※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
認知症の家族介護で「助けてが届かない」と感じる苦しさは、決して、あなたのせいではありません。
制度の限界を理解しながら、少しでも気持ちが軽くなる選択肢を一緒に見つけていけることをお伝えします。
【要点】
- 介護保険制度は非常に複雑で、家族が理解できなくて当然であること
仕組みや専門用語が多く、初めての人が迷うのは自然なことであり、家族が悪いわけではない。 - 支援サービスには限界があり「助けて」がすぐ届かない構造が存在すること
夜間対応の不足やショートステイの使いづらさ、行政・医療との連携不足など、家族の努力だけでは超えられない壁がある。 - 制度や支援を上手に利用し、気持ちを軽くするための具体的な選択肢があること
ケアマネや行政窓口の使い方、医療との関わり方、そして自分を守る心理的な工夫まで、家族が一人で抱えないための方法が見つかる。
【この記事で分かること】
・なぜ制度がわかりにくいのか、その理由と背景
・夜間の見守りやショートステイなど、サービスの限界と実情
・困った時に使える『現実的な選択肢』が具体的に分かる
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
はじめに
「もう限界です」「誰に助けを求めればいいかわからない」。
在宅で認知症の親を介護している家族から、何度も聞いてきた言葉です。
介護保険制度があって、ケアマネジャーがいて、地域包括支援センターもある。
一見、支援は“充実している”ように見えます。
しかし現実には「助けて」と声をあげたのに助けが届かない。
そのギャップに苦しむ家族が少なくありません。
制度が悪いわけでも、家族が悪いわけでもありません。
けれど、制度の“限界”があることは事実で、そこに挟まれて苦しんでいる人がたくさんいます。
本記事では、制度や支援の仕組みをわかりやすく解説しつつ、
「こんなに困っているのに、なぜ助けが届かないのか」
その“痛み”に寄り添いながら、一歩前に進める視点も示したいと思います。
なぜこんなに“わかりにくい”? 介護保険制度の壁
「説明を聞いても、よくわからない」
「何から始めればいいのか…」
——これは家族の典型的な声です。
制度自体が複雑で、初めての人ほど迷いやすい
介護保険は「要介護度」「区分支給限度額」「自己負担割合」「ケアプラン」「多職種連携」など、専門用語だらけです。
“失敗できない状況”で突然この世界に放り込まれるのですから、混乱して当然です。
しかも、認知症が進むにつれて必要なサービスは変化します。
「最初に理解して終わり」ではなく、常にアップデートが必要な制度なのです。
わからなくて当たり前。あなたのせいではない
「制度を理解できない自分が悪い」
「もっと勉強しなきゃ」
そんなふうに自分を責める必要はまったくありません。
専門職ですら迷うほど、複雑なのです。
家族にとって難しく感じるのは“自然な反応”です。
どう乗り越える?
- ケアマネに「よくわからないので、もっと噛み砕いて説明してほしい」と素直に伝える
- 年に何度か、介護保険全体を“定期的に振り返る”時間をつくる
- 地域包括支援センターに「制度の全体像だけ教えてほしい」と相談してみる
あなたが理解できていないから悪い、ではなく、制度が複雑すぎるのです。
サービスには“限界”がある。夜間・ショートステイに届かない支援
「夜だけでも見てほしい」
「仕事の日だけ預かってくれたら…」
——そう感じたことはありませんか?
家族が最も疲弊しやすいのは、夜間対応と突発的な変化への対応です。
しかし、ここは制度の“盲点”とも言える部分です。
夜間の見守りは手薄になりがち
訪問介護は原則、夜間に長時間の見守りはできません。
ヘルパーが泊まり込むような支援も制度上は想定されていません。
「夜中の徘徊が心配で眠れない」
「トイレ介助で1〜2時間おきに起きている」
こうした“夜の負担”が蓄積し、介護者の体も心も限界に近づいていきます。
ショートステイは本来「休息のため」なのに
ショートステイは介護者の休息のための制度ですが、
- 空きがない
- 直前は受けられない
- 特に認知症の方は断られることもある
など「使いたいときに使えない」ことが多々あります。
これでは、家族の疲労は回復できません。
サービスの限界は“あなたの責任”ではない
「もっと早く予約すればよかった」
「認知症があるから断られるのは仕方ない」
そうやって自分を責める必要はありません。
むしろ、使いにくい制度側の問題でもあるのです。
ではどうする? 現場からの実践的アドバイス
- 普段からショートステイを“定期利用”して枠を確保しておく
- ケアマネに「夜間に困っている」を強調し、できる限り夜の負担を軽減するサービスを組んでもらう
- 自治体にある独自サービス(夜間対応型、地域支援事業)を確認する
- いざという時に備えて“2〜3ヶ所”のショートステイを候補にしておく
家族の限界と制度の限界は、必ずしも一致しません。
だからこそ“引き出しの数”を増やしておくことが大切です。
行政・病院との連携が取りにくい現実
認知症の介護では、病院や行政との連携は欠かせません。
しかし現実には、ここでも大きな壁が立ちはだかります。
誰に相談すればいいかわからない
「病院に言うべき? ケアマネ? 役所?」
相談窓口が多いほど、かえって迷いやすくなります。
また、認知症は心身の変化が複雑で、どの専門職も万能ではありません。
だからこそ、家族が適切な窓口にたどりつけないまま悩むことが多いのです。
医療と介護は“別のシステム”
介護は都道府県や市町村。医療は病院。
それぞれ動き方が違うため、
「病院は“治療”、介護は“生活支援”」という役割のズレが連携の障害になります。
入院しても、退院した瞬間から“介護の現実”が戻ってくる──
このギャップに、家族が取り残されてしまうのです。
連携不足で家族の負担が増える
- 入院前と同じサービスが使えなくなる
- 退院直後に生活が不安定になる
- 病院からの説明が難しく理解できない
- 行政に相談しても「まずケアマネへ」とたらい回し
「こんなに困っているのに、誰もつながってくれない」
そんな絶望感を覚える家族は少なくありません。
どう乗り越える?
- ケアマネを“連絡のつなぎ役”としてフル活用する
- 退院前カンファレンスには必ず参加し、不安をすべて言語化する
- 役所には「どの窓口に相談すればいいか」を最初に尋ねる
- 医師には“医療のこと”だけでなく「介護の困りごと」も遠慮なく伝える
あなたが悪いのではなく、
システムに“つながりにくさ”があることが問題なのです。
苦しいのは我慢しなくていい。あなたが悪いわけじゃない
制度に限界があるからこそ、家族が追い詰められやすいのは当然です。
「こんなに頑張っているのに報われない」
「怒ってしまった…自分は最低だ」
「助けてと言っても誰も動いてくれない」
そんな気持ちになるのは、とても自然な反応です。
あなたが悪いのではありません。
あなたが弱いのでもありません。
制度の限界と、介護の現実が重なったとき、誰でも苦しくなるのです。
少しでも楽になるための“選択肢”を増やそう
制度の限界があるからこそ、
「使えるものをどう組み合わせるか」
という発想が大切になります。
ここでは実際に“使える選択肢”を整理します。
ケアマネジャーの頼り方
- 遠慮なく「今のプランがしんどい」と伝える
- 相談の要点を書き出して渡すと連携が進みやすい
- 家族のストレスや限界も“サービス調整の理由”になる
行政の相談窓口
- 地域包括支援センター
- 認知症地域支援推進員
- 自治体独自の家族支援サービス
- 認知症カフェ・家族会
「相談したからといってすぐ解決」ではなくても、
“つながり”を作ること自体が大きな支えになります。
医療とのつながり方
- 受診時に“生活で困っていること”をメモで伝える
- 主治医に「家族の限界」を共有すると支援につながりやすい
- 病院のソーシャルワーカーに早めに相談
自分を守る選択
- 罪悪感を持たずにショートステイを使う
- 限界を迎える前に、月1回は休息日をつくる
- 家族だけで抱えず、外部に頼ることを“介護技術の一つ”と捉える
- 罪悪感が強いときは「それでも私は頑張っている」と言葉にする
介護は“一人で背負わないほうがうまくいく”ケースがほとんどです。
おわりに
制度は万能ではなく、現場には限界があります。
だからこそ、家族が苦しみを抱え込むのは当然であり、誰のせいでもありません。
あなたが感じている
「助けてが届かない…」という痛みは、決して“わがまま”ではありません。
あなたの苦しさは、あなた一人で抱えなければいけないわけではありません。
言葉にしてくれたこと、ここまで頑張ってきたこと、そのすべてに価値があります。
そして、苦しいのは我慢しなくていい。
使える制度も、相談先も、あなたの味方になれる選択肢は必ずあります。
あなたが少しでも楽になるように──。
この記事が、そうした一歩につながれば嬉しく思います。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさんを発信しています。
詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!
参考記事

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