※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
この第3回では、在宅で認知症介護をしている家族が直面しやすい“人間関係の揺らぎ”に焦点を当てています。
収入・職場・きょうだい関係・地域・友人関係──。
表に出しづらい悩みだからこそ「あなたは悪くない」「つらさは我慢しなくていい」というメッセージを中心に、自分を守りながら介護を続けるためのヒントを届けることが目的です。
【要点】
- 認知症介護は、人間関係を静かに揺らす
家族介護には、孤立、収入の減少、きょうだい間の温度差、地域や友人との関係悪化など、多面的な“つながりの崩れ”が起こりやすい。 - 苦しさは、あなたの弱さではない
怒り、嫌気、孤独、悲しみ──どれも自然な反応であり、あなたのせいではない。責任感が強い人ほど負担を抱え込みやすく、つらさを表に出せなくなってしまう。 - 人間関係が揺らいだときこそ「支援を受ける力」が必要
ケアマネ・地域包括・デイやショートなど、ピンポイント支援で負担は確実に減る。「全部を背負わない」ための選択肢を知ることが、あなたの生活と心を守る。
【この記事で分かること】
この記事を読むことで、次のポイントが理解できます。
・認知症介護で起こりやすい人間関係のつまずきの具体例
・そのつらさ・怒り・孤独が自然であり正当な感情であること
・地域との関係を改善するための説明・専門職の介入・支援者の役割
・人間関係の疲弊を防ぐために使える、制度・サービス・相談窓口
家族介護・介護職のどちらでも、安心と安全を守るケア判断がすぐに実践できる内容です。
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
はじめに:誰にも言えない「しんどさ」がある
在宅で認知症の親を支える家族が直面する悩みの中でも「人間関係の崩れ」はもっとも表に出しにくいテーマです。
収入の減少、孤立、きょうだいとの温度差、地域との摩擦、友人との疎遠──
こうした問題は、介護そのもの以上に家族を追い詰め、時に「なぜ私だけ?」という感情を深く残します。
この記事では、家族介護者が抱えやすい人間関係のつまずきについて“寄り添いながら、否定せず、そして少しだけ光が差すように”お伝えします。
「苦しいのは我慢しなくていい」「怒ってしまっても、あなたが悪いわけじゃない」──そんなメッセージを込めています。
収入が減る・仕事を辞めることへの葛藤
「仕事を続けたいのに続けられない」という現実
認知症の介護はどこかのタイミングで突然、気が休まる時間が無くなることがあります。
通院、夜間の見守り、徘徊対応、急な体調変化……。
その結果、多くの家族が減収や離職を選ばざるを得なくなります。
「介護を理由に職場で迷惑をかけたくない」
「仕事と介護の両立が難しすぎる」
「キャリアを諦める自分を責めてしまう」
こうした気持ちは、多くのご家族が抱えています。
けれど、ここで一つだけ強くお伝えしたいのは――
あなたは“怠けたから”離職を選んだのではないということ。
これは愛情からくる、やむを得ない決断です。
小さな選択肢が人生を守ることもある
・介護休業制度
・短時間勤務
・地域包括支援センターでの相談
・ケアマネを通してデイサービスやショートステイの活用
・訪問介護のピンポイント利用
「全部を背負わないための工夫」は、実はたくさんあります。
仕事を辞める前に一度、専門職に相談してみてください。
“あなたの生活を守ること”も、立派な介護の一部なのです。
うまく言えない孤独 ―― 「誰も分かってくれない」
孤立は、気づかぬうちに心を削る
家族介護が続くと、外に出ること自体が難しくなります。
気づいたら1日中誰とも話していない──そんな状態になる方も少なくありません。
「誰にも言えない」
「言ったところで理解されない」
「弱音を吐いたら負けた気がする」
そう感じてしまうのは、とても自然なことです。
しかし、孤立は知らないうちに心をすり減らし、
本来なら抱えなくていい罪悪感や焦りを増幅させてしまいます。
“心の安全地帯”を一つだけでも持てると変わる
・同じ経験をしている人のオンラインコミュニティ
・地域包括支援センター
・家族会
・ケアマネへの本音相談
全部話せなくてもいいんです。
抱えている多くの苦しみの、1つだけでも吐き出せる場所を作ってください。
それだけでも、あなたの心は確実に軽くなります。
きょうだいとの温度差 ―― 「なぜ私ばっかり?」
感情が一番こじれやすい関係
きょうだいがいても、介護の負担は必ずしも均等ではありません。
「兄は口だけ」
「遠方だからって全部任せっきり」
「私だって仕事も子育てもあるのに」
こうした不満や怒りは、介護が長期化すると爆発しやすくなります。
家族だからこその悩みもある
きょうだいの中には、
「どう関わればいいかわからない」
「母を見たら泣きそうで、直視できない」
という人もいます。
それは“冷たい”からではなく、向き合う力や余裕がないだけのことも多いのです。
距離があるきょうだいに伝えやすい方法
・感情ではなく、事実を伝える(例:「夜間の徘徊が週3回ある」など)
・できることを具体的に依頼する(例:月に1回の通院付き添い)
・LINEグループで情報共有
・役割を「時間」「お金」「気持ち」に分けて提案する
完璧な分担はできなくても「関わりの形」は変えられます。
あなた一人で背負い続ける必要はありません。
近隣・地域との関係悪化 ―― 誤解されるつらさ
“迷惑をかけていないか”という恐れ
認知症の症状によっては、
・夜間の大声
・徘徊
・誤った訪問
などで、ご近所とのトラブルやヒヤリとする場面が起こります。
「また迷惑をかけてしまった」
「地域で白い目で見られている気がする」
こうした恐れは、ご家族にとって深い痛みとなります。
地域との関係は「説明」と「味方」で変わる
・民生委員、地域包括支援センターを間に挟む
・「認知症サポーター講座」など、地域の理解向上の場を利用
・ご近所への簡単な説明(可能な範囲で)
あなた一人で全てを抱え込む必要はありません。
誤解が「理解」に変わるだけで、それまで生活していた地域は、大きな支えになってくれるでしょう。
誰にとっても、介護は他人事ではありません。
住み慣れた地域であるからこそ、支えあうことが出来る部分も多いのではないでしょうか。
友人関係の断絶 ―― 楽しみを失う悲しさ
「誘ってもらえなくなる」現実
外出が減り、時間の余裕がなくなると、気がつけば友人からの誘いが減っていることもあります。
「悪気がないのは分かるけど、心が追い付かない」
「会いたいのに会いに行けない」
この“喪失感”は、介護する家族が抱えやすい見えない痛みです。
関係をつなぎ直すための工夫
・短時間の電話だけでつながる日を作る
・近況をLINEで少しだけ送る
・「今は余裕がないけど、また会いたい」とだけ伝える
・ケアマネやヘルパーが入る時間を“自分の時間”に充てる
あなたが笑顔を取り戻すことは、介護の質にもつながります。
つながりを“切る”のではなく“細く保つ”だけで十分です。
苦しさも、辛さも、怒りも、当然の感情です
介護による人間関係の崩れは、あなたが弱いから起きるのではありません。
「責任感が強すぎる」「優しすぎる」「抱え込んでしまう」
そんな人ほど、深く悩んでしまうのです。
どうか覚えておいてください。
あなたのつらさは本物で、あなたの怒りも本物です。
そして、そのどれもが“間違っていない”のです。
こういう方法もあります ―― あなた自身を守るために
ここからは、今日から使える「人間関係で壊れないための具体策」です。
ケアマネへの本音相談
遠慮せず「もう無理」「限界」と言って大丈夫です。
支援するあなたが支援を受けることが、在宅生活を継続していくために最も必要なことです。
ケアマネは、在宅介護の最前線で家族の心を支えるプロです。
制度の“ピンポイント”活用
・ショートステイ
・デイサービス
・訪問介護
・訪問看護
・認知症対応型通所介護
負担の大きい“1〜2時間”を外部が担うだけで、心は一気に軽くなります。
相談窓口の活用
・地域包括支援センター
・自治体の介護相談窓口
・家族会
「一度話してみる」だけで、道が拓けることがあります。
罪悪感を手放す言葉かけ
「これは私の責任じゃない」
「助けてもらうのも介護」
「自分を守るのも大切な仕事」
この3つを、どうか心のどこかに置いておいてください。
おわりに:あなたは一人じゃない
介護によって人間関係が揺らいだとき、
多くの人が「誰にもわかってもらえない」と感じます。
でも、この記事を読んでくださったあなたは、
すでに一歩「自分を守る方向」に踏み出しています。
介護は、誰か一人が背負うものではありません。
あなたの心が壊れてしまわないよう、
どうか周りを頼りながら、あなた自身の生活も大切にしてください。
あなたのつらさは、ちゃんとここにあります。
そして、あなたは今日も、本当によく頑張っています。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさんを発信しています。
詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!
参考記事


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