※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
認知症介護の専門性は、手を出しすぎない自立支援だけではありません。
たまに現れる甘えたい気持ちを見極め、安心を添える匙加減もまた、プロの大切な支援です。
【要点】
- 「甘えさせてしまっているのでは?」と感じる理由が分かる
自立支援が重視される介護文化や「手を出してはいけない」という職員・家族側の心理から、甘えを受け止めることへの戸惑いや罪悪感が生まれる背景を読み解きます。 - 甘えたい気持ちを支えることが生む“安心・自立・尊厳”の効果を解説
不安の軽減、拒否の減少、意欲の回復など、甘えを適切に受け止めることで起こる変化を、現場の具体例とともに整理し、感情論ではない介護技術としての価値を示します。 - 自立と安心を両立するための実践ポイントと、任せる/支える判断軸が分かる
「代わりにやらない」「途中まで一緒に行う」「今日だけの対応かを見極める」などの実践視点に加え、やり過ぎを防ぐための問いかけや“正解を固定しない”柔軟なケア判断の考え方を解説します。
【この記事で分かること】
・なぜ「甘えたい気持ち」を受け止めることが、尊厳保持につながるのか
・自立支援と過介助の間で迷わないための、現場での実践的な考え方
・状況に合わせて「任せる/支える」を選ぶための専門的な視点
家族介護・介護職のどちらにも役立つ、安心と自立を両立するケア判断が、すぐに実践できる内容です。
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
はじめに
認知症介護の現場では、
「自立支援」という言葉が、ときに私たちを迷わせます。
認知症介護では
「手を出しすぎないこと」
「出来る部分は任せること」
「自立支援を意識すること」
が、専門性として語られることが多くあります。
それは間違いではありません。
むしろ、とても大切な視点です。
しかし一方で、現場で長く認知症の方と関わっていると、こんな瞬間に出会うことがあります。
- 今日は、いつもより不安そう
- 本当は自分で出来るけれど、誰かに頼りたい表情をしている
- 少し甘えたい、支えてほしい気持ちが伝わってくる
そんな時でも、
「自立支援だから」「出来るから任せる」
と離れて見守り、本人にやってもらうことが、本当にその人のためなのでしょうか。
この記事では、手を出しすぎない専門性と、甘えたい気持ちを受け止める支援。
その両立について考えていきます。
認知症介護で語られる「自立支援」の重要性
自立支援とは、単に「何でも自分でやってもらう」ことではありません。
- 残っている能力を活かす
- 出来ることを奪わない
- 成功体験を積み重ねる
- 能力が失われることを防ぐ
- 自尊心を守る
こうした目的があります。
過度に手を出してしまうと、本来できたはずの行動が減り、
「やらなくても誰かがやってくれる」
という状態を作ってしまいます。
これは結果的に、
本人の力を奪い、
介護量を増やし、
自信や意欲を失わせることにもつながります。
だからこそ、
『出来ることはやっていただく』『見守ることも支援』
という考え方は、認知症介護の基本であり、専門性の一つです。
それでも、人は「甘えたい」存在である
ただし、忘れてはいけないことがあります。
認知症があっても、人は人です。
不安な日もあれば、心細い日もあります。
「今日は誰かに頼りたい」――そう感じる日があって、当然です。
特に認知症の方は、
・状況理解が難しい
・見通しが立ちにくい
・環境変化に弱い
という特性があります。
その結果、理由のはっきりしない不安や焦燥感を抱えやすくなります。
そんなときに現れるのが、甘えたいというサインです。
それは決して「怠け」でも「わがまま」でもありません。
安心を求める、自然な感情表現なのです。
甘えを受け止めることは「過介助」なのか
ここで多くの介護職員が悩みます。
「手伝ったら、甘やかしになるのでは?」
「自立支援に反するのでは?」
「やり過ぎてしまうのでは?」
確かに、無条件に何でもやってしまう介護は、過介助につながります。
しかし、
甘えたい気持ちを汲み取り、やり過ぎない程度に手を貸すこと
これは過介助とは本質的に異なります。
それは、
「代わりにやる」のではなく
「一緒にやる」
「安心を添える」
という支援です。
この判断こそ、マニュアルでは測れない
プロの専門性だと言えます。
「任せる」と「支える」の境界線
認知症介護の難しさは、常にこの境界線にあります。
- 任せるべきか
- 支えるべきか
- 今日はどちらが適切か
この判断は、日々変わります。
だからこそ、
「いつも自立支援」でも
「いつも手伝う」でもなく、
その日の本人の状態を見極める力が必要です。
例えば、
- 表情が硬い
- 声が小さい
- 動きがぎこちない
- 何度も確認する
- 立ち止まる時間が長い
こうしたサインがある日は、
「今日は少し不安が強い日かもしれない」
と考えることができます。
そんなときに、
『そっと手を添える』
『声をかけながら一緒に行う』
という支援は、本人の心を安定させます。
現場と家族、両方にある「甘えたい気持ち」と向き合うということ
認知症介護の現場では、
「普段はできているのに、今日はできないと言う」
「途中で手が止まり、こちらを見てくる」
といった場面によく出会います。
例えば、いつもは一人で更衣ができる方が、
ある日は服を手に持ったまま立ち止まり、
「できない」「手伝って」と訴えることがあります。
その姿を見たとき、
「本当はできるのに」「自立支援だから」
と声をかけて離れることも、一つの選択肢ではあります。
「できない」の裏側に目を向ける
しかし、そこで少し立ち止まり、
「今日は何か不安があるのかもしれない」
「疲れがたまっているのかもしれない」
と考えることも、専門職としての大切な視点です。
そっと袖に手を通すのを手伝い、
「ここまで一緒にやりましょうか」
と声をかけるだけで、
その後は自分で動き出せることも少なくありません。
それは“代わりにやった”のではなく、
安心を添えた結果、力が引き出された状態です。
家族介護における「甘えさせてしまう不安」
同じような葛藤は、家族介護の場面でも起こります。
「甘えさせてしまっていいのだろうか」
「自立を妨げていないだろうか」
そう悩みながら、支援をしている家族は少なくありません。
だからこそ、介護職が
「今日は甘えてもいい日だったのかもしれませんね」
「全部やったわけではなく、途中まで支えただけですよ」
と伝えることには、大きな意味があります。
それは家族にとって、
「やってしまった」という後悔ではなく、
「支えられた」という安心に変わる瞬間でもあります。
甘えたい気持ちを支える支援は、
本人だけでなく、
家族の心をも支える関わりでもあるのです。
甘えを受け止めることで生まれる変化
適切な匙加減で甘えを受け止めると、
次のような変化が起こります。
- 表情が和らぐ
- 不安が軽減する
- ケアへの拒否が減る
- 職員への信頼が深まる
- 次は自分でやろうとする意欲が戻る
これは、
「やってあげたから依存が強くなる」
のではなく、
「安心したから、また自分でやれる」
という好循環です。
人は、安心できる場所があるからこそ、自立しようとします。
受け止めるときに、支援者が自分に問いかけたいこと
甘えたい気持ちを受け止める支援は、
とても大切である一方、
やり過ぎてしまえば過介助につながる可能性もあります。
だからこそ、
その場その場で自分自身に問いかける視点が重要になります。
例えば、次のような問いです。
- 今の支援は、本人の「安心」のためか、それとも自分の「効率」のためか
- 手を貸したあと、本人の表情や動きはどう変わったか
- 全部をやったのか、それとも途中まで一緒にやったのか
- 今日だけの対応なのか、明日も同じ支援が必要なのか
- 手を貸さなかった場合、本人はどう感じただろうか
こうした問いを持つことで、
支援は無意識の「やってあげる介護」から、
意図を持った「支える介護」へと変わっていきます。
大切なのは、
正解を一つに決めないことです。
「正解」を固定しない支援の考え方
今日の正解が、明日の正解とは限りません。
同じ人でも、時間や状況によって必要な支援は変わります。
だからこそ『自立支援か、甘えの受容か』という二択ではなく、
その間にある「揺らぎ」を許容できること。
その揺らぎを考え続けられること自体が、
認知症介護における専門性なのではないでしょうか。
甘えを受け止めることも「見守る支援」の一部
見守る支援とは、何もしないことではありません。
- 見ている
- 感じ取っている
- 必要なときに介入する
そのすべてを含みます。
「今日は手を貸す」
「明日は任せる」
その判断を日々繰り返すことが、認知症介護の本質ではないでしょうか。
それができるのは、
本人をよく知り、
関係性を築き、
観察を重ねているプロだからこそです。
まとめ
認知症介護の専門性とは「手を出さないこと」だけではありません。
- 自立を支える力
- 見守る力
- 甘えたい気持ちを受け止める力
そのすべてを、状況に応じて使い分けることです。
手を出しすぎない自立支援と
心を満たす支援は、
決して矛盾しません。
むしろ、その両立こそが、
認知症介護における、本当のプロフェッショナルなのだと思います。
たまに甘えたい。
そんな気持ちに気づき、そっと手を差し伸べられる支援。
それができる現場は、
きっと本人にとっても、
支援する側にとっても、
温かい場所になるはずです。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。
詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!
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