※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
「自分のために働くこと」は、決して利己的なことではなく、結果として職員・入居者・施設全体に好循環をもたらす考え方です。
この記事では、アダム・スミスの「見えざる手」の思想をもとに、介護リーダーにとっての自己利益の本質と、それを実現するために必要な自己覚知やチームづくりの視点について解説します。
【要点】
- 「自己利益=利己的」という誤解が整理できる
自己利益はお金や評価ではなく「自分が実現したい介護」であり、その視点がリーダーの行動の軸になることが分かります。 - 自己覚知がリーダーの質とチームの安定をつくる理由が分かる
自分の価値観や動機を自覚することで、判断や関わり方に一貫性が生まれ、チームの信頼や関係性が整うプロセスを整理します。 - 利己と利他が対立せず、現場に好循環を生む仕組みが理解できる
職員の働きやすさと入居者様の生活の質を整えることが、結果として自分の理想の介護を実現することにつながる構造を解説します。
【この記事で分かること】
・介護リーダーにとっての「自己利益」の本当の意味
・自己覚知がチーム運営や判断に与える影響
・利己と利他が対立せず、好循環を生む理由と考え方
・職員と入居者の両方を支えるためのリーダーの視点と役割
介護職・リーダーどちらにとっても、
「自分のために考えること」が結果として現場を良くしていく具体的なヒントが得られる内容です。
明日からの関わりや判断に、そのまま活かすことができます。
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
はじめに
「自分のために行動することが、結果として社会全体の利益につながる」
これは経済学者アダム・スミスが『国富論』の中で示した考え方です。
いわゆる「見えざる手」と呼ばれる概念であり、
個人が自分の利益を追求することで、結果的に全体の最適化が起こるというものです。
しかし、この考え方を介護の現場に持ち込むと、
多くの人が強い違和感を持つかもしれません。
「介護は人のための仕事なのに、自己利益を考えるなんておかしいのではないか」
そう感じるのも無理はありません。
ですが、結論から言えば――
介護リーダーこそ、自分の利益を考えるべきです。
なぜなら、その「自分の利益」が明確になるほど、
チームも、入居者様も、施設全体も良くなっていくからです。
この記事では、アダム・スミスの思想を手がかりに、
介護リーダーにとっての「自己利益」とは何か、
そして、それがどのように現場に好循環を生み出すのかを解説します。
介護リーダーにとっての「自己利益」とは何か
まず整理しておきたいのは「自己利益」という言葉の捉え方です。
ここでいう自己利益とは、
・お金
・地位
・評価
といった表面的なものではありません。
自己利益とは「自分が実現したい介護」である
介護リーダーにとっての自己利益とは、
「自分が実現したい介護」そのものです。
たとえば、
・入居者様が安心して暮らせる環境をつくりたい
・職員同士が支え合えるチームをつくりたい
・事故が少なく、穏やかな日常を守りたい
こうした思いがあるはずです。
そして、それは決して特別なものではありません。
この思いこそが、リーダーとしての行動の原動力になります。
ここで重要になるのが「自己覚知」です。
自己覚知がすべての出発点になる
自己覚知とは、
自分の価値観・動機・感情・思考のクセに気づいている状態
のことです。
つまり、
「自分はなぜリーダーをしているのか」
「何を実現したいのか」
「どんな介護を理想としているのか」
これらを自覚しているかどうかです。
自己覚知が曖昧なリーダーに起こること
自己覚知が不十分な状態でリーダーを続けていると、
リーダーの言動にはブレが生まれ、
やがて現場には、少しずつ歪みが生まれてきます。
・日によって判断が変わる
・感情で指示を出してしまう
・職員への伝え方に一貫性がない
結果として、チームは混乱し、信頼は積み上がりません。
逆に、自己覚知ができているリーダーは、
・判断に軸がある
・言葉に一貫性がある
・迷った時の基準が明確
となり、自然と周囲からの信頼を得ていきます。
つまり、自己利益を追求するためには、まず自己覚知が必要なのです。
自己覚知は一度で終わるものではない
自己覚知は、一度考えれば終わるものではありません。
現場の状況や自分の立場が変われば、価値観や判断も揺らぎます。
だからこそ大切なのは、「定期的に立ち止まること」です。
忙しい日々の中でも、ふとした瞬間に自分の考えを振り返る習慣が、
リーダーとしての軸を育てていくことでしょう。
自分の利益を実現するには「他者」が不可欠
ここで重要な視点があります。
それは『自分の目指す介護は、一人では実現できない』ということです。
どれだけ理想があっても、現場はチームで動いています。
つまり、自分の利益を実現するためには、
・職員が働きやすいこと
・チームの関係性が良いこと
が前提になります。
さらに、
・入居者様の状態が安定していること
・日常生活が穏やかであること
も不可欠です。
自己利益と他者利益は対立しない
ここで見えてくるのが、
自己利益と他者利益は対立しない
という事実です。
むしろ、
他者を大切にすることが、自分の利益を実現する最短ルートになる
のです。
環境を整えることがリーダーの仕事
リーダーは「現場を動かす人」ではなく「現場が動きやすくなる環境を整える人」です。
直接すべてを解決しようとするほど、負担は大きくなり、チームの力も活かされません。
一人で抱え込むのではなく、周囲の力を引き出すことこそが、
結果的に最も効率的で、持続可能なリーダーシップになります。
両輪で考える:職員と入居者様
介護リーダーの役割は、大きく分けて2つの軸で考えることができます。
① 職員側の軸(働きやすさ・定着・関係性)
・安心して意見を言える環境
・適切な負担の分散
・コミュニケーションの質
これらが整うことで、
・離職率が下がる
・経験値が蓄積される
・チームの質が上がる
結果として、
自分の理想の介護が実現しやすくなります。
② 入居者様側の軸(生活の質・状態の安定)
・穏やかな生活
・尊厳のある関わり
・状態の維持・進行の緩和
これらが実現すると、
・トラブルや事故が減る
・ご家族の信頼が高まる
・施設全体の評価が上がる
そして最終的に、
リーダー自身の仕事が楽になります。
「見えざる手」は介護現場にも存在する
ここまで見てくると、アダム・スミスの考えが、
最初に思っていた『自己利益』とは違うと、気付き始めるのではないでしょうか。
自己利益を追求することが、
・職員の働きやすさを生み
・入居者様の生活の質を高め
・チーム全体の質を底上げする
これはまさに、
「見えざる手」が働いている状態です。
重要なのは、
「自分のためだけに動く」のではなく、
「自分の理想を実現するために必要なことを考え抜く」ことです。
その結果として、周囲も良くなっていくのです。
本当の利己心とは何か
ここで誤解してはいけないのは、
「自己利益=わがまま」ではないということです。
本当の利己心とは『自分の理想を実現するために、必要な環境を整えること』です。
そしてその環境とは、
・職員が安心して働けること
・入居者様が穏やかに暮らせること
この2つで成り立っています。
つまり、
利己と利他は対立しないどころか、完全に一致するのです。
実践につなげるために
では、具体的に何から始めればよいのでしょうか。
まずは、以下の問いに答えてみてください。
セルフチェック(自己覚知)
□ 自分はどんな介護を実現したいのか
□ なぜリーダーをしているのか
□ どんなチームをつくりたいのか
□ そのために今、何が足りていないのか
□ 自分はどんな時にストレスやイライラを感じやすいか
□ その時、自分はどんな言動をとっているか
□ 「譲れないこと」と「柔軟に変えられること」は何か
□ 自分の強みは何か(現場・人間関係・判断力など)
□ 自分の弱みは何か(感情・伝え方・優先順位など)
□ 自分は職員にどのように見られていると思うか
□ 実際の自分と、理想のリーダー像にズレはないか
これが明確になると、
・職員への関わり方
・指導の仕方
・日々の判断
・チーム全体の雰囲気や関係性
・自分自身の感情の安定とストレスの受け止め方
すべてが変わってきます。
これらの問いに「明確な答え」はありません。
大切なのは、答えを得ることではなく、問い続けることです。
変化は「小さな積み重ね」から始まる
ここで考えたことは、すぐに完璧にできる必要はありません。
むしろ、少しずつで構いません。
大切なのは「意識して関わること」です。
その積み重ねが、やがて、
チームの空気を変え、
入居者様の生活を変え、
そして自分自身のリーダーとしての在り方を、変えていくのです。
おわりに
介護は「人のための仕事」と言われます。
それは間違いではありません。
しかし、
「自分のために何を実現したいのか」
この視点を持たなければ、リーダーとしての軸は定まりません。
そして、
自分の利益を追求した結果として、
・職員が働きやすくなり
・入居者様の生活の質が向上し
・施設全体が良くなっていく
これこそが、アダム・スミスのいう「見えざる手」です。
介護の現場にも、この原理は確かに存在しています。
だからこそ、
まずは自分のために考えてみてください。
それが結果として、誰かのためになり、
そして巡り巡って、また自分に返ってきます。
リーダーはもっと、自分のために動いていい。
この記事を読んで、
そう思ってもらえたら、とても嬉しく思います。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。
詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!
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