人体構造を利用した介助 ~運動連鎖で考える介護技術~

職員教育・自己成長
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※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。

ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。

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📝 この記事の要約

【この記事で伝えたいこと】

介助とは、動かすことではなく「動けるように支えること」です。
この記事では、運動連鎖という人体の仕組みをもとに、少ない力で行う介助技術と、過剰な介助が生むリスク、自立支援につながる関わり方について解説します。


【要点】

  1. 介助の差は“力”ではなく“構造と見方”で生まれる
    運動連鎖(キネティックチェーン)を理解することで、少ない力で安全に介助できる理由が分かります。
  2. 体位変換・起き上がり・立ち上がりを少ない力で行う具体的方法が分かる
    膝→骨盤、肩甲骨→体幹、重心移動といった人体の連動を活かした実践的な介助技術を解説します。
  3. 「やってあげる介護」から「動ける介助」へ視点が変わるる
    過剰な介助が身体機能に与える影響と、利用者の力を引き出す自立支援の考え方が身につきます。

【この記事で分かること】

・運動連鎖(キネティックチェーン)を活かした介助の基本的な考え方
・過剰な介助が身体機能に与える影響とそのリスク
・利用者の力を引き出し、自立支援につなげる介助の視点

現場の介護職から家族介護まで、明日からの関わり方が変わる“見方”と“技術”が身につく内容です。

※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。

はじめに

なぜベテランは少ない力で介助できるのか

介護の現場で、こんな場面を見ることがあります。

ご利用者の介助の後、ある職員は

「重い…」
「腰が痛い…」

と苦労しているのに対して

別の職員は、同じご利用者の介助を

難なくこなしている

ということです。

介助の差は“力”ではない

これは単純に、力の差ではありません。

違いの多くは『体の構造を理解しているかどうか』です。

人の体は、単独で動くのではなく連動して動く構造になっています。

この仕組みを理解すると

  • 体位変換
  • 起き上がり
  • 立ち上がり

といった介助が、驚くほど少ない力で行えるようになります。

この記事で分かること

この記事では、人体の動きの仕組みである

運動連鎖(キネティックチェーン)

をもとに、介護技術を考えていきます。

人体は連動して動く

運動連鎖(キネティックチェーン)

人の体は

・神経
・筋肉
・関節
・骨格

が連動して動いています。

これを『運動連鎖(キネティックチェーン)』と呼びます。

例えば手を前に出す時、動いているのは腕だけではありません。

実際には

  • 肩甲骨
  • 背骨
  • 骨盤
  • 下半身

まで連動しています。

つまり、一部分を動かすと、体全体が連動して動く、ということです。

この仕組みを利用すると、介助の方法は大きく変わります。

力で持ち上げるのではなく『体の構造を利用して動いてもらう』という考え方になります。

肩甲骨と骨盤は「体を動かすハンドル」

介護技術を理解するうえで、とても重要な考え方があります。

それは

肩甲骨と骨盤は
体を動かすハンドル

という考え方です。

人の体は

  • 肩甲骨
  • 骨盤

を動かすと、体幹が連動して動きます。

つまり、体を動かすときは

  • 腕を引く
  • 腰を持ち上げる

のではなく

肩甲骨や骨盤を操作する

方が、はるかに自然に動くのです。

すべての介助に応用できる視点

この視点は

体位変換
起き上がり
立ち上がり

すべての介助に応用できます。

膝 → 骨盤

膝を押すと腰が浮く理由

体位変換やおむつ交換の時、腰を持ち上げようとしていませんか?

これは、介助する側の腰を壊す原因になりやすい方法です。

ここで重要になるのが

膝 → 骨盤の運動連鎖

です。

膝を曲げると、骨盤が回転します。

つまり、膝を操作すると骨盤が動くということです。

この仕組みを使うと、腰を持ち上げなくても、体位変換ができます。

例:おむつ交換

NGの方法

腰を持ち上げる

→重い
→腰痛の原因

改善方法

①膝を曲げる
②膝を軽く倒す
③骨盤が回旋する

すると、自然に横向きになります。

力はほとんど必要ありません。

肩甲骨 → 体幹

起き上がり介助

起き上がりの介助でよくある方法は『腕を引く』というものです。

しかしこれは

  • 利用者の肩に負担
  • 職員の腰に負担

がかかりやすい方法です。

ここで使えるのが、肩甲骨 → 体幹の運動連鎖です。

肩甲骨は、体幹と強く連動しています。

つまり、肩甲骨を動かすと、体幹が回旋します。

起き上がり介助

①肩甲骨に手を添える
②軽く前方へ誘導
③体幹が回旋する

すると自然に、上半身が起き上がります。

ポイントは『引き上げないこと』です。

誘導するだけで、体は動きます。

回旋

人は回ることで起き上がる

人が起き上がる動きは、実は真っ直ぐではありません。

必ず『回旋』が入ります。

例えば、ベッドから起きる時。

多くの人は

①横向き
②体を回す
③起き上がる

という動きをしています。

これは、人の体にとって『最も自然な動き』だからです。

介助でも、この動きを再現することが重要です。

重心移動

立ち上がり介助

立ち上がり介助で、よくある失敗があります。

それは『持ち上げようとすること』です。

しかし立ち上がりは、持ち上げる動きではありません。

本来は『重心移動』です。

流れは

①体を前に倒す
②重心が足に移る
③立ち上がる

です。

つまり重要なのは『前傾』です。

前に重心が移ると、体は自然に立ち上がります。

なぜこの技術が現場で使われづらいのか

ここまで読んで「なるほど、理屈は分かる」と、感じた方も多いと思います。

しかし実際の現場では、こうした介助が十分に実践されているとは言えません。

なぜでしょうか。

力で介助することが当たり前になっている

その理由の一つは『力で介助することが当たり前になっている』からです。

忙しい現場では

・早く終わらせる
・確実に動かす
・失敗しない

ことが優先されやすくなります。

その結果

「持ち上げた方が早い」
「引っ張った方が確実」

という選択が積み重なり

それが“当たり前のやり方”として定着していきます。

そのやり方が生むリスク

しかしそのやり方は

・職員の腰を痛める
・利用者の身体に負担をかける
・介助量を増やしてしまう

という結果につながります。

介助の本来の目的とは

本来、介助とは、楽に動かしてあげることではなく『楽に動けるように支えること』ではないでしょうか。

そのためには

力ではなく構造を見る視点が必要になります。

「やってあげる介護」が動きを奪う

もう一つの大きな理由があります。

それは『やってあげる介護』です。

例えば

・起き上がりを全て引き上げる
・立ち上がりを持ち上げる
・体位変換を全部やってしまう

こうした関わりは、一見すると“優しさ”のように見えます。

しかし実際には、本人の持っている力を使う機会を奪っている可能性があります。

使わない機能は低下していく

人の体は、使わなければ使わないほど、機能が低下していきます。

つまり、過剰な介助は

できることをできなくしてしまう

ことにもつながりかねないのです。

運動連鎖を活かすことが自立支援になる

一方で、運動連鎖を活かした介助は

・本人の動きを引き出す
・残っている力を活かす
・自然な動きを支える

という関わりになります。

これは単なる技術ではなく、自立支援そのものです。

介護場面での実践

ここでは、実際の現場で使える、声かけと介助方法を紹介します。

体位変換

・声かけ

「膝を少し曲げましょう」
「ゆっくり横を向きますね」

・方法

①膝を曲げる
②膝を軽く倒す
③骨盤が回旋する

・ポイント

腰を持ち上げない

起き上がり

・声かけ

「横を向きますね」
「腕で少し支えてみましょう」

・方法

①肩甲骨に手を添える
②体幹を回旋
③腕で支えて起きる

立ち上がり

・声かけ

「少し前に体を倒しましょう」
「足に体重を乗せます」

・方法

①前傾
②重心移動
③立ち上がり

・ポイント

持ち上げない

視点が変わると介助が変わる

ここで一つ、とても重要な視点があります。

それは

「どこを動かすか」ではなく
「どこをきっかけに動くか」

という考え方です。

動きの『起点』を変える

例えば、体位変換であれば

「腰を動かす」のではなく
「膝をきっかけに骨盤を動かす」

起き上がりであれば

「上半身を起こす」のではなく
「肩甲骨をきっかけに体幹を動かす」

立ち上がりであれば

「持ち上げる」のではなく
「重心を前に移す」

このように

動きの“起点”を変えるだけで
介助の質は大きく変わります。

利用者の体の見え方が変わる

そしてこの視点を持つと

利用者の体の見え方が変わります。

・どこが動いていないのか
・どこを動かせば連動するのか
・どこが“ハンドル”なのか

が見えるようになります。

できる人がやっている「共通点」

少ない力で介助できる人には、共通点があります。

それは、動きを見ていることです。

・筋力ではなく動き
・結果ではなく過程
・できるかできないかではなく、どう動いているか

を見ています。

例えば

「立てない人」ではなく

「前に重心が移っていない人」

と捉えます。

この違いはとても大きく、関わり方そのものを変えます。

そしてこの視点は、経験年数ではなく

理解で身につくものです。

介助は力ではなく構造

介護は、力の仕事ではありません。

そして、技術だけの仕事でもありません。

その人の体の仕組みを理解し、その人の動きを引き出す仕事です。

だからこそ

「どうすれば楽に動けるか」

ではなく

「どうすれば自然に動けるか」

を考えることが大切です。

運動連鎖という考え方は、そのための一つの“見方”です。

この視点を持つことで、日々の介助は、きっと少しずつ変わっていきます。

介助は『技術』であり『視点』でもあります。

技術だけでは続きません。
視点だけでも変わりません。

ですがこの2つが重なったとき、介助は初めて

「楽に」「安全に」「その人らしく」

行えるようになります。

まとめ

介助は力ではなく構造

介護技術は、力ではありません。

重要なのは、人体の構造を理解することです。

体は

  • 運動連鎖
  • 重心移動
  • 回旋

によって動きます。

そして、体を動かすハンドルは『肩甲骨と骨盤』です。

この視点を持つと、介助は大きく変わります。

  • 力に頼らない
  • 腰を守れる
  • 利用者の負担も減る

それが『人体構造を利用した介助』です。

ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさん発信しています。

詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!

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