はじめに
認知症の方と関わる中で
「ちゃんと対応しているはずなのに、なぜか余計に落ち着かなくなる」
「声をかければかけるほど、不安そうになったり、怒り出したりする」
そんな経験をしたことがない介護職は、ほとんどいないのではないでしょうか。
・優しく声をかけている
・経験上うまくいく“いつもの対応”をしている
・相手の困りごとを先回りして解決しようとしている
それでも、結果として認知症の方が落ち着かなくなってしまう。
このとき、多くの職員はこう感じます。
「どうすればよかったんだろう」
「また失敗したのかな」
「自分には向いていないのかもしれない」
しかし、ここで一つ大切な視点があります。
それは「対応しているつもり」と「伝わっているかどうか」は、まったく別の問題だということです。
この記事では
✔ なぜ“正しく対応しているつもり”でも落ち着かなくなるのか
✔ 介護現場で起きているすれ違いの構造
✔ 職員が少し意識を変えるだけで起こる変化
について、現場目線で丁寧に掘り下げていきます。
「落ち着かなくなる原因」は、職員の“悪意”ではない
まず最初に、はっきりさせておきたいことがあります。
認知症の方が落ち着かなくなる原因のほとんどは、
職員の性格が悪いからでも、能力が低いからでもありません。
むしろ多くの場合、
・真面目
・責任感が強い
・「何とかしなければ」と思っている
そんな職員ほど、この状況に陥りやすいのです。
なぜなら、認知症ケアでは
「良かれと思ってやったこと」が、逆に負担になる
という現象が、非常に起こりやすいからです。
原因① 繰り返しの対応で、感情が無意識に伝わってしまう
何度も対応することで生まれる「またか…」という感情
認知症の方は、同じ質問や行動を繰り返します。
それは「わざと」でも「困らせたいから」でもありません。
・記憶が保持できない
・今の状況を理解し続けられない
ただそれだけのことです。
しかし、職員も人間です。
どれだけ理解していても、心のどこかで
「さっき言ったのに」
「また同じことを聞いている」
という感情が生まれてしまいます。
この感情は、たとえ言葉として表れなくても
✔ 声のトーン
✔ 表情
✔ 間の取り方
✔ 視線
として、確実に相手に伝わります。
認知症の方は、言葉の意味よりも感情や雰囲気を感じ取る力が残っていることが多いため、
「責められている」
「迷惑がられている」
という感覚だけが強く残ってしまうのです。
原因② 先回りしすぎて、余計な情報を与えてしまう
経験があるからこそ起こる“先読みの罠”
介護職は、経験を積むほど
「この後、こうなるだろう」
「きっと次はこれを言うだろう」
と予測できるようになります。
しかし、その予測をもとに
・説明を一気にしてしまう
・まだ起きていないことまで話してしまう
・不安を感じる前に解決しようとしてしまう
こうした関わりが、逆に混乱の引き金になることがあります。
例
「今からトイレに行きますよ。終わったらお茶飲んで、そのあとお部屋に戻って休みましょうね」
職員側は親切心のつもりですが、
認知症の方にとっては
・情報が多すぎる
・時間の流れが理解できない
・次々に場面が変わるイメージが浮かんでしまう
結果として、
「何をされるのかわからない」
「ついていけない」
という不安だけが残ります。
原因③ 言葉の量が、脳の処理能力を超えている
認知症になると、
「聞いた情報を処理する力」や「保持する力」が低下します。
それにもかかわらず、私たちは無意識に
・説明しすぎる
・理由を丁寧に話しすぎる
・一度に複数の指示を出す
という関わりをしてしまいます。
一度に一つ、が守られていない
「まず立って、次にこちらに来て、それから椅子に座ってください」
健常な人には問題ない言葉でも、
認知症の方には
「どこまで聞けばいいのかわからない言葉」になります。
結果として
✔ 途中で止まる
✔ 不安そうな表情になる
✔ イライラする
✔ 「嫌だ」と拒否する
という反応につながっていきます。
原因④ 「正しさ」を優先しすぎてしまう
介護現場では、
・転倒予防
・スケジュール
・手順
など、守るべきことがたくさんあります。
しかし、その“正しさ”が前に出すぎると、
認知症の方の世界とズレが生じます。
本人の「意味」より、職員の「都合」になっていないか
・なぜ今それをするのか
・本人にとっての納得感はあるか
これらが置き去りになると、認知症の方は
「わからないことを押し付けられている」
と感じてしまいます。
原因⑤ 声・表情・動作が“脅威”として伝わる
認知症の方は、
✔ 急な動き
✔ 強い声
✔ 無言での接近
に強い不安を感じることがあります。
職員は急いでいるだけであっても、
本人にとっては
「何をされるかわからない恐怖」
になることがあるのです。
原因⑥ 介助が“作業”になってしまっている
忙しい現場では、どうしても介助が流れ作業になります。
しかし、
✔ 触れ方
✔ 立ち位置
✔ 目線
が機械的になると、
認知症の方は
「自分が人として扱われていない」
と感じ、不穏になることがあります。
原因⑦ 「早く落ち着いてほしい」という焦りが伝わる
これはとても大切なポイントです。
職員が
「早く落ち着かせなければ」
「この場面を収めなければ」
と思えば思うほど、その焦りは伝わります。
認知症の方は、
職員の“内面の状態”にとても敏感です。
では、どうすればよいのか
ここまで読むと、
「じゃあ何もできないじゃないか」
と思うかもしれません。
でも、そうではありません。
大切なのは「減らす」こと
・言葉を減らす
・情報を減らす
・先回りを減らす
・結果を求めすぎない
これだけで、驚くほど反応が変わることがあります。
伝える前に「今、この人は何を感じているか」を考える
正しいかどうかより、安心できているかどうか。
認知症ケアでは「落ち着いてもらうこと」そのものが目的ではなく、
落ち着ける関係性をつくることが大切なのです。
家族介護にも共通する視点
このテーマは、家族介護にもそのまま当てはまります。
・何度も同じことを言ってしまう
・先回りして全部やってしまう
・正しいことを伝えようとしすぎる
それが、かえって本人を不安にさせていることもあります。
おわりに
「対応しているつもりなのに、うまくいかない」
それは、介護職として真剣に向き合っている証拠です。
だからこそ「もっと頑張る」ではなく
「少し力を抜く」
「伝え方を見直す」
という方向に、視点を変えてみてください。
認知症の方が落ち着く瞬間は、
技術ではなく“伝わった瞬間”に訪れます。
その一瞬を増やすために、
みなさんの関わりが、少しだけ変わるきっかけになれば嬉しいです。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。
詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!
参考記事

コメント