです。最初は戸惑いや不安があっても「この人の不安を和らげたい」「少しでも落ち着いて過ごしてほしい」と感じた時、すでにその人はケアの担い手です。
また“ケアする側”であっても、相手の笑顔や「ありがとう」の言葉で励まされ、癒される場面も多くあります。思いを持って関わることで、支援する私たち自身も報われるという、双方向のやりとりが生まれるのです。
それが、技術だけでは得られない認知症ケアの魅力でもあります。
「困っている人を助けたい」という気持ちは、場所を問わず誰もが持つことのできる力です。
認知症ケアも、その気持ちを具体的な行動に変える手助けをする“道具”のひとつに過ぎません。
たとえば「話しかけ方に迷ったとき」「手を貸すか見守るか判断に悩んだとき」などに、ケアの知識が自然と役立ちます。
認知症ケアはあくまで手段
さらに『認知症ケア』について調べてみると、認知症ケアのポイントとして
- 相手のペースに合わせて見守る
- 相手が理解しやすい言葉で簡潔に話す
- 失敗や間違った言動を責めない
- 孤独にさせない
- プライドを傷つけない
- 目線を合わせて、笑顔、敬語で接し、褒める、謝る態度を見せる
- 相手に興味を向ける
などがといった文言が出てきます。
これらは、介護施設でケアを提供する際に、間違いなく重要な要素です。
ですがそれと同時に感じるのは
『誰かと関わろうとする時、これらを意識するのは当然ではないか』
『認知症の方と関わるからといって、特別に意識することではない』
という事です。
認知症ケアとは『目の前で困っている人が認知症だった場合、その困りごとを解決するための手段の1つ』に過ぎず、認知症ケアを提供すること自体が目的になることはありません。
認知症ケアとは、特別な技術も専門的な知識も必要ではなく、困っている誰かを思いやる気持ちがあれば、自然と備わり養われるものです。
そしてその気持ちに従って行動し、その相手が認知症であった場合に、おのずとその行動が認知症ケアに近づいていく、というだけです。
認知症ケアは、介護職員だけでなく、ご家族や地域の方々も担い手の一人です。
家族介護の中で「どう接すればよいかわからない」と迷う時、また地域で困っている高齢者に出会った時にも、この「思い」を出発点に、温かい支援が始まることを願っています。
地域社会の中で、認知症の方が安心して暮らし続けられるためには「介護施設」や「専門職」だけではなく、そこに暮らす一人ひとりのまなざしや関わりが大切です。
近所の人がさりげなく声をかけたり、買い物先で店員さんが気を配ってくれたりすることも、立派なケアのひとつです。
そして何より、家族や周囲の人が「一人で抱え込まなくてもいい」と感じられる社会であることが重要です。
認知症ケアを“特別なこと”ではなく“誰かを思いやることの延長線上”として、もっと自然に語れるような空気を広げていく必要があると、私は思います。
どうか、恐れず、臆せず、困っている方に手を差し伸べてみてください。
あなたが介護のプロでなくても大丈夫です。
家族として、地域の一員として、あるいは施設職員として、それぞれの立場だからこその「小さな一歩」が、認知症の方にとっての安心に繋がります。
その一歩が、きっとあなたにも温かさや喜びを返してくれるはずです。
あなたの思いやりが、きっと誰かを救います。
ここにんでは、そんな「思いを行動に変える」ヒントをお届けしています。
詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!
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