コミュニケーションとは
コミュニケーションという言葉を知らない、聞いたことが無いという方は、おそらくいらっしゃらないでしょう。それくらい、なじみのある横文字の一つであるかと思います。
コミュニケーションとは『双方向のやり取り』『お互いに理解する』ことであり『相手に言ったけど反応がない』『聞いたけど返事をしない』『伝えたつもりだが違うことをやっていた』というのは、コミュニケーションが取れているとは言えないでしょう。
コミュニケーションとは一般的に『意思疎通』『伝達』という意味を持っています。
- 意思疎通:相互で同じ認識を持つ。互いの理解を深める
- 伝達:情報や意思を伝える
といったことが『コミュニケーション』には必要です。
この『コミュニケーション』の要件を考えた時に、難聴であったり、理解力が低下した高齢者の方との意思疎通がいかに難しいかということは言うまでもないでしょう。
介護という『人対人』の仕事、現場では『利用者様・入居者様とのコミュニケーション』『職員間でのコミュニケーション』の必要性が非常に高くなっています。
今回は『認知症によって理解力が低下した』の方とのコミュニケーションの工夫について、お伝えします。
加齢性難聴の方とのコミュニケーションの工夫については、下記の記事をご覧ください。
理解力の低下による、コミュニケーションの困難さとは
加齢性難聴との違い
加齢性難聴は、耳の中の変化と、聞いたものを脳に伝える神経の変化という『聞く能力』の低下によりコミュニケーションが困難になっている状態です。
一方で、認知症による理解力の低下によるコミュニケーションの困難さは、聞く能力に問題がなくとも、聞いたことを理解する――いわば『受け取る能力』に問題が生じていることでコミュニケーションが困難になっているのです。
つまり『聞こえない』と『理解できない』の違いであると言えるでしょう。
どうすれば『理解できるか』を考える
一方で、聞く能力が保たれているのであれば、多少理解力が低下していても、伝える事は決して難しくはありません。
認知症の方の脳が『受け止められる』ように伝えるにはどうすればよいか、これからお伝えするいくつかの方法が、そのヒントとなれば幸いです。
まずは挨拶から
認知症の方にとっては、たとえ毎日顔を合わせる職員であっても基本的には『毎回、初めて見る顔』だと考えた方が良いでしょう。更に、認知症の進行の度合いによっては、毎日顔を合わせる家族であっても『初めて会った見知らぬ誰か』になってしまうこともあります。
いきなり『知らない人』に話しかけられたら、誰であっても戸惑うと思います。認知症ではない私たちであっても『初対面の人(知らない人)』とスムーズに、笑顔で会話を始めることは難しいことです。
もしもそうなった場合、先ずは自分の名前を伝える事から始めるのではないでしょうか。
認知症の方とコミュニケーションを始めるときの基本は
- 相手の名字をさん付けで呼び
- こちらを認識したことを確認し
- 微笑みながら自分の名前を名乗る
という流れが基本になります。
つまり、認知症の有る無しに関わらず、コミュニケーションの最初の一手は、相手が誰であろうと一緒である、ということです。
相手に認識されてから始める
認知症を患っている方と話すとき『相手の名字を呼び、自分の名前を伝える』という手順を踏んでも、こちらの呼びかけに対して反応が無い、ということは決して珍しくはありません。
この現象は『自分が相手に認識されていない』ことが原因となっている場合が多いです。つまり
- 相手の名字をさん付けで呼び
- こちらを認識したことを確認し
- 微笑みながら自分の名前を名乗る
の②が欠如している状態であり、認知症の方からすると『どこかで呼ばれた』という認識でしかなく『呼んだ相手が、続けて自分に話しかけている』という連続性が途切れてしまっているため、①が終わった時点でコミュニケーションも終了してしまっているのです。
重要なことは、相手の視界に入り、相手の目を見て呼びかけ、視線を合わせながら『私は今からあなたと話したいと思っています』というメッセージを伝えながら、会話を開始することです。
単語数に注意する
コミュニケーションの基本としては『相手に伝わる言葉で伝える』ということがあります。
むやみに専門用語や横文字を並べて相手が理解しづらい会話を持ちかけることは、お世辞にも歩み寄っているとはいえず、むしろ相互理解を放棄しているといっても過言ではないでしょう。
そして、認知症の方とのコミュニケーションの基本として『相手に伝わる単語数で伝える』ということも重要です。
認知症が進行し、理解力が低下すると長文の理解が難しくなります。進行の程度にもよりますが『三単語以下』で話すことが出来ると、比較的伝わりやすいのではないでしょうか。
また、単語数を少なく伝えても、複数の動作が組み合わさった動作をスムーズに行うことが難しい、ということもしばしばあります。
動作を分解する
例えば椅子に座っている方に立ってもらいたい時に『立ってください』だけだと、中々通じない事があります。
そのような時は
- (膝がテーブルの外に出る程度まで)椅子を下げる
- 両足を引く
- お尻を座面の前方に移動する
- 上体を前傾にする
- 手をテーブルにつく
- (手を支えにして)お尻を上げる
というような流れが必要になります。『立つ』という一つの動作を行うために、これだけの手順を行わなければならないのです。
普段、何気なく行っている動作をこのように分解し、どうすれば認知症の方に分かりやすく伝え、安心して動いていただけるように伝えられるかを考えておくことが必要です。
また、このように動作を分解して考えることができると『認知症の方が、どの部分が苦手だからその動作自体が困難になってしまっているのか』を発見しやすくもなると思います。
質問の仕方で相手の真意に近づく
認知症の進行の程度によって質問方法を変えると、その方の真意を探ったり意思の確認を行いやすくなり、認知症ケアを提供する上で非常に重要な『その人らしさ』に近づくことができます。
オープンクエスチョン
答えの数が決まっていない『開かれた質問』のことです。
例えば『好きな食べ物は何ですか?』といった質問形式で、問われた方は、自分が思い浮かぶ好きなものの中から一つ以上を選び、伝える必要があります。
認知症の進行があまり進んでいない場合、このように選択肢を限定しない質問を投げかけた方が、よりその人が望む答えを導き出せるでしょう。
クローズドクエスチョン
『はい』か『いいえ』で答えられる『閉じた質問』のことです。
例えば『みかんは好きですか?』といった質問形式で、問われた方が答えられる選択肢は『はい』か『いいえ』のみです。
その人の真意や、その人が望む最も適切な答えに近づくには少々時間がかかるかもしれませんが、しかし質問の内容については明確な答えが得られるでしょう。
この質問は、認知症がある程度進行した方にも有効であり、認知症の方とコミュニケーションを取る、あるいは認知症の方の意思を確認しながら支援をしていく上では有効な質問方法です。
今回は主に、認知症の進行により理解力が低下し、コミュニケーションが取りづらい方の特徴や対応についてお伝えさせて頂きました。
『動作の分解』と『オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン』については、認知症ケアを提供する上では意識しなくてはならない『個別ケア』と『その人らしさの支援』という意味では、非常に重要な考え方となります。
このような技術を身に着けることで、自分の思い通りのことが伝えられない、自分の気持ちを発することが困難になってしまった方々の笑顔を取り戻すことが出来れば、こんなに嬉しいことはありません。
目の前の方を笑顔にするために、この記事をお役立ていただければ幸いです。
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