認知症の初期にこそ必要な「歯科受診」という選択肢
「最近、物忘れが増えた気がする」
「認知症かもしれないと医師に言われた」
「親の様子が、以前と少し違う気がする」
そんなとき、多くの人は真っ先に病院や介護の相談を思い浮かべるのではないでしょうか。
でも、もしあなたやご家族が“認知症の始まりかもしれない”と感じたとき、ぜひ忘れないでいただきたいのが——
「まず歯科治療を受けておく」という選択肢です。
ちょっと意外に思えるかもしれませんが、実は認知症と歯科の関係には深い意味があります。
この記事では、なぜ認知症の初期に歯科治療を受けた方が良いのか、その理由とメリットを詳しくお伝えいたします。
認知症が進むと歯科治療が難しくなる理由とは?
認知症がある方に対して歯科治療が非常に難しくなることは、医療や介護の現場ではよく知られている事実です。具体的には、以下のような課題が出てきます。
- 口を開けていられない
- 治療の説明を理解できず、不安や拒否が強まる
- 仮に治療剤を使っても、後で異物だと感じて自分で取ってしまう
- 義歯を作ろうとしても、型取りや調整が困難
つまり、認知症が進行すると、治療を完了できないケースが増えてしまうのです。結果として、虫歯が放置されたり、歯が抜けたままになったり、噛むことができなくなったりします。
認知症の進行で口腔ケアが難しくなる4つの場面
歯科治療だけではありません。認知症が進行すると、日常的な口腔ケア(歯磨きやうがい)も難しくなることが多いのです。
- 歯ブラシを嫌がる
- 口を開けてくれない
- 理解できずパニックになる
- 歯ブラシを凶器と思い込み、介助に抵抗する
たとえ家族や介護職員が丁寧にケアをしようとしても、本人が受け入れてくださらなければ、口腔内の衛生は保てません。
口の中のトラブルが、生活の質(QOL)を下げる
口腔状態の悪化がもたらす影響は、見た目や痛みだけではありません。
実は、食事、会話、健康のあらゆる面に影響します。
食べられない=楽しみが減る・栄養不足に
噛めない、痛みで食べられないといった状態が続けば、食欲低下や低栄養のリスクに繋がります。
特に高齢者にとって「食べること」は大きな楽しみであり、失われるとうつ状態や活動量の低下も引き起こしてしまいます。
口の中の細菌が肺に入ると危険!
口腔ケアが不十分になると、虫歯や歯周病菌などの細菌が口の中に増殖します。そして、これらの細菌を含んだ唾液が誤って気管に入り込むと、誤嚥性肺炎を引き起こす危険があります。
実際、誤嚥性肺炎は高齢者の入院・死亡原因の一つとされており、日本老年歯科医学会や国立長寿医療研究センターも、口腔ケアの重要性を強調しています。
参考:van der Maarel-Wierink et al., Oral health care and aspiration pneumonia in frail older people: a systematic literature review (J Am Geriatr Soc. 2013)
BPSD悪化の原因が虫歯? 痛みが引き起こす行動変化に注意
虫歯が進行して痛みが出ても、認知症の方はそれをうまく伝えられません。不快感や不安を「不穏」「暴力」「拒否」などの形で表現することもあります。にもかかわらず、治療には非協力的になる…という悪循環が起こりやすくなります。
だからこそ「今のうちに」歯科へ
ここまでご紹介してきたように、認知症が進行すると、歯科治療も日常の口腔ケアも難しくなり、結果として「食べる」「話す」「笑う」といった日常の楽しみが失われてしまうことがあります。
だからこそ「今のうちに歯科を受診する」ことがとても大切なのです。
まだ説明が理解できる
本人が不安を感じずに治療を受けられるうちに、虫歯の治療や義歯の作成を済ませておくことができます。
定期受診の習慣化が可能
「かかりつけ歯科医」を持つことで、将来的なトラブルの予防や相談がしやすくなります。
食べることを守ることは、生きることを守ること
歯がしっかりしていれば、おいしく食べて、楽しく話して、生きる喜びが保たれます。それは、その人らしい生活の継続につながります。
歯科医との連携も忘れずに
最近では、認知症に理解のある歯科医や訪問診療を行う歯科医院も増えてきました。かかりつけ医やケアマネジャーに相談しながら、本人が安心できる歯科との関係を作っておくことも大切です。
まとめ:口から食べることを、最後まで守るために
認知症は、誰にでも起こりうる身近なテーマです。だからこそ、本人も家族も「どう備えるか」がとても重要です。
病院での検査、介護の準備、生活の見直し…その中に「歯科でのチェック」もぜひ加えてみてはいかがでしょうか。
口から食べること、笑うこと、話すこと。
それは人生の大切な喜びであり、最期まで守りたい尊厳です。
認知症かな?と思ったら、ぜひまず歯医者さんにも相談してみてください。
それが、これからの“よりよく生きる”準備の第一歩になるかもしれません。
今できることを一つずつ整えていくことが、将来の自分や家族を守ることに繋がります――歯の健康について見直すことも、その大切な一歩のひとつです。
認知症と診断される前でも、診断された直後でも、歯科との連携を意識してみてください。
きっとそれが、あなた自身の――そして、あなたの大切な人の暮らしを、より良いものにしてくれるはずです。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさんを発信しています。
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