※この記事は、認知症グループホームで10年以上勤務し、現在は管理者として働く筆者が執筆しています。
ご本人・ご家族・介護職員、それぞれの立場をふまえたケアの視点をお届けします。
【この記事で伝えたいこと】
認知症介護においては、どんな選択よりも、あなた自身が疲れ果てて倒れてしまわないことが何よりも大切です。
今は、無理に答えを出さなくても大丈夫です。
その迷いそのものが、親を大切に思ってきた証なのです。
【要点】
- 迷うのは自然なこと
不安や葛藤は、親を大切に思っているからこそ生まれるものです。その感情を否定する必要はありません。 - 介護は一人で抱えなくていい
支援や制度を使うことは『逃げ』ではなく、大切な選択です。施設・医療・相談先は、家族を守るために存在しています。 - 今すぐ決めなくても大丈夫
立ち止まること、頼ることも含めて、どの選択も間違いではありません。迷い続けた時間そのものが、親への愛情の証なのです。
【この記事で分かること】
・施設の利用を考えることは、親を見放す行為ではない
・介護中に感じる怒りや限界は『人として普通の反応』である
・認知症介護において、未来は一気に決めなくてもよい
・相談できる支援先や選択肢は、思っている以上にある
・どの選択も、誠実に考えたものであれば『正しい選択』になり得る
※詳しい説明・根拠・事例は、このあと本文でやさしく解説します。
はじめに
親の認知症介護を続けていると「この先どうなるのだろう」「自分はどう生きていけばいいのだろう」と、答えのない問いに押しつぶされそうになる時があります。
つい数年前まで元気で笑っていた親が、少しずつ変わっていく――その現実を受け止めながら、仕事や家事、自分の人生まで抱え込んでいる家族介護者の方たちは、本当に大きな負担の中で頑張っています。
ここでは、未来への不安(施設入所への迷い・親の死への向き合い方)をテーマに、揺れる気持ちに寄り添いながら『あなたが壊れないための選択』を考えていきます。
施設入所を考えることは「見放すこと」ではない
預けるのがかわいそう…その『罪悪感』はとても自然な感情
親を施設に預けることを考えた時、最初に押し寄せてくるのは「申し訳なさ」「裏切るような気持ち」かもしれません。
- 「まだ家で見られるんじゃないか」
- 「本当は家にいたいだろうに」
- 「私が楽になりたいだけじゃないか」
こうした罪悪感は、多くの家族が一度は抱える、とても『自然な揺れ』です。
感情は正しい・間違いでは測れません。
湧いてくる気持ちは、そのままでいいのです。
施設入所は『家族を守るための支援策』のひとつ
介護保険制度では、在宅も施設も「家族介護者を潰さないための仕組み」として設計されています。
施設入所は「逃げ」でも「投げ出し」でもありません。
あなたが壊れてしまう前に、より多くの人の手を借りて支える――それは立派な『選択』です。
グループホームや特養では、24時間態勢で複数の職員が支えています。
家族が同じことを一人で続けるのは、そもそも不可能なのです。
「私が全部やらなくては」
という気持ちは、真面目で優しい人ほど抱きやすいもの。
でも、介護は1人で背負うべきものではありません。
入所を考えるタイミングの目安
介護者自身の状況も、入所を考える大切な基準です。
- 夜間の見守りで常に睡眠不足
- 仕事との両立が困難になっている
- 怒鳴ったり、手をあげそうになる自分が怖い
- 家族関係が悪化しはじめている
- 外出や息抜きが完全に奪われている
- 医療的ケアや24時間対応が必要になってきた
これらは「もう限界が近い」というサインです。
あなたの心と身体を守ることは、決して『わがまま』ではなく、介護を続ける上で必要な行為です。
親の「この先」を考える苦しさ
認知症の進行を想像するだけでつらくなる
これから親がどう変わっていくのか、どんな状態になるのか――考えたくなくても、ふとした瞬間に胸が締めつけられるような不安が襲ってくることがあります。
- 「この先、もっとわからなくなってしまうのか」
- 「体が弱ったらどうすればいいのか」
- 「食べられなくなったらどうなるのか」
未来を思い描くほど不安が大きくなるのは、ごく普通のことです。
むしろ「不安になるほど、あなたが親を大切にしている証拠」でもあります。
認知症の変化は「一歩ずつ」。急がなくていい
認知症は進行する病気ですが、そのペースは人によって大きく違います。
『今の状態』を見ながら『今必要なこと』を決めていけば大丈夫です。
未来を一気に見通そうとしなくていいのです。
これからの10年ではなく、まずは『今日と明日』を整える。
それで十分なのです。
親の「死」と向き合うことは、心が悪いわけではない
「もしもの時」を考えるのは、親を大切に思うから
親の死を考えることに、強い罪悪感を抱く方も少なくありません。
- 「死を望んでいるみたいで嫌だ」
- 「考えたくないのに、ふとよぎってしまう」
でも実は、終末期や看取りを想像することは、親を大切に思っているからこそ生まれる“自然な思考”です。
むしろ備えておくことで、いざという時に慌てなくて済む『親のための準備』にもなります。
『親を思う気持ち』と『自分を守りたい気持ち』は矛盾しない
看取り期をどう過ごすか、最期をどう迎えたいか――
これは本来、親本人が望む形を尊重しつつ、家族が無理なく支えられる方法を選ぶことが大切です。
あなたが無理をしすぎて、共倒れになる必要はありません。
最期の時間を「介護の戦い」で終えるのではなく、
「少しでも穏やかに過ごす」ために、医療・施設・在宅サービスなど、いろんな選択肢を使っていいのです。
苦しい気持ちは我慢しなくていい
怒ってしまう日があっていい
介護中に怒鳴ってしまったり、冷たくしてしまったりすると、
- 「親にひどいことを言ってしまった」
- 「私は最低だ」
と自分を責めてしまう人も多いです。
でも、24時間近く緊張した生活を続けていれば、誰でも限界を迎えます。
感情があふれるのは、人として当たり前です。
あなたが悪いわけではありません。
責める必要も、恥じる必要もありません。
「助けて」と言えるのは弱さではなく、強さ
ケアマネ、地域包括支援センター、家族、友人、医療者、施設――
頼れる先は、思っているよりたくさんあります。
頼ることは、弱さではありません。
『自分を守るための大事な行為』です。
選択肢があることを知るだけで、未来は少し軽くなる
相談できる場所・使える支援の例
記事の最後に、いくつかの選択肢をまとめておきます。
ひとつでも「使えるかも」と思えるものがあれば、それだけで未来は少し明るくなります。
- ケアマネジャーに“本音”を話す
→ 施設見学・ショートステイ活用・在宅サービスの組み合わせ - 地域包括支援センターへ相談
- 家族会やオンラインコミュニティ
- グループホーム・特養の事前登録や見学
- 医師に現状を相談(BPSD、睡眠、薬の調整)
- レスパイト入院の相談
- 仕事との両立について職場への相談
「相談していいの?」と感じるかもしれませんが、もちろん大丈夫です。
むしろ、そうした相談を受けるのは彼らの『仕事』です。
あなたが選ぶ道の“間違い”はない
介護は「どの選択が完全に正しいか」がわからない世界です。
だからこそ、多くの家族が迷い、揺れ、悩み続けます。
でも――
あなたが親を思って悩んだ時間そのものが、すでに“親への深い愛情”なのです。
- 預けてもいい
- 在宅でもいい
- 休んでもいい
- 相談していい
- 泣いてもいい
- 怒ってしまってもいい
あなたが『自分を守る選択』をしても、それは親を見捨てることにはなりません。
むしろ、あなたが健康でいることこそが、親にとっての安心であり支えです。
おわりに
未来を考えると怖くなるのは、あなたが弱いからではありません。
それだけ親を大切に思っているからです。
ひとりで抱え込まず、誰かに支えてもらいながら、
少しずつ、少しずつで大丈夫。
介護をしながらの生活は、今までのリズムや速度とは違うかもしれません。
もしかしたら、時折、その速度を上げなければいけないタイミングもあるかも知れません。
でも、無理をして速度を上げ続けても、いつかは止まって休憩することが必要になります。
在宅での介護は本当は、あなたにとって無理がない速度で良いんです。
そして、相手の事を考えた末であればどの選択も、
あなたの誠実さがにじむ『正しい選択』になるのです
今、答えを出さなくても大丈夫
もしかしたら、この記事を読み終えた今も、
不安や迷いがすぐに消えるわけではないかもしれません。
それでいいのです。
介護の苦しさは、「分かった瞬間に軽くなる」ものではなく、
誰かと分かち合えた時に、少しずつ和らいでいくものだからです。
今日、すべては決められないかもしれません。
今夜、答えは出ないかもしれません。
明日もまた、同じ気持ちで揺れるかもしれません。
でも、あなたはもう、十分に考え、十分に悩み、それでも前に進もうとしてきました。
この先も、立ち止まる日があっていい。
誰かに、頼る日があっていい。
「今日は何もしない」と決める日があってもいいのです。
忘れないでほしい、たったひとつのこと
介護の中で一番大切なのは、
親を支え続けることではなく、あなたが壊れないことです。
あなたが息を整えられる場所は、必ずあります。
あなたの苦しさを、そのまま受け止めてくれる人も、必ずいます。
どうか今日は、
「私は、もう十分やっている」
そう心の中で、そっとつぶやいてみてください。
それだけで、今日は十分です。
ここにんでは、認知症介護を”楽にする”ためのヒントとなるような考え方、技術をたくさんを発信しています。
詳しくは ➡【はじめての方へ ここにんってどんなブログ?】をご覧ください!
参考記事

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